考察+α

『超幻想郷級のダンガンロンパ』の考察を書きました。検索避け設定は解除しました。

超幻想郷級のダンガンロンパ・二章考察(中編)

 

※注意。先にこちらをお読みください。

前編

https://genronkousatu.hatenadiary.com/entry/2022/03/30/202213

 

07

てゐ「妹紅。さっきのルーミアの姿を見て、何か思う所は無かったの?」
妹紅「……」
てゐ「チルノが死んだっていうのに、いつまで意味もなく隠し事を続けてんのさ。刺されても抉られても死なないあんたが、たかだか一妖怪が行おうとしている〈追放〉がそんなに怖い?」
早苗「ゆ、紫さんがたかだか一妖怪?」
紫「あら、辛辣ですわね」
妹紅「……」
てゐ「――私が竹林でのんびり暮らしていたら、最初に姫様達が勝手に住みだして、その後であんたが姫様を追ってきて、慧音があんたを心配するようになって、月が二つ浮かんだ日に霊夢達がやってきた」
妹紅「……そうだったな」
てゐ「何千何万回と姫様を殺したあんたと、私自身は直接喧嘩したことは一度もないけど、あんたが延々としらばっくれるつもりなら。藤原妹紅――その根性、私が叩き直してやるよ」
妹紅「叩き直す? もう、千年以上生きてるんだぞ? 今更直せる部分はないと思うがな。体の組織構造だって、まともな人間とは違うんだ。もう普通の人間のようには生きられない」
てゐ「本当かね。慧音や霊夢と出会ってから、あんたはすっかり人が変わっちまったように見えるけど。いーや、それ以前からあんたはずっと『成長』し続けているよ。あんたも、姫様も、同じ速度で、同じくらいに」
妹紅「……あいつと一緒にするな」
てゐ「あんたを『治す』ことなら永琳の研究にでも任せるしかないけど、今何かを間違っているかもしれないあんたを『直す』ことなら、私達にも出来るだろうさ」
早苗(あの、霊夢さん――)
霊夢(静かに。今はてゐに任せましょう)
てゐ「妹紅。あんたはDAY06になってから、いくつもミスを起こしてるんだ。なんかのテレビゲームだったら、とっくに残機はなくなってるよ」
妹紅「そうなのか? だったら聞かせて欲しいな。そのミスってやつを」
てゐ「オッケー。じゃあ、一番わかりやすい所からいくよ。あんたが銃殺されたのはチルノの死体が見つかった後だね?
妹紅「ああ」
てゐ「それなら、モノクマファイルの記述におかしい所がある。比較のために、文のファイルも見せるよ」

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妹紅「? これはもう何度も精査してるだろ?」
てゐ「そうだね。内容はひとまず置いといて、ファイルの番号を見て欲しいんだよ。文のファイルが①番、妹紅のファイルが②番、チルノのファイルが③番だね。チルノが殺されたのが二番目で、妹紅が殺されたのが三番目なら、ファイルの順番が逆のはずだよ――妹紅もそう思わない?」
妹紅「ふん。私とチルノのファイルが、似たタイミングで作られただけだろ。くだらない」
てゐ「他にもあるよ? あんたさ、アナウンスの後に『既に誰かが死体を見つけた』ことに驚いてたみたいだけど、私が知ってるあんたなら、『死者が出たことそのもの』に驚くと思うんだよね。それじゃまるで『死んだのは自分のことだから、驚くことではない』って感じの言い方だ」

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妹紅「……」
てゐ「まだあるよ。妹紅ってさ、確か『誰も見ていないし、怪しい音を何も聞いていない』って言ってたよね?
妹紅「うん。言ったな」

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てゐ「妹紅は銃殺されたんだよ? 銃から出るガスの音や、弾丸が生む衝撃波の音は、当然ながら大音量だ。これを聞いていないのはおかしいんじゃないの?」
妹紅「聞いてない物は仕方ないだろ。お前達だってそんな音を聞いていないんだろ? だったら、おかしいところなんてないさ」
てゐ「次の根拠。0時頃、BARで一人飲んでいたあんたは、霊夢とスーパーマーケットの前でバッタリ会ったんだよね? 部屋に戻ろうとしていた時に
妹紅「ああ」
てゐ「それもおかしいねえ。スーパーマーケットはBARよりも校舎寄りだ。つまり、一人酒をしてまっすぐ部屋に戻るつもりなら、校舎エリア側に歩けば回り道になる

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妹紅「スーパーマーケットが開いてるかも知れないと思ったから、ちょっと寄ってみただけだぞ? そもそも酒を飲んだ後の行動だ。そこまで責任を求められてもなあ」
てゐ「――まだしらばっくれるんだ。じゃあ聞くけど、あんたは撃たれてから、なんでしばらくの間起き上がらなかったの?

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妹紅「……」
てゐ「代わりに言ってあげようか? 妹紅の能力カードをよく読むとわかるんだけど――妹紅の能力に対する表記って『死んだらいつ生き返ることが出来るのか』が曖昧に書かれてるんだよね

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妹紅「……それが?」
てゐ「私は最初、『妹紅は死んだ直後に開かれる学級裁判の時に復活する』と勘違いしていた。でも実際は、死亡直後にでもすぐに動ける能力だった。実際に妹紅は、五分もしないうちに復活している。でも逆に言えば――そのまま死んだふりをしていれば、容疑者から完全に外れることが出来たわけさ」
妹紅「……」
てゐ「いつでも起きられるけど死んだふりを裁判開始まで続けていれば、『妹紅は自身の能力を使って、死亡後の工作が出来ない』とみんなに思わせることが出来る。しかもみんなが周囲にいなくなった後ならいくらでも動き回れるんだよね」
妹紅「なら、なんでそうしなかったんだ? 私はトラッシュルームに入ってきたみんなの前で起き上がったんだぞ? 例えてゐの言った通りの使い方が出来たとしても、実際にはそうしなかった。その後はみんなで私を監視していたわけだし、疑いの目を向けられる筋合いはない」
魔理沙「いや、疑ってたっていうか――」
早苗「あの、それは――」
妹紅「まあ、別に慣れてるからいいよ。そういう眼で見られるのは。昔からな」
てゐ「――お酒」
妹紅「は?」
てゐ「本当に飲んでたの?
妹紅「それは今話しただろ?」
てゐ「霊夢はね。チルノと出会った後に、紫とも会っているんだってさ。その時の紫はね、就寝前だから寝間着だったらしいんだ

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妹紅「……」
咲夜「――寝間着? それは、おかしいですね」
魔理沙「いくらなんでも客に寝間着で酒は出さないもんな。それに酒を出さない時は、BARには鍵が掛かってるはずだぜ。どうしてお前は0時まで酒を飲むことが出来たんだ?」

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てゐ「だよねー。妹紅にしたって、咄嗟の言いわけなんだから、そこで言質を取られても困るよね」
妹紅「そんなこと言われても、店が開いていたから飲んでいた、としか言えないな」
てゐ「はぁ?」
妹紅「私は一人で確かに飲んでいたんだ。それを今紫に聞いた所で、『捜査時間中に調べておけ』としか言われないだろうがな。こいし、23時以降にBARの中を確認したか?」
こいし「ううん? 見てないよ」
妹紅「そうだろ。だったら私はてゐの言い分を認めるわけにはいかない」
てゐ「……どんだけ往生際が悪いのさ、あんたは。じゃあそれはもういいさ。もう一つ聞くけど。あんたが撃たれた後に口から吐き出した弾丸。どうしてナズーリンの〈ダウジング〉に引っかからなかったの? さっきも話に出たけど、『今回の事件に関係ある証拠品』で検索したなら、銃弾だって検索に引っかからないとおかしいでしょ

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妹紅「――銃本体ならともかく、弾丸だぞ。引っかかるわけ無いだろう」
てゐ「それはおかしいねえ。『プレイヤーを射殺可能かつ、弾丸が証拠として残る凶器』は、〈リボルバー〉と〈セミオート〉の二種類あるんだよ? DDSルームに備え付けてある拳銃も含めれば三種類だ。弾丸から凶器の持ち主を特定出来る可能性が1%でもあるなら、証拠品として判定されないことは不自然さ」
妹紅「逆に聞くが、何故その弾丸は検索に引っかからなかった? そこを説明してほしい」
てゐ「それはね――あの時のあんたが、既に死んでいたからだよ
妹紅「!」
てゐ「それなら説明つくっしょ。だってプレイヤーは死んだら『物』になるんだよ? 例えば『机を破壊した斧』があったとして、『殺人に使われた斧の場所』で〈ダウジング〉したとしても、検索には引っかからないわけだ。例え方はあんまりよくないかも知れないけど、同じことさね」

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妹紅「へえ、ずいぶんと面白い意見だな。既に私は生者じゃなかったと?」
てゐ「――妹紅は捜査時間中にさとりに聞いていたらしいね。『証拠品はこれで全部なのか?』って。それってもしかして、口から吐き出した弾丸に対してうっかり聞いちゃったことなんじゃないの?

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妹紅「そんなこと知らない。貴重な証拠品なら、私はなんで自分から弾丸を見せたんだ?」
てゐ「自分自身が〈ダウジング〉に引っかかっちゃう事を懸念したからだよ。吐き出した弾丸と、『物』となった自分自身。合わせて二つ。この二つが証拠品として判定されてしまえば、妹紅からは二つの〈ダウジング〉の反応が出ることになる。恐らく妹紅が『物』として判定されるようになっても、妹紅の『体そのもの』がナズーリンの〈ダウジング〉に引っかかることはなかったと思うけどね。現に文の死体はダウジングに引っ掛からなかったし。文の死体発見位置には確かに反応があったみたいだけど、それは持っていた手帳が引っ掛かっただけのことだし」
妹紅「……」
てゐ「どう、私の話に何かおかしいところはある?」
妹紅「さあな」
てゐ「――オッケー。じゃあ、改めて一連の出来事を説明しようか。まず、あんたはDDSルームで極上の凶器の〈ナイフ〉を取得し、続いて〈暗視ゴーグル〉を取得した
早苗「〈暗視ゴーグル〉? トラッシュルームの手前に落ちてましたね」
てゐ「うん。最初の予定では、暗い場所での犯行を目論んでいたから取得したんだろうね」
早苗「まあ、犯行自体夜ですもんね」
てゐ「この二つだけでも十分なのに、更にあんたは欲をかいて、三つ目の極上の凶器を取得しようとしたんだ。〈マスターキー〉をね。だがあんたはDDSルームのボーナスルールを使い切ったことで、3/6の確率を引いて死んじゃったんだよ。ロシアンルーレットで――賭けに失敗した

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ナズーリン「ふむ。しかしチャレンジに失敗して頭部を撃ち抜かれれば、相当量の血液がDDSルーム内に散ってしまうはずだが?」
てゐ「そう。だから保険として、テーブルクロスで頭部を覆った状態でロシアンルーレットにチャレンジしたのさ。そしてテーブルクロスは、DDSルームとも凄く近い校舎エリアの男子トイレに捨てた
妹紅「……」
てゐ「その後、あんたは23:45頃に倉庫にいたチルノに会いに行った。ゴミ袋をいくつか携えてね。チルノが一人で作業をしていたことは、あんたも知っていた。あんたはチルノに、こんな風に相談したんだと思う。『諸事情でメダルを使い切ったから、ゴミ捨てを手伝って欲しい』って」
妹紅「……」
てゐ「チルノはあんたを信用していた。そしてチルノ自身も飾り付けにずいぶんメダルを使ってしまっていた。だからチルノは『私が残りのメダル全てを使ってトラッシュルームを使うことになっても構わない』。そう考えたんだ。そうしてあんたは、チルノと同時にトラッシュルームのシャッターを潜った。死者のあんたならチルノと一緒にシャッターを通過出来るからね」
妹紅「チルノだって私が死体だとわかれば驚くだろう。その時私はどんな言いわけをしたんだ?」
てゐ「どうだろ? 適当に説明したんじゃないの? チルノは妹紅を信頼してたみたいだし」
妹紅「……」
てゐ「そして予定通りあんたはトラッシュルームの最奥で――チルノを〈ナイフ〉で刺殺した
妹紅「……いや……私は」
てゐ「なに?」
妹紅「なんでもない。続けてくれ」
てゐ「――チルノを正面から刺殺したあんたは、当然返り血を浴びることになる。だからまず服を脱ぎ捨て、入念に身体の血を拭き取った。そして新しい服に着替えたんだ。妹紅が持参したゴミ袋の中には、偽装のためのゴミだけでなく、新品の服も入ってたんだ」
妹紅「……服?」
てゐ「そうさ。それに着替えて部屋に移動することになるんだけど、その前にあんたはいくつかの物を焼却処分した。①DDSルームでのチャレンジ失敗時に血に塗れた服、②チルノ殺害時に血に塗れた服、③その他諸々で発生したゴミ。こんな所だね。これらを一度に、トラッシュルームの焼却炉で処分した」
咲夜「お待ちください、てゐさん。殺害に使われた〈ナイフ〉は処分しなかったのですか?
てゐ「ああ。もう少しだけ使い道があったからね。血を少し落としてから、懐にでも隠しておいたのさ」
咲夜「妹紅さんはその後どうなさったのですか?」
てゐ「後は簡単だよ。部屋に戻って、身体を洗い流したのさ。浴槽に最初から貯めておいたお湯でね。身体さえ綺麗にすれば、後はどうとでも裁判を乗り切れる。妹紅はそう考えたのさ」
魔理沙「お湯を貯める? そんなことしなくても、普通にシャワーを使えば良くないか?」
てゐ「妹紅は死人だから会場のあらゆる設備が、自分一人では使えなくなっちゃうんだよ? だったら部屋のシャワーだって出なくなる。さっき妹紅の部屋についていった時にも頼まれたんだ。『シャワーのハンドルを捻ってくれ』って」
レミリア「待って。妹紅はトラッシュルーム内で銃殺されたのよね?
てゐ「違うよ。妹紅がトラッシュルームで一人になったその時――銃は一切使われてなかったんだよ。だから倒れた妹紅の側にあった血は――一人になってから〈ナイフ〉で自分を傷付けることで作り出した血溜まりだったんだ
レミリア「〈ナイフ〉で、血溜まりを?」
てゐ「そう。だから口から吐き出したあの銃弾は、DDSルームのチャレンジに失敗した時に発生した物だよ」
早苗「誰も発砲音を聞いてませんもんね。妹紅さんは血溜まりを作ってから、皆さんに撃たれたと嘘をつくために銃弾をみんなに見せたってことっすか。あれ? そうなると、他の証拠品の意味は? 手鏡や〈暗視ゴーグル〉、キッチンナイフや使ったばかりの〈ナイフ〉なんかはどうしたんすか?」
てゐ「手鏡や〈暗視ゴーグル〉は使わなかったから、倒れた場所の近くにそのまま捨てたんだろうねえ。でも二本のナイフについては、うまいこと同じ位置に転がるように、シャッターの手前からぶん投げたんだよ。そのほうが『チルノは密室で殺された』って印象付けやすいだろうし」
早苗「なるほど……」
ナズーリン「うーん……何か引っ掛かるな」
てゐ「で、極めつけはこの証拠品だ!」

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妹紅「これは……」
咲夜「焼却炉で見つかった、服の一部ですね。確かに妹紅さんの服の形状とも一致しますね
てゐ「――そしてもう一度言うけど、この『血塗れのテーブルクロス』。これってDDSルームで起きた自らの事故を隠蔽した時に使った物でしょ?」

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妹紅「……」
てゐ「どう? 反論ある?」
妹紅「――反論があるかって? 反論しかないんだがな。そのテーブルクロスにしたってそうだ。私がそこに捨てたっていう証拠でもあるのか」
てゐ「はぁ?」
妹紅「焼却炉に捨ててあった服だってそうだ。長袖なんて着ているやつはいくらでもいるし、店にも売ってる。紫に直接頼めばそんな物いつでも手に入る」
てゐ「! それはそうだけど――」
妹紅「銃弾についての説明もおかしい。私が偽の状況を作り上げただけで、実際の所はDDSルームで事故死しただけなら、私が口から吐き出した弾丸は死因として証拠品の判定に引っ掛かるはずだ。事故死した際に発生した弾をトラッシュルームに持ち込み、その場で銃殺されたようにみんなに見せかけただけだったらな。違うか?」
てゐ「で、でも――」
妹紅「そもそも、私はDDSルームのチャレンジなんてしていないから今回の事件とは無関係だ。仮に私がDDSルームで死んだとして、そこをルーミアが捜索する危険性だってあるんだぞ? 部屋に入った瞬間に臭いで気付かれるに決まってる。銃殺が発生した現場を、テーブルクロス程度で処理出来ると思うか? てゐ、お前自身の推理によって、逆に私の疑いは晴れてしまうんだ」
てゐ「う……」
妹紅「それに、モノクマファイルに書かれていた死因は後頭部への銃撃だぞ。DDSルームのチャレンジ中に死んだとしたら、銃を口に咥えて正面から死んだことが死因として記述されていないとおかしいだろ

