咲夜「それが出来た可能性があったのは、鴉天狗や鬼の実力者である、文さんと勇儀さんだけでした。彼女達の筋力や瞬発力、あるいは視力といった物は、ここに居る私達とは比べ物になりませんので。勇儀さんならまず間違いなく出来たでしょうね。彼女は凶器の使用そのものを無粋だと考えていた節がありますが」
てゐ「――そのことなんだけど、毒の使われ方について、一つの仮説がある。だけどこいしなら凶器を恐らくそんな使い方はしない。もちろんマミゾウと妹紅がやったとも思ってないよ? チルノを殺した真犯人が、という意味でさ。私の言いたいこと、暗器使いの青娥や刃物のエキスパートである咲夜なら察しが付くんじゃないの?」
早苗「だとすると、水滴とかの問題は結局どうしたのでしょう? 台車でも使って捨てに行ったんすかねえ? 倉庫とか、少し離れた所ですが体育館なんかには間違いなく台車くらいあるでしょうし」
妹紅「私の〈不死〉にだってトラッシュルームのセンサーは反応しなかったんだぞ? それにシャッターの間はスカスカだし、凶器の線から犯人を辿ったほうがいいんじゃないか?」
妹紅「いや、ちょっと待て! チルノと犯人は私達が偽装現場を作り終えた後でトラッシュルームに来たんだろ? なんでそんな行動を取ることになったんだ? チルノがスキマを使った理由は?」
マミゾウ「妹紅の言う通りじゃ。チルノはスキマの向こうへと『誘導』されたのか? それとも『脅迫』か? あるいは『偶然の産物』ということか?」
霊夢「とりあえず、裁判所に戻りましょ。もうここでやることは終わったわ。紫、もう一回スキマを出して」
紫「もう面倒だから全員いっぺんに飛ばすわよ? それでもいい?」
17
【裁判所】DAY07 2:50
マミゾウ「ここは――証言台か」
妹紅「!
霊夢、もう一度聞くぞ。
チルノはどうしてスキマに入ったんだ? トラッシュルームは私とマミゾウが血を残したり〈ナイフ〉を設置した直後だったんだぞ?」
てゐ「そこも気になるけど、チルノはトラッシュルームからスキマでどこに移動したのさ?」
青娥「亡くなった二人の遺体が安置されている場所ですね」
ナズーリン「
私は霊夢と一緒に調査したが、その時は文の手帳以外何も無かったはずだが?」
早苗「なんでそんなところへ? まさか手を合わせに行ったわけではないっすよね?」
霊夢「
チルノの遺体周辺の証拠品、そして霊安室の存在。何か気付くことはない?」
てゐ「〈水晶玉〉、砕けた氷像、黒い花びら……ん? 氷像?」
マミゾウ「
霊安室は死体が腐敗するのを防ぐ為、室温はかなり低く保たれておる。氷像の保管は十分に可能じゃな」
ルーミア「
つまりチルノちゃんは、トラッシュルームから霊安室へと氷像を運び出す直前に殺害された?」
霊夢「
逆よ。チルノはスキマで氷像を霊安室からトラッシュルームに運び出した所を襲われたのよ。恐らく両手が塞がれていて、尚且至近距離だったから咄嗟の判断も間に合わなかった。チルノはね、氷像を早い段階で完成させていたの。
少なくとも死亡推定時刻付近に〈氷細工〉を作り出す事自体は可能だった。残念ながら証拠品を見る限り、反撃は間に合わなかったし、〈氷細工〉をもう一度発動する余裕も無かったみたいだけど」
ルーミア「でもさ、チルノちゃんと
霊夢が最後にあった時、チルノちゃんは氷像の飾り付けを続けるつもりだったんでしょ? チルノちゃんは二つ目の〈氷細工〉を作ろうとしてたんじゃないの?」
霊夢「チルノは恐らく、
既に霊安室に預けてある氷像の細部を調整したかったんでしょうね。
あるいは一度細部を突き詰めた氷像を丸ごとコピーして、再び霊安室に戻した上で氷像を明日の朝まで保たせるつもりだったか」
咲夜「氷像は早くに作り終わっていた。そして倉庫からトラッシュルームまでのラインには氷像から水が滴り落ちたような跡はなかった。倉庫内にも氷像を砕いてから運び出したような形跡は無かった。ということは――」
こいし「あー! 段々わかってきた!