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てゐ「でも、DDSルームの銃でも、何か装置を用いれば、後頭部への射撃だって――」
妹紅「どんな装置を作ればいいんだ? 薄弱な根拠だな。それに、てゐの話だと私は別の場所で既に死んでいたということだが、私がトラッシュルームの事件より前に死んだのなら、どこに目撃情報があるんだ?」
てゐ「そんなのあるわけないじゃん! あったら推理なんていらないでしょ!」
妹紅「私が〈ナイフ〉と〈暗視ゴーグル〉を取得した瞬間を、誰か見ていたのか? キッチンナイフと手鏡を放棄した瞬間は? 体を切って血溜まりを作り出した瞬間は? DAY06の私の行動経路を詳細に語れるやつなんているのか?」
てゐ「……」
妹紅「ほらな、誰もいない。第一、お前の推理はあまりにも説明不足だ。私は既に死者だから例え裁判に勝ったとしても何も得られないんだぞ? それに焼却炉は死者の状態では使えない。いや――まずその線で私を論破するなら、実際に私が焼却炉を使ってみないと証明出来ないんじゃないか? 既に裁判は始まっているし、お前のために確かめてやる義理もないが」
てゐ「あんた、なんでそこまで……?」
妹紅「まあ、私が疑われているならそれでも構わないさ。さっさと議論を終わらせて投票で私を〈追放〉すればいいさ」
咲夜「罪を認めた――というわけではなさそうですね」
レミリア「逆ね。確定的な証拠がない限り、私達の言い分を何一つ認める気はないみたいね。何度でも復活可能な、蓬莱人の戦い方そのものね
咲夜「それが彼女の、法廷戦術……」
魔理沙「死ななければ安い。だが、死にもしない、か」
てゐ「はぁ……どうしたもんかねえ。やっぱり論戦なんて慣れないことはするもんじゃないか」
さとり「いいえ。てゐさんの推理の方向性は間違っていません。ですが、今回の一連の犯行を妹紅さん一人が行った事だと説明するのは難しいと思いませんか?」
紫「貴方。それ、〈読心〉のルール違反ギリギリの発言よ?」
てゐ「確かにさとりの言う通りかも知れないけど……」
魔理沙「なあ。今回の事件、文の時とは前提条件がまるで違うと思うんだ」
てゐ「前提?」
魔理沙前回の事件は青娥の暗躍によって現場すら一箇所に決められてたよな? 青娥の部屋を訪れたプレイヤーは全員、その時の手持ちだけで状況をどうにかしなければいけなかったわけだ
マミゾウ「その通りじゃな。例えば今回の事件では『誰なら鍵を開けることが出来たか』が議論されることはないように思える」
てゐ「は? 何が言いたいのさ」
魔理沙聞くけどさ、てゐが今回の事件とは一切関係なしに、会場の状況を踏まえて限りなくリスクを抑えた上で殺人に動くとしたら、何を手に入れて、どこで殺す?
てゐ「……」
魔理沙「ん? 気分を害したのならあやま――」
てゐ「私だったら――余計なことはしないと思うねえ。せっかくDDSルームに〈マスターキー〉と〈ナイフ〉があるのなら、みんなが寝静まった頃にでも部屋に忍び込んで、グサッとやるだろうね。凶器その他諸々はトラッシュルームで処分した所で、メダルを被害者から盗んだり、朝にメダルが補充されるのを待てばいいだけだし
魔理沙「だろ? DDSルームに〈マスターキー〉があるなら、いくらでもプレイヤーを暗殺出来るんだよ。それにしては、今回の事件の現場には、余計な物が多過ぎるんだ。極端な話、トラッシュルームに密室を作る意味すらない。単純に誰かがチルノを殺して勝ち上がるつもりだったのなら、こんなグチャッとした状況になるのはおかしいんだよ
てゐ「――やっぱり共犯者がいる、ってこと?
魔理沙「ああ。そしてこの奇妙な事件現場の状況には、プレイヤーを殺害すること以外にも意図があったのかも知れない
さとり「――詳しくは話せませんが、この事件の全容を把握するのは非常に困難です。ですが、残された証拠品や実際に遭遇した場面の中には、特定のプレイヤー以外には再現不可能な状況という物があります。こいしがお茶に仕込んだ毒のように」
ナズーリン「よし、わかった。そういうことで良いなら、私が引き継ごう」
てゐ「え?」
ナズーリン「二人の話を聞いているうちに、一つの可能性が見えてきた。なあ、てゐ」
てゐ「何さ?」
ナズーリン「妹紅に何かを自白させるのは難しいと思う。だったら、妹紅を相手にするのは一旦やめて、我々が一度論戦で優位に立ったことがあるプレイヤーから何とかして言葉を引き出す、というのはどうだろうか」
てゐ「ん? どういうこと?」
ナズーリン「推理には苦しい所があったが、てゐが妹紅について不審だと感じた点に関しては、恐らく何も間違っていない。妹紅は間違いなくみんなに対して隠していることがある。そこまでの推理はいいと思うんだ。だがDDSルームの事故死が死因だと仮定してしまうと、ドンドン矛盾が出てきてしまうようだな。だったらやはり妹紅はトラッシュルームで銃殺されたということだ。つまり銃弾の〈ダウジング〉結果も正しかった。妹紅はあの時既に死んでいた。さとり、そうだろう?」
さとり「ふふ。素晴らしい推理力だと思います」
てゐ「え、いやいやいや! トラッシュルームの前にはレミリアがずっと待機してたんだよ! だったらトラッシュルームの中に侵入して、しかも無音で銃殺出来るわけないじゃん!」

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こいし「そうだよ! 私もお姉ちゃんの後ろ辺りに居たんだけど、レミリアはきちんと見張ってたよ!
レミリア「――え?」
こいし「あれ? 違った? レミリアが自分でそう言ってたんだよね?」
さとり「――こいし。実際にトラッシュルームに入ったのは、皆さんと一緒にですね?
こいし「え、ええと? 私、なんか変なこと言った?」
てゐ「……?」
魔理沙こいしが関与していないことを信じるなら――トラッシュルームで妹紅を銃殺出来るプレイヤーは限られてくるな。こいしには〈リボルバー〉の反動をコントロールすることが出来ない。加えて狙撃の際には、身長差の問題もある。だよな?
ナズーリンああ。妹紅を能力によって殺害することが可能であり、能力未発動の証明が出来ていないのは君だけだ。そうだろう、マミゾウ
 

08

マミゾウ「……」
ナズーリン「てゐ。私と交代して貰ってもいいかい?」
てゐ「どうぞご自由に」
ナズーリン――さて、何故妹紅が吐き出した弾丸は私の検索に引っ掛からなかったのか? それはな、妹紅は別の場所で既に死んでいたからだ
てゐ「……バトンタッチしてすぐだけど、ちょっと突っ込ませてね。それ、私も言ったよね? DDSルームで事故死したって」
ナズーリン「ああ、確かにそう言っていたな。しかし妹紅はDDSルームで事故死したわけじゃない。トイレでマミゾウに後頭部を銃撃されて殺されたんだ」
てゐ「え!? トイレで銃撃? それならテーブルクロスは――」
ナズーリントイレにあったテーブルクロスは、DDSルーム内で使われた物ではない。妹紅達が血を片付けるために使った物だ。予想以上に血液量が多過ぎて、校舎エリアからトラッシュルームまでテーブルクロスを運び出すことが出来なかったのだろう
てゐ「ん? いや、あんたなに言ってんのさ? さっきあんたが話し始めようとしたことって、『入り口に見張りがいる状況下で、誰がトラッシュルームに忍び込めるか』ってことでしょ? トイレでの銃殺だったら能力なんて何も関係ないじゃん」
咲夜「――ナズーリンさんはもしかして、『妹紅さんは二度銃撃されている』ということを言いたいのでは?」
マミゾウ「……」
てゐ「二度?」
ナズーリン「その通りだ。ある意味では、不死人としての特性を有効活用したトリックだと言える」
早苗「――ええと。妹紅さんが殺された現場と、テーブルクロスがあった場所が一緒ということなら、仮にルーミアさんがトイレを捜査することになっても問題ないっすよね。『血の臭いが妙なところから発生している』ことになれば問題になりますけど。とりあえずそこは解決しますね
魔理沙「だな。つまり、妹紅とマミゾウは共犯だった?
マミゾウ「……」
妹紅「……そんなの、言い掛かりだ」
てゐ「DDSルームで銃口を口に咥えたんじゃなくて、マミゾウが背後から銃撃したってこと? そしてマミゾウはトラッシュルームでも妹紅を銃殺した? 妹紅が倒れていた付近にあった血溜まりは〈ナイフ〉により作られたものではなかったって言いたいの? 確かにそれならモノクマファイルの記述とも矛盾しないけど……」
ナズーリン「その通りだ。モノクマファイルの記述は正しい。トラッシュルームの前でレミリアが見張っていたあの状況で、室内の妹紅を射殺出来たのはマミゾウしかいない。同じように隠密行動に適した能力者は確かにいる。しかし、〈無意識〉を使えるこいしでは体格面から〈リボルバー〉を扱うことは困難だし、〈時間停止〉が使える咲夜は能力未発動を既に証明済みだ
マミゾウ「では聞くが、わしはどうやってトラッシュルームで妹紅を射殺したんじゃ?」
ナズーリン〈幻惑〉を発動し、無音の状態で〈リボルバー〉を使って射殺したんだ。君は能力の使用に際して、このように定義した。『自分自身が自分以外にずっとその場にいるように見え、且つ自分の発する音が他者に対して全て聞こえないように』、と。だから妹紅は証言通り、なんの音も聞いていない。共犯者であるにも関わらずな」

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マミゾウ「確かに弾の形状や早苗達の証言、あるいはモノクマファイルの記述から凶器は〈リボルバー〉だと推定されておるが――そんなの会場のどこにも無かったんじゃろ? お主だって〈ダウジング〉で見つけられんかった」
ナズーリン「そうだな。私は『妹紅が銃殺されたのは明白だし、わざわざその凶器を見つける意味はない』と考えたから、〈ダウジング〉を使って〈リボルバー〉を個別に探そうとはしなかった。だが――どうだろう? 今からでも許可が貰えれば〈リボルバー〉の位置について調べてみたいのだが、みんなはどう思うかな?
魔理沙「後、二回しか〈ダウジング〉出来ないんだもんなあ。うーん……」
早苗「ですよねえ。死因が判明している〈リボルバー〉について検索するなんて、意味があるんですかねえ」
さとり「……私は検索してみてもいいと思います」
こいし「じゃあ私もお姉ちゃんと同じで賛成!」
てゐ「ま、好きにすればいいと思うよ」
妹紅「……無駄だと思うがな。好きにしてくれ」
咲夜「お嬢様はどう思われます?」
レミリア「決まってるじゃない。霊夢が決めるべきよ」
霊夢「え?」
レミリア霊夢ナズーリンの一度目の〈ダウジング〉は『今回の事件に関係ある証拠品』だったけど、二度目の〈ダウジング〉を『〈リボルバー〉の位置』で検索することに使っていいと思う? みんなも霊夢が選んだ結果なら賛成でしょ?」
魔理沙「……ああ」
早苗「まあ、霊夢さんが決めることなら」
さとり「良いと思います」
こいし「えー? みんな賛成に鞍替え? だったらここで逆張りしたら面白そうだなあ。じゃあ、はん――」
さとり「……」
こいし「うそですごめんなさいどうぞ」
ナズーリン霊夢。どうする?」
霊夢「……ナズーリン。探し出して」
ナズーリン「わかった。では検索してみよう……………………よし」
魔理沙「――もう終わったのか?」
早苗「〈リボルバー〉、どこに反応があったんすか?」
ナズーリントラッシュルームの中央付近だな」

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咲夜「それって、〈ナイフ〉と、キッチンナイフがあった場所ですか?
レミリア「私達が捜査時間中にトラッシュルームを調べた限りでは、〈リボルバー〉なんてどこにも落ちてなかったわね。中央付近にあれば複数人で調べれば流石に誰かが気付くはずよ?」
マミゾウ「ほう。なら〈リボルバー〉はどこに行ってしまったのかのう」
ナズーリン「マミゾウ、とぼけられても困る。トラッシュルームの地下、バックヤードに隠していたのだろう?
こいし「え! 地下に隠してあったの!?」
早苗「バックヤード、ですか? でも〈ダウジング〉をした時には、〈リボルバー〉は検索に引っ掛からなかったんですよね?
ナズーリン「いいや。ちゃんと検索には引っかかっていたのだよ。私達が気付かなかっただけで
早苗「どういうことっすか?」
ナズーリン「こいしが貯水槽付近に捨てた〈香水〉と〈消臭剤〉。あれが見つかった時のことを思い出して貰えるかな?」
咲夜「まず橙さんが梯子を登ってきて、その後にバックヤードの事務所を発見したんですよね。貯水槽は更に奥にありました」
ナズーリン「その前は?」
魔理沙ルーミアがトラッシュルームの最奥を探しても、二つの凶器は見つからなかったんだよな。だから消去法で、『〈香水〉と〈消臭剤〉はトラッシュルームではなく、地下のどこかにある』と推測出来たわけだ」
てゐ「ねえ、まさか――」
ナズーリン「そうだ。〈リボルバー〉は地下に隠されていたのだ。キッチンナイフという『ダミーの証拠品』によって〈ダウジング〉を回避することでな」
マミゾウ「ほう?」
ナズーリン「少しばかりダウジング〉能力の弱点について説明させて貰えるかな?」
咲夜「弱点、ですか?」
ナズーリン「例えば、ジュラルミンケースの中に一枚のカードを入れて会場のどこかに隠したとしよう。検索条件は――そうだなあ、『カードの場所』とでもしておこうか。この場合、ジュラルミンケースのおおまかな場所を見つけ出すことは容易に可能だ。しかし――①〈ダウジング〉で発見したジュラルミンケースに、ジュラルミンケースが二つ隣り合って置いてある場合、どちらにカードが入っているのかわからない(密集への弱点)。そして、②ジュラルミンケース同士が床に対して垂直方向に離れた場所にあった場合でも、どちらのジュラルミンケースにカードが入っているかわからない(垂直座標への弱点)
咲夜「では、この場合、②番の条件に引っかかったため、私達は〈リボルバー〉を見つけることが出来なかったと?」
ナズーリン「その通りだ。〈リボルバー〉が見つからなかった理由、理解して貰えたかな? この中の何人かは捜査時間中に地下も探したはずだが、あんなに机が密集している場所の一箇所から、ほぼノーヒントで〈リボルバー〉を見つけられるわけがないんだ

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マミゾウ「つまりわしは、懐にでも隠しておいた銃で妹紅を殺害し、急いで地下中央付近にあった机のどこかに隠した。そう言いたいのか?
ナズーリン「ああ」
マミゾウ「ふむ。『〈ナイフ〉の真下』を目算し、そこに銃を隠したと。そんなにうまくいくかのう
ナズーリン目算ではない。DAY05の夜にバックヤードを計測しておいたんだろ?
マミゾウ「……」
こいし「あれ? ねえねえ。そんなことしたらさ、ナズーリンが検索した時にトラッシュルーム中央に三つの反応が出ちゃうんじゃないの? 〈ナイフ〉とキッチンナイフ、それと地下の〈リボルバー〉で合計三つ
ナズーリン「そうだ。そこがポイントなんだ。今回の事件で、キッチンナイフは一切使われていないんだ。殺人そのものには当然使われていないし、なんらかの装置を作るためにも使われていない。つまりキッチンナイフは、『今回の事件に関係ある証拠品』ではないんだ

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魔理沙「え? でもキッチンナイフは間違いなくマミゾウが置いた物なんだろ? 一回目の事件でルーミアが『使わなかった』〈ナイフ〉も確か検索に引っ掛かってたんじゃないのか?」
ナズーリン「その通りだ。だがな、犯人が意図的に設置した物全てが〈ダウジング〉に引っかかるわけではないんだ。それに――『使う予定があった物』と『使う予定すらなかった物』は、意味がまるで違う
こいし「『使う予定があった物』と『使う予定すらなかった物』?」
ナズーリン「例えばこいし。君はスーパーマーケットで〈ナイフ〉を用いて誰かを殺害した。その時スーパーマーケットでたまたま見つけたシャープペンシルを、咄嗟に思いついたなんらかのトリックの為に用い、殺害後に周囲にある食料品・生活用品・娯楽用品など、それらの乗った棚を片っ端から破壊してから、シャープペンシル一つを紛れ込ませて逃げたとしよう。私が『今回の事件に関係ある証拠品』で検索したら、結果はどうなると思う?」
こいし「ええと、〈ナイフ〉もシャーペンも、棚に置いてあったいろんな物全部も証拠品に引っ掛かっちゃって全部誤魔化せる!」
ナズーリン「いいや。〈ナイフ〉とシャープペンシルは引っ掛かるが、棚を破壊して作り出した偽物の証拠品は、〈ダウジング〉には一切引っ掛からないんだ
こいし「――あ! そうか! マミゾウは〈リボルバー〉を隠すためだけに、検索には絶対に引っかからない未使用のキッチンナイフを設置したんだ!
ナズーリン〈ナイフ〉が置かれていた位置と、丁度真下に位置する〈リボルバー〉を隠した位置。これらはDAY05の夜に、トラッシュルームとバックヤードを行き来しながら事前に計測をしておいたのだろう。トラッシュルームを計測するだけなら、メダルを投入してキャンセルボタンを押せば、シャッターの内側に入ることも可能だ
魔理沙「おい、今度は私から質問するがいいか? そうまでして〈リボルバー〉を隠す意味って本当にあるのか? お前が〈リボルバー〉そのものに対して〈ダウジング〉しなかったのは、妹紅の死因が明白だったからなんだろ?」
ナズーリン「その通りだ。だが本当は捜査時間内に、〈リボルバー〉を探し当てるべきだったんだ。その〈リボルバー〉を調べれば、妹紅が事件に関わったという明確な証拠が見つかったはずだからな」
早苗「明確な証拠? 隠された〈リボルバー〉を見れば、何があったか一目瞭然ということっすか?」
ナズーリン「ああ」
咲夜「……なるほど。そういうことですか」
早苗「え? 咲夜さんはわかったんすか?」
咲夜「モノクマファイルには『死亡回数』についての記述はなかった。だから妹紅さんは『〈不死〉による工作なんてしていない』と反論し続けることも出来た。だけど直接〈リボルバー〉を手に取って調べることが出来れば、それさえもわかってしまうのよ
魔理沙――そうか! 今隠されている〈リボルバー〉の中には弾が四つしか装填されていないんだ。妹紅が一度だけ撃たれて死んだのなら、弾が五つ装填されていないとおかしいのに
ナズーリン「そう。だからマミゾウ達は〈リボルバー〉をわざわざ隠したのだ。てゐの推理から色々わかることもあった。名推理を横取りしてすまないな、てゐ」
てゐ「どうでもいいよ。真実さえわかるなら。だったらさ、〈暗視ゴーグル〉はなんだったの?

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ナズーリン「ん?」
てゐ「それと手鏡もだよ。二つがなんでトラッシュルームのあの場所にあったのかは、そこまで重要じゃないんだよ。バックヤードの扉があって、その死角に置いてあったわけだからさ。私達は妹紅が死んだ時にほぼ一緒にトラッシュルームに入ったわけだから、言い換えればほぼ全員がその二つを捨てた容疑者ってことにはなっちゃうけど。もちろんすぐに証拠品を見つけられなかった責任は私達にある。それでも仮に手鏡を妹紅が所持していたとしたら、割れていたのは恐らく、銃殺されて倒れた時だろうね。そしてすぐに目を覚まして、懐から破片を掻き集めて〈暗視ゴーグル〉ごと扉付近に捨てた

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ナズーリン「ふむ……」
てゐ「〈暗視ゴーグル〉にしろ手鏡にしろ、『使う予定のあったもの』は〈ダウジング〉に引っかかるんだよね? 実際に使わなかった場合であっても。だったらさ。その二つは何に使われたの? あるいは使うつもりだったの?
ナズーリン「……すまない」
てゐ「え?」
ナズーリン「偉そうに講釈を垂れておいて申しわけない。手鏡の使い方は色々あると思うのだが、〈暗視ゴーグル〉に関しては本当に見当もつかないんだ」
魔理沙「私もよくわからないな。手鏡は標的を尾行したりにも使えるが、この狭い会場でそこまでする必要があるのかと問われると……
早苗「うーん。でも、結果としては〈暗視ゴーグル〉が盗まれていて良かったと思いません?」
魔理沙「どうしてだ?」
早苗「今向こうで青娥さんに慰めて貰ってるルーミアさん、本当はチルノさんから盗んだ〈水晶玉〉で藍さんを殺そうとしてたんすよね? だけど〈暗視ゴーグル〉が無ければ能力は使えないわけだから、DDSルームに〈暗視ゴーグル〉が無ければどっちみち殺害計画を諦めていたと思うんすよねー」
ナズーリン「まあ、確かにな」
魔理沙「――ん?」
咲夜「――あ!」
レミリアルーミアの殺人を未然に防ぎたかった』。妹紅が〈暗視ゴーグル〉を取得した理由って、もしかして本当にそれなんじゃないの? だとすれば、ますます不思議ね。そんな優しい妹紅が、どうして私達とはこうして議論で敵対しているのか」
妹紅「……」
早苗「でも、そのために〈暗視ゴーグル〉をDDSルームから取り出したのだとしても、それじゃやっぱり〈ダウジング〉には引っ掛からないですよね? 『DDSルームから移動したかっただけであって、決して使うつもりはなかった』ということでしたら
レミリア「そうね。それに手鏡の使用用途もよくわからないわね」
咲夜「――私、妹紅さんの手鏡の使い方、なんとなくわかった気がします。〈暗視ゴーグル〉は手鏡を探すために使われた物なのでは?
レミリア「え?」
咲夜「皆さんも妹紅さんの部屋、確認しましたよね?」
レミリア「ええ。見たわよ。ベッドすら無かったわね。ミニマリストってやつかしら?」
咲夜「一度目の銃殺の後、妹紅さんが付着した血を完璧に洗い流すためにはある物が必要なんですよ
レミリア「ある物?」
咲夜「はい。髪を確認するための手鏡です
こいし「え? どうして? 鏡ならお風呂場にもあるでしょ?」
てゐ「確かにあるよ。それで正面の血だけなら確認できる。でもね――」
咲夜「はい。それでは髪の後ろ側が確認出来ないのです。手鏡をこう持って――合わせ鏡にして血の付着を確認する必要があります。後頭部を銃撃されたのなら尚更必要でしょう」

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こいし「なるほどー。手鏡なら誰の部屋にもあるもんね」
咲夜「いいえ。妹紅さんの部屋には、恐らく手鏡が無かったんですよ。妹紅さんは部屋の備品を運営に返却した際、手鏡も返してしまっていた。それくらいでしたら例え犯行中であったとしても、運営への交渉次第ですぐに便宜を図って貰えたでしょう。ただし生存しており、プレイヤーとしての権利を有したままだったらの話です。妹紅さんは銃殺され――既に死人だった
ナズーリンだからと言って、おいそれと共犯者であるマミゾウの部屋を訪ねるわけにはいかなかった。リスクを覚悟でマミゾウの部屋に行く事も出来たが、妹紅は別の方法で手鏡を手に入れようとした
咲夜「はい。霊夢と妹紅さんがDAY07の0時に鉢合わせた時、妹紅さんはスーパーマーケットに手鏡を調達しに来ていたのです

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早苗「でも妹紅さんは既に死人だから――スーパーマーケットの蛍光灯を点けることが出来なかった?
咲夜「そうね。あるいはそもそも蛍光灯のスイッチの場所が暗闇でわからなかったのかも知れないわ。だから妹紅さんは止む無く本来使う予定のなかった、ルーミアさんの殺人を防ぐ目的で回収した〈暗視ゴーグル〉を使って、暗闇の中から手鏡を見つけ出した
ナズーリンだから綿密に計算され配置された他の証拠品とは違って、その〈暗視ゴーグル〉と手鏡だけが奇妙な位置で見つかった、ということか」
咲夜「妹紅さんは部屋に戻り合わせ鏡をして、長い後ろ髪を隅々まで確認することが出来ました。しかし今度は手鏡と〈暗視ゴーグル〉を会場のどこかに捨てに行かなくてはならなくなった。自分で話していてなんですが、予定外のこととはいえずいぶん雑な動きですね……」
レミリアさて、妹紅は新しく発生した厄介な証拠品をどこに捨てればいいのかしら? それも二つもね。時間的に宿舎エリアのどこかに捨てに行くしかないし、うろうろしてるとこいしにだって姿を見られる危険性がある。自分の部屋に置いておくのは厳禁。共犯者のマミゾウにも相談に行けない。倉庫にはまだチルノがいるかもしれないし、厨房には当然私達がいる。既に凶器が二つも保管されている青娥の部屋に捨てるのも有り得ない。宿舎エリアのトイレが一番理想的かも知れないけど、トイレには鏡が設置されているから『合わせ鏡』を連想させてしまうし、既に校舎エリア側のトイレにも証拠品を設置してしまっているから、それもまた一連の繋がりを連想させてしまう。妹紅は廊下で途方に暮れていたはずよ。何より厄介なのが、すぐに見つかりやすい場所に〈暗視ゴーグル〉を隠した場合、ルーミアに見つけられて殺人を実行されてしまう危険性があるのよ。それじゃ本末転倒よね。妹紅は後悔したんじゃないの? これならDDSルームから〈暗視ゴーグル〉を取り出すべきではなかった、って」
咲夜「そこに霊夢とお嬢様が現れ、妹紅さんの死体の発見人数は三人になってしまった。当然、死体発見アナウンスは流れました
魔理沙「いや、なんというか、その……」
早苗「咲夜さんの言った通り、杜撰というか行き当たりばったりというか」
妹紅「いや待て。勝手に推理されて、勝手に私に幻滅されても困るんだが……」
マミゾウ「そうじゃ。もっと言ってやれ。妹紅が疑わしい行動を取っていた、ということは認めてやってもいいが。しかしわしはどうじゃ? 能力的に妹紅を射殺出来た、という可能性の話しかしてないだろう。わしが関与したという証拠はあるのか?」
ナズーリン「! それなら、一つあるぞ」
マミゾウ「何?」
ナズーリン私は早苗に頼まれて校舎エリアの捜索に向かったんだ。早苗。そうだったな?」

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早苗「はい、確かにお願いしました。ナズーリンさんと、ええと――」
マミゾウ「わし、じゃったな

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ナズーリン「私は校舎エリアの捜索を、出来る限りの集中力で行ったつもりだ。しかし――後に出てきたある物を私は見つけられなかった」
早苗「ある物?」
ナズーリン「ああ。血塗れのテーブルクロスだ」
魔理沙「! そういえばどうしてテーブルクロスはチルノ捜索時に見つからなかったんだ? だって不自然だろ。霊夢達が後から男子トイレを捜索した際、血は個室の外にも流れ出していたんだろ?

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こいし「うーん。でも校舎エリアってさ、ナズーリンも一緒に捜索してたんでしょ? だったらナズーリンも怪しくなっちゃわない?」
魔理沙「あのなぁ、ナズーリンが犯人だったら、そもそもいくらでも証拠品の隠蔽が可能なんだぞ? 私達がこうして話し合うための情報を与えてくれてるのは、他ならぬダウザーのナズーリンだぜ?
こいし「あ、そうだった!」
マミゾウ「わはは! こいしの言うとおりじゃ! ナズーリンの関与も十分に考えられるじゃろうな!」
てゐ「……え?」
ナズーリン「……なんだと?」
マミゾウ「ナズーリンはわしがテーブルクロスの存在を黙っていたと言いたいようじゃが、誰がどこの捜索をしたかを証明するなんぞ、監視カメラの確認でもしない限り不可能じゃのう。そもそもじゃ。テーブルクロスは捜査中にトイレに隠されたと考えるほうが自然じゃろうな
ナズーリン「君、私を侮辱しているのか? あんな大きな、しかも血のついた証拠品を捜査時間中に移動する犯人がどこにいる? それこそ能力未使用を証明していない君でもないと無理だろう
マミゾウ「――先に言っておくが、わしならそんな証拠品なんぞ簡単に見つけられる。お前達はナズーリンを信頼しているようじゃが、こうは考えられぬか? 全ての証拠品の判定に対して嘘を吐く必要はないんじゃよ。ほんの一部だけでいいんじゃ。例えば、テーブルクロスに対して、とかのう」
ナズーリン「君。それは半分自白ととっていいんだな? 私がテーブルクロスを隠しただと? なんと愚かな。マミゾウ、君は自分が何を言っているのかわからないのか?」
早苗「あ、あの――」
マミゾウ「そもそもおかしいではないか。仮に〈リボルバー〉をわしが持っていたのなら、何故チルノを〈ナイフ〉で刺殺する必要がある? わしは銃声を消し放題なんじゃぞ? そんなの、倉庫内でチルノを撃ち殺せばよい話ではないか
ナズーリン「だから、現場の偽装のためにそうしたのだろう? 一人が殺せる人数は二人までなのだから、君が妹紅とチルノの両方を殺したのでは?」
マミゾウ「だから、その根拠はなんじゃ。ええ? お前さんだって〈リボルバー〉の場所を把握出来るし、隠蔽だって出来るんじゃぞ?」
ナズーリン「〈リボルバー〉なんて反動が強い武器、小柄で筋力も少ない私が扱えるはずがないだろう! あの状況で妹紅を射殺出来るのは君だけだ!」
魔理沙「おいおい……二人とも感情を抑えろ!」
マミゾウ「ナズーリン。だから、お前さんの考えておることが間違えておるのじゃ! 捜査の過程で起きたミスは、証拠品全般に限れば全てお主の責任じゃろ!」
ナズーリン「……二ッ岩マミゾウ。貴様、ここから解放されたらすぐに寺から出ていけ! そのような性質、聖の教義に反する!」
マミゾウ「ふん。あんな胡散臭い寺になんぞ二度と戻るか。ついでに幻想郷から出ていってやるわ。あの理想主義者の住職にも伝えてくれ。人間が妖怪と共に生きるなぞ到底――」
こいし「はーい! はい! はい!」
さとり「こいし?」
ナズーリン「ん?」
マミゾウ「……なんじゃ?」
こいし「みんな、ごめんなさーい! チルノを〈ナイフ〉で殺したのも、妹紅の頭を撃ち抜いたのも、ぜーんぶあたしでーす!」
ナズーリン「……」
マミゾウ「こいし、急にどうしたんじゃ……」
魔理沙「こいし……」
こいし「一生懸命人形を揃えたり、メッセージを残したり、凶器を使ってみたりしても、結局みんな殺せなかったから、ムカついてやっちゃった! てへ☆」
早苗「あの、でもこいしさんは――」
こいし「みんな真面目に議論しちゃってバカみたいだったなあ。ほんとうっけるー! 夜も遅いし眠いんじゃないの? 早く私に投票しなよ!」
咲夜「……」
レミリア「ねえ。こいし、貴方は――」
こいし「こういうのも楽しいかなって思ってたけど飽きちゃった! 飽き性でごめんね! だからほら、ナズーリンもマミゾウおばあちゃんもそれ以上ケンカしないで! お互いに謝って! ね!」
さとり「こいし……」
こいし「お姉ちゃん。ごめんなさい。全部私がやりました。でも、こんな妹でも、お願いだから縁を切らないでくださいませんか?」
さとり「あ……貴方……そんなことを言わなくても……私は…………」
こいし「さっき〈追放〉なんて怖くないみたいなこと言ってたけど。ほ、本当は、ちょっと怖いんだ。だから、お、おねがいします。おねえちゃん自身の手で、あたしを。あたしを、あたしをころ」
妹紅「――もういい!!! 頼む、もうやめてくれ。こんなの、死ぬことよりずっと辛いよ!」
こいし「う、ぐす……うぅ……ひぐ……ひっく……だってマミゾウおばあちゃんが、幻想郷を出ていくって言うから……」
マミゾウ「こいし……」
妹紅「悪いがマミゾウ。私はこの関係を抜ける。せっかく私を信頼して、仲間に誘ってくれたのにごめんな」
早苗「あの、それでは――」
妹紅「てゐやナズーリンが推理した通りだよ。私も今回の事件に一枚噛んでる。だけどチルノを殺したのは、私でもマミゾウでもない。――別の誰かだ
 

09

マミゾウ「妹紅、お主――」
妹紅「マミゾウ。本当にすまな――」
マミゾウ「遅すぎるわ! このど阿呆!」
妹紅「はあ!?」
マミゾウ「あー、清々したわい。いったいいつまでこんな茶番を続ければいいのかと、正直イライラしとった。ようやく解放されるわけか」
咲夜「それでは――」
マミゾウ「ああ。トイレで妹紅を背後から銃殺し、トラッシュルームでも〈幻惑〉を使って撃ち殺したのはわしじゃ。ずっと黙っていてすまんかった」
魔理沙「おい、ということは――」
妹紅「私とマミゾウは共犯だ罪を認めればマミゾウが死ぬことになる。だから一連の出来事について黙っていたが、もうやめようと思う
マミゾウ「そうじゃそうじゃ。それでいいんじゃ」
妹紅「ごめん……」
マミゾウ「いや、謝る意味が本当にわからん。お前さんは二回も命をわしに預けてくれたんじゃぞ? それで十分じゃろう?」
レミリア「なるほど。そういう事情があったから、妹紅は頑なになってたのね」
マミゾウ「そもそもの話をするか? トラッシュルームで撃たれた妹紅は、気絶したふりを続けたまま、ずっと横たわっている計画だったのじゃ。てゐの言った通りそうすれば妹紅は完全に容疑者から外れることが出来た。だが妹紅はチルノを殺した真犯人を、自らの手で暴くことを選んだのじゃ。しかしいざ裁判が始まってみれば――」
早苗「妹紅さんはマミゾウさんを全力で擁護し、事件について口を閉ざし続けたんすよね」
マミゾウ「その通りじゃ! 妹紅よ、ほんっとうに中途半端じゃなあお主は! こちらの計画に乗ってみたかと思えば勝手に手鏡を探しに行って余計な証拠を増やすし、起き上がって霊夢に協力するのかと思えば学級裁判ではわしを守ろうとするし、そのまま口を閉ざし続けるのかと思えば我慢できずに自白するし――はぁ! 全く! 蓬莱山輝夜と宴会で初めて話した時、『こんな嫌なやつが世の中にいるのか』と思ったが、お前さんも同類じゃ! 輝夜がお主の頭を吹き飛ばしたくなる気持ちもわかるわ! 似た者夫婦じゃお主らは!」
妹紅「はぁ!? 流石にあいつと一緒にされるのは心外だ! ってか夫婦ってなんだよ!?」
てゐ「あー、慧音も同じこと言ってたっけ」
妹紅「は!? 慧音も言ってたのか!?」
咲夜「――なるほど。そういう理由があって、妹紅さんは固く口を閉ざしていたのですね。ですがそれなら何故てゐさんの言っていたように、チルノさんが殺された時点で名乗り出なかったのですか?
レミリア出来なかったのよね? 〈絶望〉や〈17人目〉の存在があったから。例えばチルノを殺害したのが〈絶望〉で、それが咲夜だったりしたら? 全てを自ら明かそうとして妹紅が動く前に、四肢の自由を奪った上でエリアのどこかに監禁される危険性だってある。たった一時間しかない捜査時間中に、無制限に使える能力を使ってそれをやられたらたまらないでしょう? もし〈絶望〉が事件に関与していたら、妹紅はこうして学級裁判で証言することも不可能だったかもしれないわね
咲夜「確かにその通りですね。能力に制限が無いプレイヤーが動けば、同じことをされた危険性がありますね。つまり、妹紅さんもマミゾウさんも――」
妹紅「ああ。私達はチルノを殺していない。私がトラッシュルームであんな風に立ち上がったのは、『死後も学級裁判を待たずに動ける』というのをみんなに見せたかったからだ。そうしないと私とマミゾウが犯人特定のためにここで何を明かしても、それら全てが証明出来ないだろ? 私達のことを打ち明けるためには、『昨晩何があったか』、『私が殺害直後に動けるという証拠はあるか』、この二つが重要だからな」
ナズーリン「ふむ。では改めて、『本来の計画』と『実際の出来事』について、まとめて話してくれないか?
妹紅「まとめる、って言ってもなあ。みんなが話していたことで大体正解だし」
マミゾウ「少し時間が掛かるかも知れないが、紙にでもまとめたほうがいいかのう?」
霊夢「それなら――」
レミリア「待って」
霊夢「え?」
レミリア「妹紅。貴方、本当は三回撃たれてるんじゃないの?
 

10

マミゾウ「……ふむ?」
妹紅「……」
ナズーリン「い、いや、レミリア。何を言ってるんだ!? たった一晩で妹紅は三回も殺されたというのか!? そんな馬鹿なことが――」
レミリア「一つずつ確認していったほうがいいかしら? 校舎エリアにあったテーブルクロスだけど、銃殺に使われたと一目でわかるような毛髪や骨片、あるいは脳漿のような物は付着していたかしら?
さとり「……それらしき物は見当たりませんでしたね。だからこそ私達は『チルノさんを〈ナイフ〉で刺殺した際の返り血は、もしかしてこれを用いて回避したのでは?』とも推理したくらいですので
てゐ「――まず私が『テーブルクロスはDDSルームで使われた』って推理して、次にナズーリンが『トイレでの銃殺にテーブルクロスが使われた』って推理したんだよね。ナズーリンはその理由として、『血液量が多かったからトイレから移動出来なかった』とも考えた。レミリア的にはどうなのさ?」
レミリア「私もナズーリンと同じように、テーブルクロスはマミゾウがトイレで妹紅を銃殺した際に使用した物だと考えているわ。だけど銃殺された際に血が広がるのを回避したテーブルクロスはトイレでいくらでも手に入る水を使って『刺殺に使われたように見えるようにするために』銃殺の痕跡になるような物を取り除いてあった。そして『偽装された証拠品』としての『血塗れのテーブルクロス』を用意した。そうは言ってもトイレからトラッシュルームに移動した証拠品は相当少なかったと思う。この会場全体の面積というのは体育館から個室までだって五分で辿り着く距離だということは初日に全員で確認しているわよね? それでも移動中にマミゾウや妹紅が血の付着した荷物を所持している時に誰かと遭遇すれば言い訳が出来ないし。妹紅は銃殺された際、上半身は裸の状態で後頭部をマミゾウに撃って貰った。そして銃殺の際使用したテーブルクロスはトイレに置いたまま、DDSルームから再取得した凶器は懐に隠し、妹紅はタオルで後頭部を隠した状態でトラッシュルームへ移動した。仮に誰かに見つかって計画が中止されたとしても、マミゾウが目立つ荷物を所持していなければ、『妹紅が何者かに撃たれたからタオルで止血しながらみんなを呼びに言っていた』という言い訳も出来たし。凶器だって隙を見て処分してしまえばいいわ
魔理沙「ん? なんでそんな面倒なことをする必要があるんだ?」
レミリア「一石五鳥だったからじゃないの?」
魔理沙「一石五鳥?」
早苗「いや、全体除去呪文じゃあるまいし、どんだけ鳥が死んでるんすか……」
レミリアまず、校舎エリアの男子トイレに血塗れの証拠品があれば、どう考えたって『テーブルクロスはDDSルームと何か関係がある』と考えるに決まってるわよ。さっきてゐが推理したように『妹紅がDDSルームで事故死した』とプレイヤーに思わせることも出来るし。そしてマミゾウ達が用意したトリックの第一段階として、共犯者である妹紅は必ず死者になる必要があるし、妹紅を銃殺すれば偽装用の血は簡単に手に入るわよね? 男子トイレはDDSルームからも近いから工作にはもってこいだし、少なくとも宿舎エリアよりは銃声を聞かれる可能性が低いもの。処分する必要があるゴミの内からテーブルクロスに血を分けるということは、単純にトイレからトラッシュルームに移動する血液の量そのものを少なくすることにも繋がるわ。これは流石に苦しいからしら? そして何よりも『〈ナイフ〉で刺殺を回避したと思わせる為の証拠品』をスムーズに作ることが出来る
てゐ「……そのさ。あたしはその『〈ナイフ〉で刺殺する為にテーブルクロスを用意したと思わせる』って部分と、実際の現場の状況が噛み合ってないと思うんだよねえ」
レミリア「どうして?」
てゐ「あたしだったらさ、単独犯でゴミを好きなように処分できない状況だったら、テーブルクロスなんてどう考えたってトラッシュルーム内に放り出してバックれると思うんだよ。さとり達も考えたんじゃない? トラッシュルームから証拠品が離れすぎてるって

レミリア「確かにそう思えるかも知れないわね。〈ナイフ〉があった現場からは離れ過ぎているし、かと言って〈リボルバー〉を使うのならテーブルクロスで体をカバーする必要なんてないもの
てゐ「そうでしょ? 二人が共犯だってことはわかったんだけど、どうにもそこがしっくりこないんだよね」
早苗「うーん。私はトイレにテーブルクロスがあったこと自体はそこまで目が点って訳でもないんすけどね」
てゐ「どうしてさ?」
早苗「どの道妹紅さんはどこかでマミゾウさんに『銃殺』されないといけなかったんすよね? 『刺殺』だと返り血の関係で余計な証拠品が増えてしまいますから。でも銃殺は『音』を聞かれないことが重要ですからどうしてもトイレのような場所、しかも宿舎エリアからも離れた場所で行わなければなりません。そしてテーブルクロスをトラッシュルームの最奥に設置することは絶対に出来ません
こいし「なんでー? 〈ナイフ〉が落ちてればおかしくないんじゃないの?」
魔理沙「いや、そうすると今度は中央に〈ナイフ〉が落ちていることがおかしくなるんだ。まず、トラッシュルームの奥で誰かを刺殺することは〈不死〉や〈無意識〉のような能力を持ってないと不可能だろ? だけどトラッシュルームの最奥で〈ナイフ〉を使えば、例え誰がどんな風に使ったところで『刺殺に適した能力者が犯人』とプレイヤーに簡単に推理されちまう。もし能力者の視点なら『刺殺してすぐにトラッシュルーム最奥にテーブルクロスを放り出した』と推理されるのは犯人側としても面白くないはずだ。逆にそういう能力を一切持たないプレイヤーが刺殺を考えた場合、〈ナイフ〉とキッチンナイフはどんな風に設置されると思う?」
てゐ「能力者の仕業にしたいなら、〈ナイフ〉とテーブルクロスはセットで『トラッシュルームの最奥みたいに能力者じゃないと入れない場所』に設置するね。でもさ、そうなるとちょっとおかしくない? マミゾウと妹紅は両方とも『能力による最奥での刺殺が出来そうなプレイヤー』だから、偽装するとすれば『私の能力がなくても誰でも刺殺出来る状況ですよー』って思わせるためにダミーの血溜まりを娯楽室でもなんでもいいけどトラッシュルーム以外の場所に設置する必要があるじゃん。そこはどう説明するのさ?」
レミリア「……逆だったんじゃないかしら?」
てゐ「逆? 『能力者が刺殺したと思わせたかった』ってこと? なんで?」
レミリア「――もしも」
てゐ「もしも?」
レミリア――仮にトラッシュルームのどこかに、死体も見つかっていない状況で、人一人が死んだとしか思えないような大きな血溜まりがあって、存在感を放つ血塗れの〈ナイフ〉や、正体不明のキッチンナイフが見つかって、遠く離れた場所にも血塗れになったテーブルクロスが設置されていたとしたら? 追い打ちをかけるかのように、死体発見アナウンスが鳴り響き、更には捜査時間中に妹紅が何者かに銃殺されて、〈リボルバー〉が見つからなかったとしたらどうかしらね? DAY02で端末を破壊した際に使われたのは、奇遇にも『銃』だったわね。てゐなら、どう思う?
てゐ「――え、え? もしかして、そういうことだったの?」
ナズーリン「……妹紅、マミゾウ。もう一度確認したい。今現在、君たちは長い議論の末、私達の味方になってくれているのだな? 頼む、答えてくれ。マミゾウ、先程までの非礼は詫びよう。私もまだまだ修行不足だった」
妹紅「あ、ああ。そのつもりだぞ?」
てゐ「――妹紅、さっきは悪かった。超ごめん!」
妹紅「ああ。こっちこそ、マミゾウを庇う為とはいえ、友人に対して有り得ない態度を取った。ごめん」
マミゾウ「――それはわしも同じじゃ。ナズーリン、済まなかった」
ナズーリン「ああ。こちらこそ。それで、どうなんだい? 君たちはまだ何か話してないことがあるのかね?」
妹紅「……あんまり心配かけたくないから、黙ってようと思ってたんだけどなあ」
魔理沙「……ん? チルノが殺されなかったとしたら、トラッシュルームの血溜まりなんて、どこに発生したんだ? トラッシュルームに『血溜まり』と言える場所が見つかったのは、チルノの遺体があったあの場所だけなんだろ?
こいし「そうそう! それわたしも思った!」
レミリア「いいえ。妹紅が死亡したことで発生した血溜まりは、私達が直に見た妹紅の死亡現場とは別に、トラッシュルームの中にもう一つあったのよ。私も最初はそれに気付かなかったけど。咲夜も現場に違和感を覚えた一人なんじゃないの?」
咲夜「――はい。今一つ確信が持てず議論のテーブルに載せることがためらわれていましたが。おっしゃる通り、チルノさんが死亡した際に発生した出血量は、彼女の体格に比べても多いと感じました
こいし「出血量?」
レミリア「ええ。チルノは複数箇所刺された状態でも生きており、尚且つ花を抱える余裕があった。だけど『チルノはあの出血量で意識を保つことが出来たのか』って聞かれると、私の経験と照らし合わせてみても自信が持てなかったのよ」

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咲夜「はい。私も同感でした」

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てゐ「――人間の話で言えば、全血液量の20%以上が失われると、出血性ショックってのが起きるんだよね。仮にチルノの体重が羽を含めない場合に30キロ前後だとすると、体重の8%程に流れているとされる血液量は2.5リットル。つまりチルノは0.5リットルも出血しちゃうと、意識を保つのも大変だった、ってことになるね」
早苗「それって――ペットボトル一本分っすか!? 思ったより少なくないっすか?」
咲夜「私達が霊夢や青娥と一緒に確認した際には、少なくともそれ以上の血は現場に流れていました。そこから推測すると――答えは絞られてきます」
レミリアマミゾウは妹紅をトラッシュルームの最奥でも銃殺していた。チルノの死亡位置と同じ場所でね。トイレで銃殺された後なら妹紅は既に『死者』になっているから、マミゾウが端末を使うことで、トラッシュルームの奥まで一緒に行けるわ
魔理沙「それがチルノが殺される前に行われた、二度目の殺人だったのか」
こいし「――ん? 妹紅がトラッシュルームの最奥で殺されたとして、それで三回殺されたってことにはならなくない?
レミリア「どうして?」
こいし「例えばだけどさ。DDSルームで〈ナイフ〉と〈暗視ゴーグル〉を手に入れた後に、宿舎エリアのトイレで〈ナイフ〉を使ってさ、新品のテーブルクロスに血をダラダラって流して設置したとするじゃん? そしてから妹紅がマミゾウおばあちゃんにメダルを全部渡して、妹紅だけでチルノの死体があった辺りまで進むんだよ。当然マミゾウおばあちゃんは一緒に進めないから、トラッシュルームの手前に待機しなきゃだね」
レミリア「その後は?」
こいし「え? もー、それからはわかるじゃん! マミゾウおばあちゃんは〈リボルバー〉でシャッターの外側から妹紅を狙撃したんだよ! それなら別に一緒に最奥まで進まなくても現場には大量の血を発生させることが出来るじゃん!
早苗「こ、こいしさんって頭いいっすね……。でも、その後はどうすればいいんすか? そのままだと妹紅さん、シャッターの内側に閉じ込められちゃいません? ほら、妹紅さんは死者だから焼却炉付近のスイッチが押せないじゃないっすか
こいし「そ、そんなのわたしにはわからないし! でもそうなったら紫が助けてくれるんじゃないの?」
紫「――その状況も十分に考えられたわ。トラッシュルームやDDSルームは他の施設よりも複雑な仕組みだから、運営とシミュレーションした際にも指摘があったの。その場合は『犯人側の行動に支障がある場合に限り、スキマを使用してプレイヤーをトラッシュルームの手前に移動させる』という手筈になってるわ」
こいし「ほらね? そうすればわざわざ三回も殺さなくたって大丈夫でしょ?」
さとり「――こいし。トラッシュルームは何をする為の場所だと思いますか?
こいし「……え? それはもちろんゴミを捨てる為の場所じゃないの? 妹紅達だって服とか処分したんだろうし」
早苗「はい。そこなんですけど、こいしさんの推理だと、最終的には妹紅さんがメダル無しの状態で、逆にマミゾウさんは妹紅さんのメダルを全部預かってることになりますよね?
こいし「う、うん?」
早苗「――つまりっすよ? マミゾウさんは死者になった妹紅さんに対してメダルを預けることが出来ないんですよ。だけどマミゾウさん達には当然、今回の事件に関する協力者が他にいません
こいし「ん? あれ、もしかして私の推理だと――」
早苗「はい。残念ながらその方法だと、トイレやトラッシュルームで発生した証拠品の処分が出来ないんすよねえ。仮に妹紅さんがスキマでシャッターの外に出して貰えたとしても、紫さんだって焼却炉の作動までは手伝ってくれないと思います。仮にマミゾウさんがメダルを全部使ってゴミを普通に処分したにしても、マミゾウさんも妹紅さんもミーティングで無一文じゃ流石に両方とも疑われちゃうんじゃないっすかね

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こいし「……」
早苗「それと恐らくですけどトラッシュルームで妹紅さんは、トイレで行ったような半裸の状態での銃殺はやらなかったと思います。トイレと違って隠密性に欠ける場所ですし、もたもたしてたら誰かに見られてしまいますので。二度目の銃殺の為に衣服の替えくらいは用意する必要がありますが、折り畳んで着ている物の中にしまっておけばギリギリ手荷物にはなりませんし。――ということで、こいしさんの疑問については解消できると思うんですけど、そうなるともう片方の凶器である〈ナイフ〉はどうして用意することになったんすかね?
魔理沙「……〈ナイフ〉? 早苗、お前はお前で結構疲れてきてるんじゃないのか?」
早苗「……え? うん、まあ、時間が時間ですし」
てゐ「さっき魔理沙が言ってたじゃん。リボルバー〉は弾の装填数で『事件で何回使われたのか』がバレる凶器なんだよ?
ナズーリン「その通りだ。つまり架空の事件を連想させる為のパーツとして、会場にそのまま〈リボルバー〉を設置することは出来ない。一点補足するならば、真犯人が〈ナイフ〉を用いてチルノを殺害する前にも、マミゾウ達は恐らく『〈ナイフ〉に証拠品判定が発生する使い方』を、必要最小限にはしていたはずだ。そうしないと地下に〈リボルバー〉を隠せないからな。妹紅、あの〈ナイフ〉は何に用いたんだ?」
妹紅「ん? ああ。血が大きく付着した髪をバッサリ切り落とす為に使った。『銃殺を隠蔽するために髪を切り落とした道具』なら証拠品の判定は付くだろ? むしろそっちが〈ナイフ〉を取得した主な理由だったんだ。私は蓬莱人だから髪を切り落としてもみんなに誤魔化しが出来る程度にはすぐに髪が生えてくる。計画を始める前に試したんだけど、キッチンナイフの切れ味だと髪を切り落とす作業が少しうまくいかないことに気付いたんだ。キッチンナイフも〈ナイフ〉の近くに置いたけど、きちんと〈ダウジング〉を回避していただろ?
ナズーリン「なるほど。それで納得いった」
てゐ「――うん。私もマミゾウ達のやりたかったことはなんとなく見えてきた。今度はマミゾウ達の口からも直接補足を貰える?」
 

11

マミゾウ「そうじゃな。ざっと説明しておくか。そうは言っても、DAY05についてはそれほど話すことはないがな」
妹紅「私の部屋にマミゾウが訪ねてきたんだ。そして計画に使う予定の〈リボルバー〉を見せられつつ、マミゾウに共犯を持ちかけられた
マミゾウ「ああ。早苗達が所有していた物をな。じゃがな、妹紅の部屋を訪れた時点では、わしの頭の中には何の犯行計画もなかった
てゐ「つまり、妹紅は自分を殺すための計画を、マミゾウと二人で熱心に考えていたってわけか。お人好しの極みだねえ」
妹紅「そんなにお人好しかなあ。まあ、私の口からちょっとした話が出た事で、マミゾウは犯行計画の方向性を決められたのは確かだけど
咲夜「方向性、ですか?」
妹紅「ああ。レミリア達には本当に申しわけなかったけど、実はマミゾウには私が〈トラバサミ〉で大怪我をしたことと、レミリア達と一緒にそれを隠蔽していたことを全部バラしちゃったんだよな。計画の参考になると思って」
魔理沙「ん? マミゾウはレミリアの口から初めてその事を訊いた風だったけど――」
マミゾウ「かっかっか! 皆をうまいこと騙し切ってしもうた!」
妹紅「こいしがそのことを言い出した時にはヒヤヒヤしたよ……」
レミリア――マミゾウはあの時の血溜まりの一件から計画の着想を得たということ?
マミゾウ「あの時は誰も『血溜まりがどのような経緯で発生したか』について正しい答えを得ることが出来なかったじゃろ? これを応用すれば、皆を裁判で出し抜くことも可能だと考えたんじゃ。運営を含めてな
魔理沙「なあ。二人に尋ねたいんだが、いいか?」
マミゾウ「なんじゃ?」
魔理沙「二人が完遂しようとしていた複雑な計画は、結局のところどんな結果を求めていたんだ?」
マミゾウ「わしらはな、〈17人目〉を炙り出そうとしていたんじゃ。より正確に言うなら、〈17人目〉を紫に連れてこさせるつもりじゃった。議論で逃げ道を塞いだ上でな
咲夜「炙り出す?」
妹紅「〈17人目〉の関与を思わせる証拠を会場に十分残し、私達以外のプレイヤーにも自発的に運営を追及させる。そうすることで紫は〈17人目〉がどこの誰なのかを話さざるを得なくなる状況を作りたかった」
魔理沙「……そうだったのか」
早苗「お二人が共犯となった経緯や、計画が生まれた経緯はわかりました。改めて聞いておきたいんですが、DDSルームを使う時、妹紅さんがマミゾウさんにメダルを渡したのではなくて、マミゾウさんが妹紅さんにメダルを渡したんですか?
マミゾウ「その通りじゃ。まず、トイレの中で妹紅を射殺する前に妹紅に一枚を残してメダルを全て渡しておく。その状態でわしがトラッシュルームの端末を起動すれば、要求される枚数は当然一枚じゃ。トラッシュルームを利用した後は、妹紅からメダルを返して貰えば何も問題はない。と思ってたんじゃが――妹紅と別れて部屋に戻ってから少し不安になったんじゃ
てゐ「不安?」
マミゾウ「捜査が開始されたら、ナズーリンは当然証拠品の検索を行うと思った。『妹紅から返して貰ったメダルは証拠品として判定されてしまうのではないか』とも考えた。その点について紫を呼び出して確認したら、彼女はこの土壇場で大変重要な情報を口にしよったんじゃ
紫「え? そんなに大切な情報だったかしら? 別にそんなつもりは無かったんだけど」
マミゾウ「そんなわけあるか! 重要も重要じゃ! 全く、ルールに書いておけばいい物を。よいか? 今からする話を、しっかり聞いてくれ
ナズーリン「な、なんだね?」
マミゾウ「このゲームは、何度か話し合いで出た通り、犯人側に有利な仕掛けが多い。つまり、犯人側の小さなミスや勘違いは、余程のことがない限り運営にフォローされてしまうんじゃ
早苗「どういうことっすか? 紫さんが犯行をサポートしてくれる、って意味に聞こえるんすけど」
マミゾウ「そうではない。致命的な証拠品やトリックの準備については、まず助けなど得られんよトラッシュルームに残ってた、妹紅の血の付いた長袖の先端部分のような物はな。妹紅は死亡後にシャワーが使えない危険性を考えて、あらかじめ浴槽に湯を貯めておいたんじゃ
妹紅「あれさ。お湯を張るのを忘れていたとしても、普通にシャワーは使えたらしいんだよ
てゐ「え? 実際に妹紅がハンドルを捻っても、お湯は出てこなかったじゃん。さっきもそうだったでしょ?」
紫「実はね。この会場の施設や起きた出来事の殆どは、細かく管理されてるのよ。だから妹紅さんが計画実行時にお湯を張るのを忘れていたとしても、ちゃんとお湯は出たのよね。シャワーの使用権について気付いていたから、面白いと思って妹紅さんがハンドルを捻ってもシャワーは出ないようにしておいたけど」
妹紅「最初に聞いておけば良かったなあ。決まったお湯の量で体を洗うのって結構大変なんだぞ?」
紫「他の部分では、そうねえ。例えばこいしさんが〈香水〉を貯水槽に投入した時も同じよ。トリックとして成立するから、毒をそのまま上水道に流したのよ
ナズーリン「勘弁してくれ……」
霊夢「――毒を遮断することも、紫の裁量次第で可能だったの?」
紫「そうよ。後から藍には怒られちゃったけど……。それにトイレで妹紅さんが殺害された時には、妹紅さんの物と一目でわかるような毛髪がトイレの個室外まで飛んじゃったりしていたのよ。射殺の際に使われた個室の隣の個室にまでね。頭部が吹き飛んだ時に出た脳漿とかもついたままで。でもこれじゃ銃殺の現場が丸わかりだから、私の能力で綺麗サッパリ片付けちゃったわ
魔理沙運営にとっては、あくまでゲームを滞りなく進行することが最優先、ってことか
早苗「そしてそれらはプレイヤーへの干渉とは認められないし、レミリアさん達が言っていた通り、そもそも紫さんのカードに書かれていることは、運営に対しての拘束力がないってことっすね
紫「そういうことね。だからみんなも安心して、犯罪計画を立てまくって頂戴ね」
こいし「はーい!」
ルーミア「わかったよー!」
咲夜「あれ? お嬢様は『がんばるぞー!』とか言わないのですか?」
レミリア「言わないわよ! 一緒になって言うわけないでしょ! ねえ、私のこと本当に尊敬してる!?」
霊夢「あら? ルーミア、もう平気なの?」
ルーミア「うん。大丈夫! ここから参加するね!」
青娥「少しでも議論に参加して、皆さんの役に立ちたいそうです」
霊夢ルーミア。ありがとうね」
ルーミア「わたし、今度こそ頑張るからね!」
霊夢「そう。なら良かった。議論が結構進んだから、ざっと流れを教えておくわ。――このメモを見て貰える?」
ルーミア「うん。え? なにこれ? すっごくわかりやすい……」
青娥「そうですね。これなら途中参加もしやすいですねえ」
魔理沙霊夢、議論を続けても大丈夫か?」
霊夢「ええ。気にしないで」
咲夜「妹紅さん。ルーミアさんが戻ってきてからお尋ねしようとしていたことがあるのですが、今質問してもよろしいでしょうか?」
妹紅「ああ。いいぞ?」
咲夜「まず、妹紅さん達は『ルーミアさんに殺人を実行されないようにする為に〈暗視ゴーグル〉を取り出した』んですよね。その推理で合ってましたか?」
妹紅「ああ、理由はそれだ」
咲夜「それならどうして現場に凶器を設置するタイプのトリックを用いたのでしょう? いささか不用心だったのではないでしょうか?
レミリア「こら、咲夜!」
てゐ「悪いけど私も咲夜と同意見さ。なんかの弾みでルーミアがトラッシュルームに入っていたら取得されていたかもねえ。蒸し返すようで悪いけど」
妹紅「そこも二人で計画を練っている時に話し合った。だから〈リボルバー〉は最低でも死体発見アナウンスが流れてからでないと見つからない場所に設置した」
早苗「捜査時間中にも見つからなかったくらいですからね。でも〈ナイフ〉があったのはトラッシュルームのど真ん中ですから、端末を起動せずに入り口から眺めただけでもすぐに見つかっちゃう所にありましたよ?」
青娥「ですが――例えルーミアさんが偶然トラッシュルームを利用することになり設置されていた〈ナイフ〉を手に入れたとしても、DAY06の夜にルーミアさんは藍さんを殺すことは出来なかったんです。そうですよね? マミゾウさん」
ルーミア「え、え? どうして?」
マミゾウ「なぜだと思う?」
ルーミア「……プレイヤーが身体能力を制限されているから、私が〈ナイフ〉を手に入れたくらいじゃ藍を殺せないとか思ってたの? 〈暗視ゴーグル〉は隠してあったから? 私が〈暗視ゴーグル〉を持ってなくても殺人を実行するとは考えなかった? ちょっと見くびり過ぎじゃない?」
妹紅「私達はルーミアの戦闘力を見くびってなんかないさ。聞くけどさ、ルーミア八雲藍はDAY06の夜にどこにいたかわかるか?
ルーミア「それは――調べてもいなかったけど、紫に聞いたり虱潰しに探すつもりだったよ? もちろんみんなが寝静まった頃に」
紫「プレイヤーや運営のその時々の位置は、私にはちょっと教えられないわねえ。『標的の位置を事前に把握しておく』こともゲームの要素だと思ってるし」
ルーミア「それでも夜の内に八雲藍が絶対に見つからなかったなんてことは――」
マミゾウ「いいや。見つからなかったはずじゃ。偶然なんて物はなかったんじゃよ
ルーミア「どうして!?」
妹紅「ルーミア。私達はチルノとルーミアの間に起きた一連の出来事については本当に知らなかった。だけどルーミアの殺人を断念させる為には二つの物を隠す必要があると考えていた。それが何かわかるか?」
ルーミア「……『凶器』と『〈暗視ゴーグル〉』でしょ?」
霊夢「違う。妹紅達が考えたのは、〈暗視ゴーグル〉と、『標的』よね?
霊夢ルーミア。貴方が今夜〈暗視ゴーグル〉と〈ナイフ〉を手に入れることが出来たとして、仮に私を殺そうとした場合どうした?」
ルーミア「れ、霊夢を殺そうとした場合? 普通に寝ているところに押し掛けるだけだけど……」
霊夢あら。それは大変ね。紫に言って匿って貰わなきゃ
ルーミア「匿って――貰う?」
こいし「え!? 霊夢だけそんなこと出来たの!? ずるーい! あっ! もしかして霊夢って紫の『あいじん』ってやつなの?」
さとり「こいし。どこでそんな言葉を覚えたのか知りませんが、その言葉を教えてくれた方にきちんとお礼をしなければいけませんので後で詳しく話してください」
紫「うふふ。バレちゃったわね。こうなったら私達の関係を幻想郷全土に公表するしかないわね」
霊夢「紫。余計なこと言ってるとスキマに結界を張って閉じ込めるわよ?」
早苗(霊夢さん陰で結構モテてるからそれはそれでデスゲームが始まりそうだなあ……)
ルーミア「スキマで匿って貰うなんて出来ないでしょ? 一部のプレイヤーに対する贔屓になっちゃうし」
マミゾウ「だが――八雲藍が『運営』ならどうじゃ? ルーミアの動きを監視しつつ危険を回避することも出来るのでは? 紫のスキマ等を使ってな。プレイヤーが侵入不可能な隔離エリアは必ずある
ルーミア「それなら出来ると思うけど。私の動きをモニタールームから得られる情報で先に知られていたら、私だって流石に諦めるしかないし」
妹紅「いや。八雲藍はモニタールームでそれを知ったんじゃないんだ。情報提供者がいた
ルーミア「……そんなことなんで知ってるの? 妹紅。もしかして〈17人目〉だったの? それとも運営?」
妹紅「……ごめんな。私が紫に相談して、八雲藍が標的にされた場合に自分達で対処して貰うようにお願いした。DAY06の夜は注意してくれ、もし八雲藍が運営ならルーミアから逃してやってくれ、って
ルーミア「……なんで」
マミゾウ「正確に言うと、妹紅の話を聞いた上で、わしが入れ知恵した。〈暗視ゴーグル〉を隠すだけでは不十分だと思ったからのう。それならルーミア以外の誰かに〈ナイフ〉を取得された場合でも、実行犯と藍、両方の命を救えると考え――いや、これも嘘になってしまうな」
ルーミア「え?」
マミゾウ「もっと利己的な理由でじゃ。DAY06の計画を成功させる上での不安要素は取り除きたかった。誰かが同じタイミングで殺人に動いてしまえば、高確率で計画は失敗してしまうからのう
妹紅「事実、そうなっちゃったけどな。だけど、それはもういいんだ。まずはチルノを殺した真犯人を見つけよう。そうしないと、ここにいる全員助からないからな」
ルーミア「……」
妹紅「……どうした? 私達のことを殴っても構わないぞ? もしかしたらルーミアの計画で本当にゲームが終わったかもしれなかったんだから。良い意味でな」
ルーミア「……青娥も気付いてたんだよね? その上で私の計画を手伝ったの?」
青娥「……計画をお手伝いしたかったのは本当ですし、事実アドバイスもしました。しかし――」
魔理沙「青娥は自分で何度も言ってるが――『みんなの味方』だからだろ? 運営も含めてな。だからルーミアに99個の助言をしたとしても、残り1個の『懸念材料』みたいなことは絶対に話さない」
ルーミア「違うよ」
魔理沙「え?」
ルーミア「『話せない』んだよね。それなら私も同じような生き物だから、仕方ないね」
青娥「……ごめんなさい」
ルーミア「……」
ナズーリン(……てゐ、ちょっといいか)
てゐ(……何さ)
ナズーリン(マミゾウに先を促してくれ。今が二人から情報を引き出せる最後のチャンスかも知れないんだ。心変わりされてはまずい。いつもの軽口で頼む)
てゐ「……マミゾウ。計画が無事遂行出来たら、紫に対して〈17人目〉を連れてくるように頼むつもりだったんだよね? 具体的にはどんな風に議論を展開するつもりだったの?
マミゾウ「……『何故DDSルームの奥にも大量の血が存在するのか? 出血量からして、もう一人誰かが死んだのではないのか』。とりあえず計画がうまくいったら、紫に対してこのような指摘をするつもりだった。本当は自作自演なんじゃがな」
妹紅「DAY02の時は血溜まりこそあれ死体なんて出なかったし、事実私が大怪我をしただけで、誰も死ななかった。だけど今回の計画では別だ。間違いなく私の銃殺死体が出るから、紫も〈17人目〉を連れて来らざるを得なくなる。特にトラッシュルーム奥の血溜まりは、能力を使うか、あるいは本当に誰かが死んだのでもないと状況を作り出すことは不可能だ
てゐ「はい、異議ありー。誰が死んだのかなんて、紫が作ってるモノクマファイルで一発でバレるでしょ?」
妹紅「確かにな。だけどそれは『実際に誰かが死体を見つけて、捜査時間が始まった場合』だけだろ? 死ぬのは私一人なんだし、謂わば『架空の事件のモノクマファイル』なんて紫にも作れるはずがないんだ
マミゾウ「そもそも殺人に関与したプレイヤーが隠しておきたい情報は、紫から他のプレイヤーに話すことが出来ないんじゃぞ? 今回のモノクマファイルの記述が極端に少ないことからもわかるようにな。付け加えるなら、運営はナズーリンの〈ダウジング〉能力を反論の種にすることも無理じゃな。この能力は運営がナズーリンに対して貸し出している能力なのじゃから
てゐ「それはそうだけど――そもそもだよ? 紫にごねられたらどうするのさ? 『つべこべ言わずに推理しろーい!』って。実際に妹紅は能力で死亡後に動くことも、大量に血を流してから何の治療もなく再生することも可能なんだよ?」
霊夢もう運営にはそれも出来ないのよ。〈17人目〉のプレイヤーによって、DDSルームの端末が破壊されたその日から
てゐ「DDSルームの端末?」
霊夢「てゐ。〈17人目〉の能力は?」
てゐ「そんなのまだ全然わかってないじゃん――あ」
ナズーリンそうか! 明確にプレイヤーに対しての妨害行為を行った、〈17人目〉の狂言自殺の線が消えないのか!
霊夢ルーミア、大丈夫? ついてこられそう?」
ルーミア「う、うん。大丈夫だと、思う。でも、ちょっと聞きたいんだけど――その、自殺? 〈17人目〉が自殺して、何になるの?」
青娥「そうですね――例えば〈17人目〉の誰かさんが、こいしさんと似たような能力の持ち主だとしましょうか。その誰かさんが、今回の妹紅さんの用にトラッシュルームで自傷してから、別の場所でそのまま死亡してしまったとしましょう」
ルーミア「え? そんなことするプレイヤーなんているのかなあ……」
青娥「〈17人目〉という曖昧な位置にいるプレイヤーに限っては、それも十分に考えられるんですよ。そうして自殺した〈17人目〉の死体が、死んだ後も透明化が解除されないタイプの物だったら? 困るのはどなたでしょうね?」
ルーミア「ええと、紫にはプレイヤーの能力が効かないから――そんなの、実際に捜査時間中に色々調べたりする私達が一番困るじゃん
妹紅「その通りだ。だが逆にそれを運営に対して『この状況はフェアじゃないから、推理なんて始められない。だからもう一人のプレイヤーをここに呼び出せ。生きている姿を見せろ』と直接交渉すれば、不利になるのは今度は運営側だ」
マミゾウ「敵対している〈17人目〉が行えるかもしれないことは、狂言自殺だけではない。『血液のみ一定時間具現化』したり、『死体発見アナウンスをゲーム中に一度だけ無効化出来る能力』だったり、そういう能力者である場合も考えられる
ルーミア「……そんなの、もうなんでもありじゃん」
マミゾウ「じゃろう。まあこちらにしてみれば状況が揃えばいくらでも紫に対してイチャモンを――」
ルーミア「そうじゃなくてさ。実際に〈17人目〉って、どこかにいるんでしょ? そんな能力者、ここにいるみんなの力を合わせたって勝てなくない?」
咲夜「!」
レミリア「……貴方の言う通りよ。しかも私達は、この裁判が終わった後でここから更に人数が減る」
霊夢「だとしても、私達は負けるわけにはいかない。私が文と一緒に紫から聞いた話では、『17番目の凶器はない』、『運営ではなく、内偵者』、『誰かを殺すことはない』。そういう話だったわ」
咲夜「ですがそれはルールに記載されておらず、〈17人目〉についての能力者カードのような物も、プレイヤーには配布されていない」
マミゾウ「まあ、今更紫の口約束なんぞ、信用出来ないわな」
紫「もう、そんなこと言わないでよ」
マミゾウ「だってそうじゃろう? 〈17人目〉の能力が不明というのは、明らかに探偵側の推理に支障をきたす。それにも関わらず〈17人目〉もプレイヤーなので投票対象じゃ。しかも〈17人目〉が同時に〈絶望〉であったら? この状況をアンフェアと言わずしてなんと言う?」
妹紅「まあ、計画が失敗したし紫に対してあれこれ聞くことも出来なくなっちゃったんだけど。それでも今の材料で〈17人目〉について考察することは可能だ」
ルーミア「……うーん」
妹紅「どうした? まだ納得いかない部分があるのか?」
ルーミア「私が途中から参加したからとっくに話し合ってる部分かも知れないけどさ。なんで〈幻惑〉を使って妹紅を銃殺する必要があるの? それって青娥みたいに誰かが能力未発動の確認をしたら、自分たちの犯行だってすぐにバレちゃうんじゃないの?
早苗「そういえばそうですね。どうして本来の計画でも〈幻惑〉を発動するつもりだったんでしょう?」
ルーミア「それに紫達って運営だからさ。仮に自分達が追い詰められて、〈17人目〉の情報を渡す必要が出てきたら、カメラの映像を公開したりして自分を守ることも出来るんじゃないの?
咲夜「そう、ですよね? 仮に最終手段として運営がカメラの情報を公開したら、そこには三度も妹紅さんを銃殺したマミゾウさんの姿が写っていますからね」
マミゾウ「――まず、偽装工作を行ったのは他でもないわしらなんじゃ。『犯人側の隠したい情報を探偵側には簡単に公開できない』のじゃから、紫がそれを公開すればプレイヤーから管理者倫理を問われることになる。紫、そうじゃな?」
紫「ええ。その通りよ」
マミゾウ「それにな。本来の計画がうまくいっていたら、別にカメラの映像くらい公開されても構わんかった。わし一人の能力未使用くらい証明出来ずとも、『それどころではない』状況になっていたからのう」
早苗「え? そしたら計画が御破算になりますよ!? カメラにはお二人の犯行の一部始終が収められてるんすよね?」
妹紅「その場合、しっかり写ってただろうな。私がマミゾウに銃殺される映像が一度だけ
咲夜「……一度、ですか?
早苗「いやいや、仮に一度でも妹紅さんを銃殺されている映像を全プレイヤーに開示されたら、もう言い訳がきかないじゃないっすか……」
マミゾウ「そうとも言えるな。しかし――少し考えてみてくれんか?」
早苗「はい?」
マミゾウ「わしらがプレイヤーが優位になるように動こうとしていることは、さとりならわしらの表層にある考えを読むことで100%察することが出来るんじゃよ。今現在生き残っているプレイヤーは、運営・〈絶望〉・〈17人目〉を全て合わせた人数の倍以上。それがどういうことかわかるか?」
ナズーリン「非運営側の者全員で力を合わせれば、人数で勝る状態なら搦め手でゲームそのものをひっくり返すことも出来た、ということか?」
こいし「ええと、お姉ちゃんなら妹紅やマミゾウおばあちゃんがやりたかったことが〈読心〉でわかったから、私達にそれとなくアドバイスすることで、最終的にみんなで協力することも出来た? うん、確かにお姉ちゃんなら出来るね」
さとり「……」
妹紅「そうだ。ゲームのルールからも全く逸脱していないしな。成立したはずだ」
てゐ「――ん? 待って。頭がこんがらがってきた。なんなのさ。銃殺がビデオに一度しか写ってないって。マミゾウは妹紅を三回銃殺したんだよね?
咲夜「ええと……。一度目が校舎エリアのトイレ、二度目がトラッシュルームの最奥、三度目がトラッシュルーム付近で銃殺予定だった。これで合ってますよね?」
ナズーリン「…………なるほど! 確かにそれなら一度だけということになる!」
てゐ「ん?」
マミゾウ「ほう。気付いたか。流石じゃ」
てゐ「え? なにさ。ちゃんと説明を――」
ナズーリン「これは盲点だったな! マミゾウ、もしかしたら二度目の銃殺も写っていないかもしれないぞ?」
マミゾウ「いや。流石にそれは無理じゃった。場所が場所じゃからのう。紫にもきちんと確認を取った」
ナズーリン「文字通り、これは新しい『視点』の話だ。これからのゲームにも十分活かせると思う。つまりマミゾウ達は――」
ギュッ
ナズーリン「あいたたたたた!」
てゐ「ナズーリン。一人で納得してないで、みんなに説明して」
ナズーリン「いたたた! わかった! 説明するから尻尾を放したまえ!」
レミリア「二人とも、いちゃつくのは部屋でやりなさいよ」
咲夜「いや、それもカメラで監視業務を行っている運営に行為を見られてしまうのでやめておいたほうが……。もしかしたら橙さんだってモニタールームで仕事をしているかも知れませんし」
ナズーリン……そ、それだ。カメラの話だ。あー、痛かった……」
ルーミア「カメラ? 文が持ってた手持ちみたいのじゃなくて、各部屋にあるやつのことだよね?」
ナズーリン「ああ。会場のそこかしこに設置されてる物だ。〈17人目〉の部屋まで調べたわけではないが、恐らく全ての部屋に存在する。そして――一定の倫理に基づいた上で設置されているはずだ
魔理沙「倫理? なんのことを言ってるんだ?」
ナズーリン「咲夜や青娥も、自分の部屋の隅々まで探し、監視カメラの位置を把握しているのだろう?」
咲夜「それは――安全上、当然です」
青娥「はい。私も自室の物は一通り確認しましたわ。便座の真正面やお風呂場の隅など様々な場所に、巧妙に隠された状態で設置されていましたね」
魔理沙「は? お、おいいいい! 紫、嘘だろ!?」
早苗「えー!? 紫さん! うら若き乙女の何を観察してたんすか!? はっ! わかりました! 映像を売って、ゲームの運営費の足しにしてたんすね!? 一体全体私の被写経験はプラスいくつになってるんすか!?」
霊夢「バカども、落ち着きなさい。トイレやお風呂にカメラが仕掛けられてるわけないでしょ……。 ――そうよね、紫?」
紫「半分以上のプレイヤーから殺気がひしひしと感じられるから説明するけど、この会場で肌を露わにする必要がある位置に、監視カメラは設置されてないわよ
さとり「当たり前ですよ……」
てゐ「まー、それはそうだよね。いくらなんでもトイレなんかに仕掛けられてるわけ――ない、ってことだよね? ってことは、ひょっとして――」
ナズーリンああ。宿舎エリアだろうが校舎エリアだろうが、トイレの個室にカメラを仕掛けられるわけがないんだ。つまり少なくとも妹紅の一度目の銃殺は――カメラに写っていない
こいし「へー。さっき妹紅が言ってた、二度目の銃殺の場合は?」
紫「位置が位置だから、トラッシュルームの最奥にも当然カメラは存在するわ。プレイヤーが焼却炉に対して直接工作することも考えられたし。それ自体はDDSルームの端末と同じで、破壊に対してのペナルティはないけど」
こいし「だよね。モニタールームに忍び込んだ時に、チラッとゴミ箱が写ってるの見たことあるし。 ――あれ? そしたら三度目は? マミゾウおばあちゃんは本来ならどこで妹紅を銃殺するつもりだったの? 少なくとも三度目の銃殺の時にはカメラに映らないように、〈幻惑〉を使うつもりだったんだよね?

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早苗「ええと――少なくともトラッシュルームの内側じゃないんすよね? 今回みたいな状況で妹紅さんを撃ってしまえば、他のプレイヤーから能力の関係で特定される危険性がありますし」
マミゾウ「そうじゃな。〈ナイフ〉も血溜まりもしっかり見つかって、皆が右往左往している時に、『バックヤードへの逃走が間に合う場所』で妹紅を銃殺するつもりじゃった」
早苗「そう、なりますよね? マミゾウさん達は地下のバックヤードをわざわざ計測して、〈リボルバー〉の隠し位置まで決めておいたんすよね? 例えば校舎エリアみたいな離れた位置で妹紅さんを銃殺しちゃうと、隠し場所まで走っても間に合いませんから
ルーミア「えーと、ちょっとごめんね。なんでテーブルクロスをトイレに設置する必要があったの? 当たり前かも知れないけど、〈リボルバー〉で銃殺する場合は返り血の心配をする必要がないから、偽装の為に設置しておくと不自然になっちゃうよね? それに共犯ならテーブルクロスだって処分出来たし」
てゐ「あたしも最初はそこがしっくりこなかったんだけど、マミゾウ達の話を聞いていてわかってきた。マミゾウ達は私達に想定させる〈17人目〉を『単独犯』にしたかったのさ。単独犯ならテーブルクロスを処分できなくてもおかしくないっしょ?」
こいし「でもさー、もう一回考えてみたんだけど、単独犯だったらやっぱりおかしくない? 一人だったらテーブルクロスを、トラッシュルームからトイレに運ぶの余計大変そうじゃない?」
さとり「しかし――私達を撹乱するには非常に有効なのです。単独犯を想起させるためにも、マミゾウさん達が共犯だという事実を隠し通すためにも」
こいし「どういうこと?」
さとり「レミリアさんの推理を多少繰り返す形になってしまいますが、血塗れのテーブルクロスがDDSルーム付近に設置されているということは、妹紅さん自身が自殺を隠すために用いたと解釈することも出来ます。しかし『一連の出来事の最初に妹紅さんが自殺或いは事故死した』と仮定してしまうと、現場の状況が一発で辻褄が合わなくなってしまいます。そこから私達は真相に辿り着けません。そしてトラッシュルームからトイレへテーブルクロスを運ぶ手段は、実はそう多くありません。ここから『〈17人目〉はスキマを使ってテーブルクロスを運んだ』『運営が犯人に加担している』とプレイヤーに思わせることも出来ます。そして今からマミゾウさんが話そうとしていることを踏まえれば、更にテーブルクロスの意味が変わってくるのです
ナズーリン「そうだな。マミゾウの話を聞こう。君は具体的にどのような経路を想定していたんだ?」
マミゾウ「――例えばこういう経路はどうじゃ。『トラッシュルームの中を見られたわしは、適当にエリア内を捜査しつつ妹紅と合流する。トラッシュルーム付近で妹紅を銃殺した後で、走ってバックヤードに逃げ込む』」
てゐ「うん。銃声を隠しつつ、姿も透明になれるマミゾウなら可能だね」
マミゾウ「透明に? 〈幻惑〉を使って透明になる気も、銃声を隠す気もなかったわい。皆の前に堂々と姿を表した上で地下に駆け込むつもりじゃった
てゐ「……は?」
こいし「え? ――え?」
早苗「あの……、そろそろ私も理解が追いつかないんですが、お二人は〈幻惑〉自体は使うつもりだったんすよね?」
妹紅「計画の中でマミゾウは私を殺害した後、〈幻惑〉を使いそこを離れる予定だった。だけど、透明にもならないし、銃声も聞かれてもよかった。いや、みんなには銃声も姿も確認されていなきゃ駄目だったんだ
早苗「ええと、それって〈幻惑〉を使う意味はあるんすか?」
レミリア「もちろんちゃんとあるわよ。そうよね、霊夢?」
霊夢「ええ。マミゾウは――〈17人目〉に姿を変えてから、その場からトラッシュルーム地下まで逃走するつもりだったんだと思う。マミゾウは全く別の人物に完全になり切ることも可能よ。私と文は娯楽室でそれを直接確認している

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早苗「ええ、と? それってつまり『逃走そのもの』も、マミゾウさん達が先程から話してる〈17人目〉を炙り出す為の計画の一部だったってことっすか?」
妹紅「ああ。トラッシュルーム地下は『運営が利用している』バックヤードだろ? それなら運営と深い関わりを持つ〈17人目〉の犯行だということを連想させるには、地下に逃げちゃうのが一番だって、そう話し合ったんだ
こいし「でもさー、そんなことしたら私達が駆けつけた時に、マミゾウおばあちゃんだけ地下にポツンと現れるってことにならない?」
マミゾウ「かっかっか! そこはわしの腕の見せ所じゃな! 『何者かがスキマに逃げたのを確認した』と言ってもよし! 『逃げ込んできた者など見ていない』と言ってもよし! 『そもそも頼まれたから捜査しとるのに疑うとは何事か』と開き直るのもよし! 〈17人目〉には迷惑をかけてしまうがのう!」
ナズーリン「そういう計画だったんだな。つまり、仮に地下をプレイヤー全員で探しだした時に他のプレイヤーに〈リボルバー〉を見つけられたとしても、それはそれで構わなかったのか。それもまた端末破壊に〈リボルバー〉を使った〈17人目〉を連想させる効果を持っているからな
マミゾウ「その通りじゃ」
ルーミア「うーん……。そう、なのかなあ? やっぱり一度でもマミゾウが〈幻惑〉を使えば能力の未発動が証明出来ないから、みんなに疑われちゃうと思うんだけどなあ
青娥「そう思えますよね? ですが当初の計画が順調に進んでいた場合――マミゾウさんを犯人だと断定することは、非常に難しかったんです。私達がマミゾウさんをシロだと見做せば、共犯者である妹紅さんも同時に容疑者から外れたでしょう」
ルーミア「どうして?」
青娥「状況を一つずつ確認していきましょうか。マミゾウさんは『共犯』だと自ら明かしましたが、仮に私達が『単独犯』の線で架空の事件の犯人を特定しようとしたとしましょう」
ルーミア「う、うん」
青娥「最初の質問――『極上の凶器二つの取得』。マミゾウさんが単独犯なら可能ですか?
ルーミア「え? ええと、マミゾウは私と同じでボーナスルールを二回使っちゃってるんだよね? でも運任せでいいなら、まあ……可能?」
てゐ「そこからいきなりマミゾウ一人でやるとハードルが高いねえ。ボーナスルールを使用済みなら、頑張ってもせいぜい一つくらいしか凶器を取得出来ないよね。だからルーミアだって〈暗視ゴーグル〉はともかく、〈ナイフ〉のほうには手を付けようとしなかったんじゃないの?」
青娥「では、とりあえずここは『可能』としておきましょうか。次の質問です。『妹紅さん本人に気付かれずに銃殺をすること』は可能ですか?
ルーミア「出来るでしょ? 〈幻惑〉を使えば簡単じゃん」
青娥「『他のプレイヤーに銃殺の音を聞かれないこと』は?
ルーミア「〈幻惑〉なら出来るよ」
青娥「――次の質問です。『能力不明の被害者を、トラッシュルーム最奥で密室殺人する』。これはどうでしょう?」
ルーミア「ええと――マミゾウの〈幻惑〉って、シャッターに反応しないんだっけ?」
早苗「そういえばどうなんでしょう? 紫さんなら知ってますよね?」
紫「うーん。それはちょっと私の口からは教えられないわね。ここにいるプレイヤーは全員、自分の能力の仕様を隠す権利を持っているの。それを運営である私の口から話すことは問題になるから、知りたいのならば本人に直接交渉するしかないわね
マミゾウ「ん? ああ。教えてやるわい。わしの能力ならトラッシュルームのセンサーは反応せん
ルーミア「ええと――それなら青娥のさっきの質問の答えは『可能』?」
魔理沙「いや、無理だぜ。もしくは――『半分可能』ってところか?」
ルーミア「半分?」
魔理沙「誰かと一緒にシャッターを潜ることは出来る。被害者と一緒にシャッターを潜ればな。だけど例えばゴミ箱の中に入って待ち伏せしたりは出来ない。結局のところメダルを使わないとシャッターを開けることが出来ない。そこがシャッターを潜り抜けることが可能な、レミリアの〈蝙蝠化〉と決定的に違うところだ

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青娥「次の質問です。『殺人を行う過程で出たゴミを処分しつつ、捜査時間中にミーティングを行う』。これは可能ですか?」
ルーミア「……ん? ミーティング? どういうこと?」
早苗「それは――単独だと誰にも出来ないんじゃないんすか? ほら、ミーティングでは必ずメダルの数を確認するのに、単独犯でゴミを処分しようとすると、メダルを全部使わないといけないんすから」
青娥「『〈ナイフ〉とキッチンナイフの設置』は問題ありませんね。では、『返り血を受け止めたテーブルクロスを、トラッシュルームから校舎エリアまで運ぶ』。これはマミゾウさんに出来ますか?」
ルーミア「それも――〈幻惑〉を使えば出来るんじゃないの? いや、使わなくても大丈夫かな」
青娥「それでは――『紅魔組の皆さんが事件現場を発見した後で、妹紅さんを銃殺し、〈リボルバー〉を地下に隠す』。これはマミゾウさんには可能でしょうか?」
ルーミア「うん。〈幻惑〉を使えば絶対出来る――よね?」
青娥「……ふふ」
マミゾウ「――かっかっか! 確かに〈幻惑〉を使えば、なんでも一通り出来てしまうのう!」
ルーミア「え? あれ? 何か私、面白いこと言った?」
魔理沙ルーミア。自分で青娥の質問に答えてて、わからなかったか?」
ルーミア「何が?」
こいし「……あー。私も気付いちゃったかも」
ルーミア「?」
咲夜「ふふ。ルーミアさん。お尋ねします。仮にマミゾウさんが、ルーミアさんが思った通りの行動経路を辿った場合――〈幻惑〉は何回発動すればいいのでしょう?
レミリア「今夜起きた事件ではなく、マミゾウ達の作ろうとした『架空の事件』の現場での話よ」
ルーミア「ええ、と。DDSルームで凶器を取り出してから、トラッシュルームの最奥で〈ナイフ〉を使う時にまずは一回能力を使って……。騒ぎが起きて、どさくさで妹紅を銃殺する時には……。ん? もう一回使うことになって……。でも、そもそもテーブルクロスを運び出している時に誰かとバッタリ会ったら、やっぱり使うことになっちゃうし……」
てゐ「……ルーミア。マミゾウの能力カード、確認してみ?」
ルーミア「……見なくても覚えてるもん。一時間に一回、三分間しか能力を発動出来ないんでしょ?
青娥「うふふ。気付いちゃいました?」
霊夢ルーミアの着眼点そのものは悪くないのよ。そしていかなる計画が実行されていたとしても――マミゾウや妹紅が本当に事件に関与していれば、容疑者に二人が含まれることになっていたのは間違いない」
ルーミア「え?」
さとり「ですが――それでも被害者を確定出来ていない、何人殺されたのかすらわからない、いわゆる『宙ぶらりん』の状態で私達が裁判を続けることは、精神的に難しかったでしょうね。本来被害者であるはずの妹紅さんが共犯であり、私達を妨害する側のプレイヤーであったのなら尚更です。そのような状況になった場合、私たちは推理を放棄していた可能性すらあります。それよりもむしろ――」
魔理沙計画がうまくいって、マミゾウが〈17人目〉を引きずり出そうとするほうに便乗するほうが、確かに私達も楽だったよな。本来第一の味方であるはずの妹紅がクロ側に回ってたら、私たちにはどうしようもない
霊夢「どう、ルーミア? 多少は納得出来た?」
ルーミア「うん。一応……」
ナズーリン「――ちなみに計画が順調に進んでいた場合、マミゾウは誰に化けるつもりだったのかね?」
マミゾウ「妹紅とはそのへんも話し合った。とりあえずはわしの気分次第で誰かに化けることにした。妹紅には後から口裏を合わせて貰えばよかったしのう」
妹紅「今回の事件ではチルノの件が重なって、『〈17人目〉に突然撃たれた』という線で嘘を展開することは出来なくなった。だから私は『誰も見ていないし、何も聞いていない』と証言するしかなかったんだ
マミゾウ「――しかし、言われてみると誰に化ければ良かったかのう? 予定が完全に狂って、その楽しみも失われてしもうたわい」
ナズーリン「楽しみって、君なあ……」
魔理沙「〈17人目〉が似合いそうで、会場にも存在しない人物か。うーん……、普通に『鬼人正邪』とかじゃないか?」
妹紅「私は話し合った時、『あいつ』一択だったけどな」
霊夢「そんなの今考えたってしょうがないでしょ。紫にでも化ければいいじゃない」
紫「いや、私運営だから。ちなみに私は『比那名居天子』に一票。最近一緒につるんでいるらしい『依神姉妹』にも一票ずつ」
マミゾウ「姉の方はともかく、妹の方はだいぶ聖に気に入られていたみたいじゃがのう」
ナズーリン「そういえば、そうだったな。煩悩の塊みたいな人物だったが……」
ルーミア「それなら、あの異変の人は? ほら、真っ黒い水の」
てゐ「『饕餮尤魔(とうてつゆうま)』って奴のこと? それもありかもね」
ルーミア「青娥なら誰にする?」
青娥「そうですね……。あまりその手の話題に乗るのもよろしくないと思いますが、『 天弓千亦(てんきゅうちまた)』という方も相当の実力者だと聞きましたね」
こいし「あ! それなら私すっごい強いって噂の人、一人知ってるよ! 『風見幽香』って人知らない?」
魔理沙「い、いや、それは流石に……」
霊夢「裏でこそこそ動き回るタイプとも違うわね」
レミリア「……………………『綿月依姫』」
咲夜「はい? 何か言いました?」
レミリア「なんでもないわ」
早苗「ふっふっふ……。皆さん、最近のトレンドがわかっていませんねえ。それならうってつけの人物がいますよ。そうですよね――さとりさん?」
さとり「――!」
魔理沙「え? なんでさとりなんだ? さとりはそもそもプレイヤーだぜ?」
早苗「違います。さとりさん本人じゃありません。永遠亭――。名推理――。探偵物――。てゐさん、何か思い出しません?」
てゐ「私? そういえば、うちでなんか事件があったような気が……」
さとり「早苗さん」
早苗「忘れたとは言わせませんよ。さあさあ! 貴方の武勇伝と共にその名前を言ってみてくださいよ! 彼女の名は――」
さとり「その情報はあまりにも『新し過ぎ』ます。なので却下です」
早苗「それってつまり、『反則』ってことですか?」
さとり「いいえ。とにかく却下です」
早苗「は、はい……」
こいし「――ねえねえ。妹紅ってさ」
妹紅「なんだ?」
こいし「一人で三回も死ぬとか、はっきり言ってバカなんじゃないの?」
妹紅「バ、バカですか!?」
さとり「こいし。都市伝説関連の異変時に顔を合わせているとはいえ、ほぼ初対面の人物に対してそのようなことを言ってはいけませんよ?」
妹紅「! そ、そうだ。今思い出したよ……。こいしとも一回勝負してたっけ……。こいしの能力の関係かも知れないけど、すっかり忘れてた……」
てゐ「いや、それはあんたが忘れっぽいだけ」
ナズーリン「笑い話にしたい所だが――。妹紅、マミゾウ。こいしの言う通り、その力の使い方は一般的な倫理観からは、少々かけ離れていると思える。特に聖に対しては、今回の件を詳細に話すことはやめたほうがいいようにも思えるな」
てゐ「ん? 案外笑って許してくれるんじゃないの?」
ナズーリン「いや、流石にこれは……」
てゐ「笑って話を聞いた後で――樫の警策で妹紅とマミゾウのケツをそれぞれ百叩きだね」
ナズーリン「うちの住職に限ってそんなことは……まあ…………無いとは思うが…………自信ないが……」
咲夜「あの――それで、妹紅さん達はこれらのことについてどう思われますか?」
マミゾウ「ん? ああ。安心せい。妹紅を囮にしてわしだけしばらくこいしと一緒に隠れとけばよい。わしの代わりに妹紅のケツを差し出せば丸く収まるじゃろ」
妹紅「はいぃ!?」
早苗「ケツを差し出す!? それってつまり、東方壁し――」
ゲシッ
早苗「いたっ!? 咲夜さん、無言でお尻を蹴らないでくださいよ!」
咲夜「マミゾウさん達に聞きたかったのはそういうことではなくてですね……。もしお二人がよろしければ、今回の事件に大きく関与していたお二人のアドバイスを取り入れつつ、まとめたほうがいいと思うのです。一度目の事件と比べても情報量が多いので、そのほうが議論が捗ると思うのですが」
霊夢「……ほら。とっくに出来てるわよ。こういうのでしょ?」
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魔理沙「……すげえな、これ。みんなも見てみろよ」
早苗「え? うっわ! 超わかりやす!」
さとり「ふふ。流石霊夢さんですね」
霊夢「そんなに驚かれても……みんなの話してたことをまとめただけでしょ?」
ナズーリン「いやはや、先程から何かメモを取っていると思っていたが、まさか全体をここまで要約していたとはな」
こいし「え? 一回目の裁判の時、メモなんて取ってたっけ?」
霊夢「? ああ。こいしもあの場に居たんだ。――文なら多分裁判中もメモを取りながら話を聞いていただろうな、って思ってね」
レミリア「……」
咲夜「お嬢様。こうして比較してみると、本来の計画と実際の出来事にずいぶん開きがあったようですね」
レミリア「――ええ。そうみたいね」
妹紅「ちょっとそのメモ、私にも見せてくれ。なるほど、これなら把握しやすいな」
てゐ「マミゾウ、訊きたいんだけどさ。さっき言ってた『〈17人目〉についての考察』って何?」
マミゾウ「よし、主犯であるわしが、細部を語っていこうじゃないか」
妹紅「なあ、ここには紫もいるんだぞ? 今話すのは、まずいんじゃないのか?」
マミゾウ「そんなことも言ってられんじゃろう。DAY05の深夜、話し合いの中で出た〈17人目〉についての考察は皆とも共有しておくべきじゃろう。〈17人目〉の存在そのものについて、いくつかの不審な点があることもな
 

12

ナズーリン「――ん? そういえばさとり。話を戻すが、本業である怨霊管理の他にも何か『副業』があると聞いているが?」
こいし「え? お姉ちゃん。なんの話?」
レミリア「あ。そういえば今、ナズーリンの顔を見てたら、本当に唐突に思い出したんだけど」
ナズーリン「なんだね?」
レミリア「その喋り方なんだけど、里で本当にたまたま見かけた時は、全く別な感じだった気がするのよ。もしかして状況で使い分けてたりする? 咲夜もその時居たわよね?」
咲夜「はい。思い返してみると、そうだった気が……」
ナズーリン「な……、な、な! え、えええ? は? それは……」
てゐ「いやいや、あんた動揺し過ぎ」
さとり「ナ、ナズーリンさん! いきなり話を蒸し返さないでください! こいし! な、なんでもありませんよ? こ、こほん。 ――それでは、マミゾウさん、妹紅さん。機は熟したと思います。二人が話し合うことで得られた〈17人目〉についての考察を皆さんと共有して頂けないでしょうか」
魔理沙「そ、そのとおりだ! そもそも言葉遣いなんて唐突に指摘するものじゃないだろ!? まだ裁判中だぜ!?」
マミゾウ(なぜ此奴まで焦っとるんじゃ……)
青娥(話題を反らせつつ、本筋に戻しましたね)
マミゾウ「……よしわかった。まず第一の不審な点から話すか。まずこれを見てくれないか」

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咲夜「これは――青娥さんがゲーム初日に手に入れたという、〈絶望〉が所持していたルールブックにのみ書かれていたという情報ですか?
青娥「あら、一言一句覚えていてくださったのね」
マミゾウ「良いか? 青娥はDAY04の裁判の終わりに、ルールブックを入れ替えたことを皆に公表したのじゃ。では、その時点で〈17人目〉は何故自分が〈17人目〉である事を明かさない?
ルーミア「――私達より運営のほうを味方したくなったから?」
マミゾウ「そんなわけあるかい。勇儀が犯行に及んだ根本的理由はなんじゃった?」
咲夜「勇儀さんは、自分が〈絶望〉だと知ったことで覚悟を決め、裁判に勝っても負けてもゲームを終わらせることが出来ると考えたのですよね。ですがルールブックは青娥の工作で掴まされた別のプレイヤーの物でした
マミゾウ「その通り。つまり『自分が〈17人目〉に選ばれた』ことがルールブックに書かれていた場合――そのプレイヤーはどんな行動を取る?
咲夜「私ならルールブックが交換されていたということを知った段階で、自分が〈17人目〉であることを公表しますね
てゐ「咲夜はそうかも知れないけど、こうも考えられない? 『DAY02でDDSルームの端末を破壊したことで、他のプレイヤーからのヘイトを買ったから、裁判終了後も名乗り出ることが出来なくなった』
マミゾウ「だとしたら、ルールブックの交換が判明した段階で、〈17人目〉は運営に従う意味がなくなるだけど霊夢が紫にビデオカメラを渡した際、それは更に〈17人目〉に預けられることでバッテリーが取り替えられているそれはつまり〈17人目〉はこの二回目の裁判の時点でも、運営の味方に回っているということじゃ

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妹紅「こうも考えられないか? 『〈17人目〉はルールブックによってではなく、運営から直接〈17人目〉としての役割を任された』
レミリア「そうだとすると厄介ね。そこまで運営と深く繋がっているプレイヤーなんて、実質運営そのものじゃないの」
てゐ「本当だね。懐柔なんて無理なのかも知れないねえ」
ルーミア「ん? ねえ。ちょっと待って。〈17人目〉って私達がまだ見ていない、多分幻想郷でそこそこ強かったり頭の良い誰かのことでしょ? なんだか私達の中に〈17人目〉がいる、って話になってない?
早苗「え……?」
ナズーリンルーミア恐らくマミゾウ達は――『運営と繋がっているプレイヤーは存在するかも知れないが、それは私達が未だ見ていない誰かなどではない』という前提で話をしている
ルーミア「ええ!? だって〈17人目〉の部屋だってあるじゃん! どういうこと!?」
マミゾウ「そう。確かに部屋だけならある。誰も使っていない部屋がな。だが〈17人目〉はナズーリンの検索にも引っ掛からなかった。これはどういうことかのう? 第一の事件の際、ナズーリンは『この事件に関係している人物』の名前で検索を掛けたじゃろ? その時の検索結果はどうじゃった?」
咲夜「ええと……」
レミリアゲーム管理者を含めて、19人が検索に引っ掛かったのよね。そこに〈17人目〉は含まれていなかった

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ナズーリン「その通りだ。こいし、ちょっと訊きたいのだが、文が殺される前、部屋にメッセージを書く以外で何か大きな動きをしたか?
こいし「ううん! 全然! 〈香水〉と〈消臭剤〉はDDSルームから貰っていったけどね
ナズーリン――つまり、〈無意識〉という隠密行動特化の能力を運営から与えられ、なおかつ青娥の部屋で行動を起こしていないこいしですら、私の〈ダウジング〉には引っ掛かったわけだ。なのに何故〈17人目〉は〈ダウジング〉に引っ掛からなかったのか。そこがおかしい。マミゾウ、これが第二の不審な点だろ?」
マミゾウ「そうじゃ。それにな。あの時に検索に引っ掛からなかったとしたら〈17人目〉はナズーリンの〈ダウジング〉すら回避出来る能力が与えられているということになるが、これもおかしいんじゃ。〈17人目〉というたった一人のプレイヤーに対して、能力、あるいは権限が与えられ過ぎていると思わんか?
早苗「そんなにおかしいっすかね? すっごく内偵向きの能力に思えますが。でもその能力一つならそこまで依怙贔屓されているようには――」
妹紅「それだけじゃない。DDSルームの端末が破壊されていたからな。つまり〈17人目〉もチルノと同じように、『無から凶器を作り出せる能力者』だってパターンも考えられる
てゐ「待ってって! それはいくらなんでも有り得ないっしょ! DDSルームの端末は明らかにピストルで破壊されてたんだよ!?

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マミゾウ「そうじゃな。だったら〈17人目〉は『手から弾丸を射出出来る能力者』なのかも知れんのう」
てゐ「――マミゾウ。誰のことを指しているのか知らないけど、今その名前を出したらぶっ飛ばすよ?」
マミゾウ「違う違う! そういう意味で言ったわけではない! わしが言いたいのはな。仮に魔理沙達が処分したばかりの〈リボルバー〉や〈セミオート〉を使ったのだとしたら、〈17人目〉はどうやってそれを手に入れたのか、という事なんじゃ
てゐ「いや、DDSルームには大量の凶器が魔理沙達によって送られているんだから、部屋自体は開放されてるでしょ? だったら深夜の内に、端末に凶器の番号を入れてからチャレンジすれば――あれ?

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妹紅「な? 普通出来るわけがないんだよ。いくらDDSルームに沢山の凶器があっても、凶器の番号が無ければ、狙った凶器を取り出せないんだ
てゐ「うーん……。適当に番号を打ち込めば、確率的には当たるんじゃないの?」
妹紅「そんな風に〈リボルバー〉を手に入れられるわけないだろ。てゐが〈幸運〉を持っているからそういう発想が出てくるんだろうけど。いいか? 追加ルールはDAY02の昼に配信されたんだぞ? つまりDAY01の深夜の内に端末を破壊したいのなら、当然〈17人目〉はDDSルームの中で1/6で死んでしまう賭け事に挑戦しなければいけなかったというわけだ。青娥が凶器のリストを拡散する前にも関わらずな
てゐ「まあ、チャレンジしたんじゃないの?」
マミゾウ「端末を破壊するという、そんなつまらん用事のために命を賭けたのか? 道具を使って時間を掛ければ壊せるかも知れないのに? そんな気軽に銃を取得しようとは思わんじゃろ。てゐ、話を戻すぞ。〈17人目〉は凶器の番号をどうやって手に入れたと思う?
てゐ「……」
マミゾウ「どうじゃ?」
てゐ「……はいはい。ギブアップでーす。つまり第三の不審な点はこういうでしょ? 『〈17人目〉に与えられた物が多過ぎる』
ナズーリン「こいし以上の隠密能力、DDSルームをボーナス無しで使えるなんらかの能力。そして凶器のナンバーを知ることが出来る権限」
咲夜「権限?」
ナズーリン深夜には早苗と魔理沙が私達の部屋の前で見張りをしていたし、凶器はさっさとトラッシュルームで処分していたのだろう? だったらジュラルミンケースの中から直接凶器を取得することなんて普通は不可能だし、魔理沙達が見つけられなかった凶器は〈トラバサミ〉だけだった。青娥は文に凶器のリストを渡していたそうだが、それだって賢い文なら他のプレイヤーにバレやすい所にはリストを隠さなかったはずだ。ジュラルミンケースの中に凶器と一緒に保管し、鍵を掛けて管理していたことだろう。現に文は魔理沙から一度メダル等を盗まれているんだ。『悪意を持ったプレイヤーに貴重品を盗まれる危険性もある』ということにも気付いていたはずだ」
魔理沙「ま、まあ私はそこまで悪気があってメダルとか盗んでたわけじゃないんだけど。ほら、茶目っ気みたいなもんで」
さとり「魔理沙さん。それではまるで取調べを受けている犯罪者の言いわけですよ……」
咲夜「では、〈17人目〉はどこで銃の番号を手に入れたのでしょうか?
ナズーリン「運営から凶器の番号を直接教えられていた。というのは――うーん、なんだかしっくりこないなあ」
てゐ「そんなの運営がやったら、プレイヤーへの干渉になりまくるじゃん。あんたアホなの?」
ナズーリン「あ、アホとは心外だな! だが他に手段は無いだろう!?」
咲夜「あの――番号だけなら一応ジュラルミンケースのラベルにも書かれているから、部屋の侵入さえ出来れば可能ですよね?

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レミリア「そうね。でも番号だけわかっても、中に入っている凶器が何かまではわからない。もちろん鍵さえ見つかれば番号なんて関係なしに盗み放題だけど」
魔理沙「いいや。部屋からは盗まれていない。私と早苗は、プレイヤーの部屋から凶器を盗み出してから、トラッシュルームで捨てて、DDSルームの端末で総数を確認した後で見張りを始めたんだぜ? 当然その時に端末が壊れてないことなんて確認済みだ。端末破壊より前に凶器が盗まれていたなんて有り得ないさ。先に端末が破壊されていたら、そもそも私達はトラッシュルームもDDSルームも利用するわけがない。間違いなく銃はDDSルームの方から盗難された
早苗「ええ。私も一緒に端末を確認しています」
魔理沙「ちなみに私達が部屋から凶器を盗んだ際、早苗は凶器の種類はともかく、番号については一切把握してないぜ? 実際に部屋に侵入したのは私だし、その時に早苗には『レミリアの部屋にあるはずだった凶器は〈トラバサミ〉だった』ことについては教えたけど、〈トラバサミ〉の番号を二人で共有することはなかった。DAY02の時も話したが、『凶器のリスト』を青娥から受け取ったのは私のほうだ
早苗「私が魔理沙さんに頼んだんですよ。この時はまだ凶器を再取得する予定もありませんでしたし、こういう議論になった時に疑われるのも嫌ですので……
ルーミア〈奇跡〉を持つ早苗だって凶器に対応する番号がわからなければ、銃を狙って取り出せないもんね
 

13

妹紅「なあ。今凶器の番号についての話が出たが、この番号の存在そのものについても疑問が出てこないか?
こいし「どういうこと?」
妹紅「そうか。こいしはさとりに全部預けてたんだっけ。ほら、プレイヤー全員にこういうのが配られたんだが――見たことあるか?」

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こいし「これって、食堂で議論する時とかにみんなが持っているやつ?」
妹紅「そうだ。そして凶器のリストに書かれていた情報は、端末が破壊された後に、青娥によって何人かのプレイヤーによって共有された。最終的に全員が凶器全体の情報を受け入れ、運営からこんな風に簡略化されたカードも配られた」

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こいし「何これ!? このカード超かっこいいじゃん!」
妹紅「気に入ったか? なら全部やるよ。私は裁判が終わったら〈追放〉されるからな」
こいし「わーい! やったー!」
妹紅「さて、この二枚を見て、何か違いに気付かないか?
こいし「霊夢のカード、情報が殆ど書かれていないけど、それが関係あるの?」
妹紅「いや、そうじゃないんだけど……。これはチョイスが悪かったかなあ。それなら、このカードを見てみろ」

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こいし「うーん……あ! わかった!」
妹紅「お、気付いたか」
こいし「霊夢! 霊夢に配られた武器って〈グングニル〉だったんでしょ!? 当たった!?」
霊夢「そんなわけないでしょう……」
こいし「えー、だってグングニルの番号は1番じゃん。霊夢ってプレイヤーのNo.1なんでしょ!?
早苗「いやあ。最近はそうでもないんすよねー。直近の結果だって確か一位を取ったのは、こん――」
霊夢「ねえ、魔理沙
魔理沙「ん?」
霊夢「一緒に『奴』を殺りましょう?」
魔理沙「いいぜ。ゲームが終わったら協力しよう」
早苗「いや、ガチで『彼女』のファン多いですからね!? この御時世にネット炎上はまずいですって!」
妹紅「頼む、わけのわからないことを横でゴチャゴチャ言わないでくれ……。こいし、なんで霊夢が1番目のプレイヤーだと思った?
こいし「だってこのカードに――って、あれ? 凶器の方はともかく、プレイヤーのカードには何の番号もないね
妹紅「そうだ。こいしは『プレイヤー全員に番号が付けられているとしたら、霊夢が当然一番目に来るはずだ。だったら同じ番号の凶器が霊夢に配られたのかも知れない』って考えたんだよな。ところが凶器の方には全てきちんと番号が振られているのに、プレイヤーのカードには一切の番号が振られていないんだ。それって、少しおかしくないか? 紫があらかじめ〈17人目〉を会場に忍ばせるつもりなら、存在を仄めかすために私達にも番号が振られていてもいいはずなのに
こいし「へーえ。確かに番号が付いていてもいい気がするのにね」
妹紅「ちなみにNo.01の〈グングニル〉。その最初の持ち主は、恐らく勇儀だ。勇儀はゲーム初日にジュラルミンケースを持ち歩いていたけど、能力を制限された状態でも高い身体能力を持つ勇儀が一度でも『重たい』と形容していた凶器だからな

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咲夜「なるほど。そういう理由も含めて、妹紅さん達は『私達の中に〈17人目〉が紛れ込んでいるのかも知れない』と考えたわけですね」
マミゾウ「ああ。つまり第四の不審な点は、『プレイヤーカードに番号が振られていない』ことじゃ」
てゐ「ねえ。それってさ、DDSルームで番号を指定して凶器を取得する必要があるからじゃないの? つまり、DDSルームのシステム的な問題っていうかさ」
マミゾウ「ならば、凶器の取得方法を別の形式にして、プレイヤーにも凶器にも番号を振らなければいい話じゃ。運営が〈17人目〉の存在をギリギリまで隠しておきたかったと考えると、どちらにせよ矛盾する
レミリア「マミゾウ、第五の不審な点は?」
マミゾウ「この前の休日、我々はどうやら昏睡状態だったことがわかったな? その時、14人が昏睡状態だったことが判明し、2人の存在が消えていた

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咲夜「――なんとなく言いたいことはわかりました」
レミリア「ええ。マミゾウは『〈17人目〉の誰かが、私達のように昏睡状態になってないとおかしい』ってことが言いたいんでしょ?」
早苗「おかしいですかね? 紫さんを始めとした運営の方達だって、別に昏睡状態にはなっていませんでしたよね。運営寄りのプレイヤーである〈17人目〉も起きたままゲームに参加していても良くないですか?」
マミゾウ「いいや。紫達がゲーム中にどのような状態だったのかを証言した人物は、少なくともわしは見ておらん。同じように昏睡状態だった可能性すらある。だとすると――〈17人目〉はどうやってゲームに参加していたのかのう?
早苗「はい?」
レミリアこの会場には一時的に昏睡状態にならないと入れない可能性が高いとしたら、紫と一緒にマヨイガのどこかに隠れて幻想郷の住民による捜索を回避していたのか、あるいは元々余程わかりづらい所に住んでいる人物なのか」
咲夜「だとしても、ここにいるプレイヤーのように幻想郷でそれなりに実力がある人物なら、音信不通になれば捜索依頼が出されてもおかしくはないですよね? 命蓮寺に住む皆さんや、あるいは私達紅魔館や地霊殿の住人ならともかく――人と距離を置くために竹林に住んでいる妹紅さんもすぐに昏睡状態であることが判明しているのですよ? 初日から合算してたった四日のうちに、永遠亭の皆さんは会場のプレイヤー全員の状況を把握しています。だとすると幻想郷社会と関わりの少ない人物でも、昏睡状態になればすぐに状況が判明してしまうのでは?
てゐ「まあ、妹紅に関しては、なんだかんだで永遠亭に遊びに来るし、三、四日もあれば、姫様が兎にでも様子を見に行かせることもあるだろうね」
妹紅「いや、いつも別に永遠亭に遊びに行ってるわけじゃないからな!? 『あいつ』と決闘しに行ったり、里で出た患者を連れて行ったり、慧音の用事に付き合ったり、鈴仙やてゐがどうしてるかなんとなーく気になるから顔を出しているだけであって!」
てゐ「……」
妹紅「な、なんだよ? 何か言いたい事があるのか?」
てゐ「この前、あんたと姫様って縁側で一緒にお茶飲んでたじゃん。もう例のあばら屋じゃなくてうちに住めば?」
妹紅「あばら屋ってなんだよ!? 私が手間暇かけて作った家を馬鹿にすんな!」
ルーミア「――なんかさ。この前の休日、おかしくなかった?
こいし「え? 何が?」
ルーミア霊夢魔理沙が昏睡状態になったにしては、そこまで騒ぎになってなかったなあ、っていうかさ。もっと博麗神社に大勢の人が押しかけるような大騒ぎになってても良くない? ほら、事実一週間も経っていなかったわけだし」
こいし「言われてみれば――確かにそうだね」
魔理沙「まあ、確かにそうだが、ここは幻想郷だぞ? そういうことも起きる、って感じで納得したんじゃないのか? それについてはとりあえず別のタイミングで――つまり明日以降議論したほうがいいな。マミゾウ達は、まだ何か〈17人目〉について共有したいことがあるんだろ?」
咲夜「五番目の不審な点は、『私達以外に幻想郷で昏睡状態になった人物が見当たらない』という事でよろしいですか?
妹紅「ああ」
こいし「マミゾウおばあちゃん。第六の不審な点は?」
マミゾウ「ふむ。これは恐らく皆も気付いているだろうが、〈17人目〉が生活しているという痕跡が、会場には一切見つかっておらん。ナズーリンの〈ダウジング〉にも一切引っ掛かっていない
ナズーリン「まあ、みんな気付いているだろうが、私は事件が起きていない時でもなるべく〈ダウジング〉の回数を毎日使い切るようにしている。〈17人目〉が生活している痕跡についても――検索は行った」
マミゾウ「結果は?」
ナズーリン「〈17人目〉についての情報は一切引っ掛からなかった。私は『〈17人目〉の現在の居場所』はもちろんのこと、『〈17人目〉の使用した化粧品の場所』『〈17人目〉が着用した衣服の場所』『〈17人目〉が使った歯ブラシの場所』等で検索しても、それら全ての検索結果は0件だった」
てゐ「うわあ……」
こいし「きも……」
ナズーリン「な、なんだねその目は?」
ルーミアナズーリンは〈17人目〉のストーカーか何かなのかー?」
ナズーリン「し、失敬な! 誰がストーカーだ! それくらいの細かい条件で検索しても手掛かりを得られなかったという事なんだぞ!? もちろん会場の隅々まで直接見て回っても、〈17人目〉は見つからなかった。毛髪も何本か採取してみたが、色や長さから考えても我々以外の物を一切見つけることが出来なかった。食事や排泄、とにかく生活全般の形跡が見当たらなかった」
てゐ「うわあ……」
こいし「きも……」
ナズーリン「な、なんだねその目は?」
ルーミアナズーリンは〈17人目〉のストーカーか何かなのかー?」
ナズーリン「何故同じやり取りを二回しなければいけないんだ!?」
マミゾウ「これでわかったじゃろ? 運営は明らかにナズーリンの〈ダウジング〉能力にフィルターを掛けているんじゃ」
さとり「――では、それを踏まえて、カードをもう一度見てみましょうか。この探偵側にとって不利な検索結果は、厳密にはゲームマスター権限の6番には抵触していませんし、そもそもレミリアさんが先程話していた通り、カードには何も運営を拘束する力がありません」
咲夜「はい? ダウジング〉で〈17人目〉についての検索がうまく働かないのは、プレイヤーへの干渉ではないということですか?」
レミリア「そうよ。七つある文章は紫自身の能力についてはともかく、プレイヤーの能力については一切触れていない。そしてそもそも、ここにいるプレイヤーは本来の能力を取り上げられ、与えられているのは運営から与えられている力であり、能力が『最初からそういう仕様』なら、ナズーリンの〈ダウジング〉に制限が掛かっているとも言えない
魔理沙「――紫。お前さ、私達と対等に勝負したいんじゃないのか?」
紫「あら? 私はみんなと勝負しているつもりはないわよ? 勝手にコロシアイをしているのは貴方達であり、あくまで私は運営よ? 別に30日間でも60日間でも、なんなら100年でも1000年でも、貴方達がコロシアイを一切しなかったとしても、私にはそれを止める権利はぜーんぜんないのよ? そうなってくると、お金の工面は大変だけどねえ……」
霊夢「……」
早苗「……」
咲夜「……」
魔理沙「……お前、何ふざけたこと言ってんだよ? お前がゲームに駆り出したせいで、既に四人も死んでるんだぞ! こっちにだって多少は人数も武器も能力もあるんだぜ? その減らず口もいい加減にしないと――」
マミゾウ「魔理沙!」
魔理沙「!」
マミゾウ「話を最後まで聞け! もうそろそろわしらの話も終わりじゃ。良いか? 〈17人目〉があくまでプレイヤーの一人なら、運営が管理する禁止エリアに住処を作るわけにはいかないんじゃよ。〈マスターキー〉等が必要な、鍵が掛かった部屋にもな。仮にわしらが紫に『現時点でプレイヤーが移動可能な全ての部屋へ案内しろ』と言ってしまえば、『〈17人目〉のために作った隔離エリア』みたいな場所があれば、簡単に入れてしまうのじゃ
魔理沙「――つまり、〈17人目〉はやっぱり私達と同じように生活している。ってことか」
マミゾウ「ああ。それが六つ目の不審な点じゃ」
妹紅「――マミゾウ。そろそろ……」
マミゾウ「ああ、最後の不審な点じゃな。妹紅、お前の口から話せ」
妹紅「わかった。またみんなに質問してみるか。なあ、プレイヤーは全員で何人だと思う?
ルーミア「え?」
てゐ「あのさ……。今までそれを散々話し合ってたんじゃないの? 私達はなんとなくプレイヤーは17人いると思ってたけど、実は部屋が17個あるだけで、実際は16人の内の誰かが内通者の危険性がある。そう言いたいんでしょ?」
妹紅「じゃあ、プレイヤーが17人いるって、誰から聞いた?
早苗「え? ううん、と――」
妹紅「……」
魔理沙「ん? そういえば――」
妹紅「運営の誰かが、私達にきちんとそういうことを言ったか? こういう時間だから頭を働かせるのは大変かも知れないけど、紫の発言をちょっと思い出してみてくれ」

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ルーミア「――あれ?」
青娥「ふふふ……」
咲夜「そういえば私達は、紫の口からは一度も――」
レミリア「ええ。私達は誰一人として、プレイヤーの人数に関するはっきりした言葉を聞いてないわね
ナズーリン「ん? DAY02の時はどうだ? 魔理沙が運営を追及している時には確か、そんなことを――」
こいし「! そうだよ! 端末が壊された時に紫が言ってたじゃん! だから私も部屋にメッセージを残すのをやめちゃったんだけど!」
霊夢「――言ってないのよ」
こいし「え?」
霊夢『プレイヤーが全部で16人だなんて言ってない』。紫はそんなことを言っていたけど、『プレイヤーは全部で16人だ』とも、『プレイヤーは〈17人目〉を含めて17人だ』とも、一言も言ってないわ

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ナズーリン「そ、そんな馬鹿な……」
てゐ「何もかも紫の手のひらの上だったってこと!?」
レミリア「紫。ちょっといい? どうせ訊いてもまともに答えないだろうけど」
紫「何かしら?」
レミリアこの会場にプレイヤーは何人いるのか、今ここで、正直に答えて
紫「……」
魔理沙「どうなんだ、紫?」
紫「貴方達は――」
霊夢「……?」
紫「策を巡らせて私から〈17人目〉の情報を引き出そうとしていました。妹紅さんとマミゾウさんは命を賭してまで」
レミリア「それで?」
紫「ですがその二人は本来の計画を遂行出来なかったそうですね? だったら交渉には応じてあげられないわね」
妹紅「……駄目か」
魔理沙「……クソ!」
マミゾウ「まあ、予想はしていたがのう」

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紫「でも、妹紅さん達の頑張りに免じて、ヒントはあげようかしら? 貴方達が『〈17人目〉が誰なのか』を知る方法は、確実に存在するわよ
早苗「え!?」
マミゾウ「な、なんじゃと!?」
てゐ「いったい、どうすればいいのさ!?」
紫「うーん。残念ながら具体的な方法については、教えられないわねえ。ゲームを円滑に進める手助けをしてくれている〈17人目〉に対して失礼だし。――だけどね、みんなの初日の動き次第では、本当にあっさりバレちゃう危険性もあった。そういう手段なのよ。逆に言えば〈17人目〉とうまくやっていくつもりがあったのなら――つまり、内通者を懐柔して殺人を回避するつもりだったのなら、ゲームの最初期に特定するしかなかったわね。早期に自分の正体がバレてしまえば、〈17人目〉も諸手を挙げて降参しただろうし」
霊夢「紫。どうしてその情報を私達に?」
紫「青娥さんがみんなに協力する理由と同じよ。私はプレイヤー全員の味方であって、いくら運営の手足となって動いてくれると言っても、〈17人目〉にだけ極端に加勢するわけにはいかないわ」
てゐ「いやいや、今もがっつり加勢してるっしょ……」
咲夜「それは――今の私達にも試せる行動ですか? あるいは私達が現在所持している証拠品からでも十分に辿り着けるなんらかの結論ですか?」
紫「そこも含めて秘密にしておこうかしら。うふふ」
青娥「あらあら? うふふ」
てゐ「青娥。一緒にうふうふしてないで、教えてよ、紫の言いたいこと。今のヒントでわかったんでしょ?」
青娥「私からも内緒にしておきましょうかね。そのほうが面白そうですし。ただ、これは私の見解なんですけど――霊夢さん。貴方は必ず〈17人目〉の正体を見破ることが出来ます。ですが――それが直接ゲームの勝利に繋がるとは限りません
マミゾウ「それは、わしらの行ったことを全否定してるようにも聞こえるのう」
青娥「全否定なんかしませんよ。むしろ、レミリアさんの行動も、こいしさんの行動も、ルーミアさんの行動も、妹紅さんとマミゾウさんの行動も、ゲーム全体を『然るべき方向』に動かす上で非常に重要な行動だったと思っています」
妹紅「……なあ、青娥」
青娥「はい?」
妹紅「――ひょっとして、この状況は最初の事件と同じなのか? プレイヤーを目一杯挑発して咲夜に拘束されたことも、この状況を誘発するために行ったことなのか?
魔理沙「……私にもそう思えるな」
ルーミア「青娥……」
青娥「そう思うのでしたら、ご自由に。ですが、皆さん? 仮に紫さんがヒントを出したやりかたで〈17人目〉を特定しても、会場の人数が大きく減ってしまう明日以降にそれを行えば、その行動は私達の大きな不和の種になってしまうでしょう。そういう意味で紫さんは、私達にあっさりヒントを教えてくれたのでした。おしまい。ちゃんちゃん♪」
紫「まあ、そういうことね。貴方達に判断は任せるけど、私としては〈絶望〉の特定を優先する事をおすすめするわ。あるいは〈絶望〉が殺人者として動くまで会場のバランスを保ち、その時の裁判できちんと勝利をもぎ取るのもいいわね」
さとり「……」
こいし「まあ、〈絶望〉を殺さないとゲームクリアにならないもんね」
霊夢「……青娥。まーたあんたは適当なことを言って。もういいわよ。みんな、マミゾウと妹紅の長い話が終わったことだし、少し休憩しましょ」
早苗「きゅ、休憩!?」
魔理沙「な、なに言ってんだよ!? まだ裁判中だぞ?」
霊夢「咲夜。今は何時?」
咲夜「え!? ――ええと、DAY07の2:05よ?」
霊夢「私達もここに紛れ込んでいる真犯人も、こんな時間じゃ頭が回らなくて、まともな議論なんて出来ないでしょ」
ルーミア霊夢、本気で言ってるの? チルノちゃんを殺した犯人を絶対に見つけないといけないんだよ?」
霊夢「あんた、物凄く眠そうだし、もしかして小腹でも空いてるんじゃないの?」
ルーミア「う……」
紫「ええと――ここに居る全員分の飲み物を用意すればいいのかしら?」
霊夢「あんたねえ。そんなケチ臭いこと言わないでよ。ここでスキマを出して、直接BARまで移動すればいい話でしょ。酒も食べ物も奢りなさい」
紫「もう。無茶なこと言うわねえ。別にいいけど。一応言っておくけど、ついでにBARを調査したり部屋から出たり出来ないように、少し空間を弄っとくからね?」
早苗「ほ、本当にそれでいいんすか? ここで休憩したら、逆に頭が働かなくなる気がするんですが……」
レミリア「いいじゃない。私は賛成よ? ここにいるみんなで飲む最後の一杯なら――少しの間だけ議論を忘れて楽しむのもアリじゃないかしら。私達は幻想郷で、いつでも宴会してるようなもんじゃない。みんなこれぐらいでへばったりはしないわよ」
 
魔理沙「……」
魔理沙(……どういうことだ?)
魔理沙(仮に〈17人目〉が私達の中にいるとするなら、私や霊夢は何番目のプレイヤーなんだ?
魔理沙(だっておかしいだろ? 人数が増えることで番号が一人分ずれるんだから)
魔理沙(『プレイヤーが全部で17人だと思い込ませる為に〈17人目〉という言葉を用いただけ』だとするなら、本来私達には一切の番号が振られていないわけだから、そこは何も矛盾していない)
魔理沙(紫は嘘を補強するために、わざわざ部屋を一つ多めに作った。だが――どうしてだ?)
魔理沙エリアのどこかに潜伏している犯人像を私達に想像させたいのなら、私達の居室付近に〈17人目〉の部屋を作ることは逆効果なんじゃないか? 少なくとも私は最初に〈17人目〉の話を紫に聞いた時、霊安室のようなスキマでしか行けないような場所に、〈17人目〉の生活空間があるんじゃないかと勘違いした
魔理沙(紫は『プレイヤーの人数』について公言していない。だから私たちは『プレイヤーは全部で16人かもしれない』と推理することも出来る)
魔理沙だけどそれは同時に、『プレイヤーの人数は、紫が仄めかした通り17人』ということも成り立つんじゃないか?
魔理沙(八雲家の三人は、ほぼ間違いなく運営)
魔理沙(……? 文が殺された直後に行われた、ナズーリンの〈ダウジング〉では、19人? いや、ナズーリンが嘘をついているってことはないな。誰かに指摘されればそれまでだからな。『文と運営を含めて19人』ということで間違いないだろう)
魔理沙(……)
魔理沙……会場のどこかに〈1人目〉のプレイヤーがいるのか?
魔理沙(いや、それならナズーリンの〈ダウジング〉に引っかかるはずだ。――だが、もし〈ダウジング〉に引っかからないとしたら、どんな状態で、どこにいる?
魔理沙(紫は霊夢に言っていたらしいな。確か――)
魔理沙(青娥はまず最初に全員の部屋を回って〈絶望〉の正体を確認したらしいが、そもそもそれだって――)
魔理沙(ん? 紫は『17番目の凶器はない』と断言していたな。それじゃ仮説は成り立たないか? でも、以前早苗が誘ってくれた『人狼ゲーム』では確か――)
魔理沙(〈暗闇〉に対して、〈暗視ゴーグル〉。姉妹には、セットで使える凶器。それならなぜあいつだけ――)
魔理沙(――この仮説、一応ルールとも矛盾はしない、よな?)
魔理沙(それなら、もしかして――)
 
紫「ほら、貴方で最後よ? 早くスキマを潜ってちょうだいな」
魔理沙「ん? わかった。今入る」

14

【娯楽エリア・BAR】DAY07 2:25
 

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早苗「ふわぁ……ねむ」
レミリア「情けないわねえ。まだ裁判は終わってないのよ?」
早苗「そうは言われても、私は夜型じゃありませんので……って、皆さんお酒飲んでません!? ナズーリンさんまで!?」
ナズーリン「どうしても気付けが必要だからなあ。程々にしておくが」
さとり「私は早苗さんと同じく、紅茶を淹れて頂きました」
レミリア「早苗。ほら、さっさとカップを空にしなさいよ。少しワインを分けてあげるから」
早苗「今飲むなんて、やっぱり無理ですって! 私はそんなにお酒強くないですし、飲んだら議論に参加出来なくなっちゃいますよ!」
ルーミア「んー、チョコケーキ美味しい!」
こいし「さーくやー! モンブランおかわりー!」
咲夜「かしこまりました」
さとり「いいえ、おかわりはいりません。こいし、ちゃんと歯を磨いてから寝てくださいね」
こいし「えー? ハーフサイズでいいからケーキもう一つ食べたーい。咲夜お姉ちゃん。おねがーい♡」
咲夜「あらあら、私にもかわいい妹が出来てしまいましたね」
さとり「絶対に駄目です。次に何か食べたいのなら、朝ごはんを待ちなさい。それよりもこいし。購買部や食堂で盗み食いし放題だからって、ここに来てお菓子ばかり食べていませんよね?」
こいし「そ、そんなことないって。あはは……」
マミゾウ「この光景を見てると、本当に力が抜けるのう。わしらは意地を張って何をしてたんじゃろうなあ」
妹紅「そう言うなって。私達は一生懸命やったんだから」
マミゾウ「まあな」
青娥「はー、久々に飲むお酒おいしい♡」
ナズーリン「そんなにか? DAY04の裁判後に拘束されていたとはいえ、せいぜい三日ぶりくらいだろう?」
青娥「三日ですよ!? 女性に対してこんな仕打ちありませんよぉ!」
マミゾウ「どの口で言うんじゃ全く……」
レミリア「咲夜。その辺にして、貴方も休憩しなさい」
咲夜「それでは少しだけ――失礼します」
マミゾウ「まあ、裁判が終われば休日が挟まる。明日は――いや、今日はゆっくり起きるといい」
咲夜「そういうわけにはいきません。館に戻ったらなるべく早めに起きて、溜まった家事を片付けないといけませんので」
早苗「うわぁ、大変っすねえ」
咲夜「好きでやってる仕事だから」
てゐ「……」
マミゾウ「そんな辛気臭い顔をしてどうしたのじゃ? これから再開される裁判が不安か?」
てゐ「そうじゃなくてさ、ほら」
マミゾウ「ああ。霊夢達はカウンターにいるな」
てゐ「宴会の時にあの二人だけで飲んでるのって、なんだか珍しいなあと思って」
早苗「……」
てゐ「早苗?」
早苗「……なんでもありません」
 
魔理沙「かーっ、うめえなあ! 紫、おかわり!」
紫「はーい」
霊夢「私ももう一杯貰おうかな。ほら、紫。あんたも飲みなさい」
紫「別にいいけど――私達はこれからもう一仕事あるのを忘れないでね?」
霊夢「大丈夫よ。いつだって私は仕事をこなしてるでしょ」
魔理沙「本当にな。いつもは出不精の癖に、異変の時には好き勝手遠出してるもんな」
霊夢「仕方ないじゃない。妖精や妖怪はどこにでも湧くんだから。本当はのんびりしたいのに」
魔理沙「私も森で静かに研究したいのになあ」
紫「そうかしら。二人ともノリノリで異変解決に乗り出しているように見えるけどねえ」
霊夢「それはない」
魔理沙「同じく――と言いたい所だが、正直毎回楽しい」
霊夢「そうなんだ。それじゃこれからの異変、全部頼める?」
魔理沙「別にいいぜ? 神社の敷地内に研究所でも作ってくれるのならな。霊夢持ちで」
霊夢「嫌よ。母屋が薬品臭くなるし」
魔理沙「次の異変――どこに行くことになるんだろうなあ」
霊夢「さあてねえ。あんたはどこに行きたいのよ」
魔理沙「うーん。妖怪の山の奥……は行ったことあったよな。それなら『山の四天王』の最後の一人でも探しに行くか? 異変とか関係なく」
霊夢「……本当に一人で行って貰おうかしら」
紫「異変解決をお願いしてる立場で言うのもあれだけど、あまり無茶をしないでね」
魔理沙「じゃあこんなゲーム、さっさと解散しろって」
紫「もちろん、誰かが勝てば解散出来るわよ」
霊夢「――さて。しっかり羽も休めたし、そろそろ戻りましょうか」
魔理沙「羽? だからお前飛べるようになったのか。少し前までは亀の背中に乗ってたのに」
霊夢「あんたは逆ね。私みたいに飛べるのに、いつまでも箒に跨ってる」
魔理沙「あれは魔法使いの嗜みだよ。――なあ霊夢
霊夢「なに?」
魔理沙「……さっきはごめんな」
霊夢「……こっちこそ、ごめん」
 
※二章考察(後編)に続く