倉庫内から直接霊安室に氷像を運んだんだ!」
霊夢「そうね。
氷像はスキマで直接倉庫から霊安室に運び込まれたんだと思う。そして事件当時、霊安室に保管されていた氷像は、チルノ自身の手で霊安室からトラッシュルームに運び込まれていた」
さとり「チルノさんが偶然見つけ出してしまったこの方法――他のプレイヤーにも悪用される危険性がありますね。スキマで移動できる場所は非常に限られていますが、使用回数や使用可能エリア等で制限を設けたほうがいいかも知れません。追加ルール等も視野に入れて。犯人側の使用に対してのみで大丈夫だと思いますが、この方法を使えば極端な話、冷蔵庫や箪笥、あるいは洗面台のような大きな物ですら、労力を殆ど使わずにエリア間を秘密裡に運び出すことが出来てしまいます」
魔理沙「どうするんだ、紫。現に今回の事件、スキマが使われちまってるぜ?」
紫「言われてみるとそうねえ。うーん……。ちょっと運営同士で相談してみようかしら」
ルーミア「ねえ、氷像を作り終えた後に、どうしてそれを
霊安室に運ぶ必要があるの?」
てゐ「はぁ? そんなの、氷像が溶けるからに決まってんじゃん」
ルーミア「それはそうだけど、
私に盗まれるのが嫌だったのなら氷像を砕いて捨てれば良かったんじゃないの? 〈水晶玉〉も一緒に処分出来ただろうし。今霊夢が言った、二つ目を作ろうとしていたかもしれない、ってのもよくわからないし」
青娥「チルノさんはまず、
ルーミアさんの完成させた祭壇に飾り付けを始めました。この時点で既に
ルーミアさんの意図には気付いていたのでしょう。それでも貴方が折角作ってくれた祭壇だから、飾り付けを始めてみることにした」
妹紅「……」
青娥「そして貴方が盗み出した美術図鑑を見せられて、
ルーミアさんが唐突に祭壇を作った意味について、きちんとした確信を得た。そのうえで、やはり彼女は氷像を完成させた。なぜかわかりますか?」
ルーミア「え? その時はまだ私に氷像や〈水晶玉〉を渡すつもりがあったからとか? 私に藍を殺害して欲しくて」
青娥「違います。そうではないんですよ。チルノさんは氷像の美しさで、貴方の心を変えたかったんです」
青娥「しかしチルノさんはそれを断念しました。
何度も倉庫を訪れてきた貴方の視線が、龍の氷像そのものではなく、常に『龍玉』の部分にのみ注がれていることを知ったからです。ルーミアさんは氷の造形に一切興味はなく、『龍玉部分に〈水晶玉〉が嵌め込まれているか』だけが気掛かりだったのですから、当然ですが」
ルーミア「
――でも、私が確認し続けていた限りだと、氷像は倉庫にしばらく置かれていたよ?」
青娥「そうですね。自分自身で細部を磨くことで『魂』を入れてしまった〈氷細工〉の龍に対して罪悪感があったのでしょう。氷像を美麗に作ることが出来たことにより、破壊が躊躇われた部分もあるとは思いますが。
だからルーミアさんが倉庫付近から離れた一瞬を狙って、チルノさんは氷像を霊安室に移しました。それと同時に〈水晶玉〉も一時的にそこに保管することに決めました。ルーミアさんがDAY06の夜からDAY07の朝の間には『氷像と〈水晶玉〉が
霊安室の死体安置用のケースに保管されている』ことに気付かないと考えて」
ルーミア「でも、そんなに私を警戒していたのなら、自分の部屋とかにだって保管くらいは――」
青娥「部屋?
貴方は彼女の部屋に何度も遊びに行っているのでしょう? 貴方が怪しい行動を始めたとして、チルノさんには『遊びに来た』貴方を急に拒み始めることが出来ると思いますか? だから霊安室に凶器を隠したことは、一つの妥協点だったんですよ。遊びに来た貴方にこっそり家探しされたり、痺れを切らした貴方に〈暗闇〉で奇襲される危険性があったとしても、昨日までの友人をいきなり拒絶することなんて普通は出来ないと思いませんか?」
ルーミア「そ、そんな言い方しなくていいじゃん! 私、そんなつもりなんて……」
マミゾウ「青娥。今一瞬、珍しく感情的になったな? 議論中とはいえ、子供に対してそのような言い方はいかんのう。適切な説き方ではない」
青娥「……そうですね。
ルーミアさん、ごめんなさい」
早苗「
霊安室に凶器を保管、ですか。そのへんの感覚って、
チルノさんとルーミアさんで結構似てる感じがしません? 私だったらなんだか罰が当たりそうで、ちょっと気が引けますし」
青娥「かも知れませんね。お二人は似ている所が多いと思います。話を続けましょうか――チルノさんは最終的に、
ルーミアさんときちんと戦うことに決めました。
『最後に陰から様子を見てみよう。祭壇の飾り付けにも無反応で、倉庫内を物色し始めたら、直接相手を拒否するしかない』。チルノさんはそう考えました」
ルーミア「それで――ケンカになっちゃったんだ。やっぱりチルノちゃんが死んだのって私が原因なんだね」
青娥「……否定出来ません」
マミゾウ「――いいや。はっきり否定させて貰うぞ! それを言ったら、わしが〈ナイフ〉を現場に残したことにこそ、真の責任がある!」
妹紅「ああ。チルノが死んだ原因を作ったのは、私達だ。マミゾウ、『私だけが原因だ』とか善人ぶったことは言わないぞ? ボーナスルールでDDSルームから凶器を取り出したのは私だし、マミゾウに計画を持ち掛けられなければ、私は今日まで余計なことを何もしなかった」
てゐ「ねえ、そこなんだけどさ。妹紅達の計画ってマミゾウ側が持ち掛けたんだよね? だけど、うーん……」
妹紅「どうした?」
てゐ「ごめん。ちょっと考えがまとまらないから後にするよ」
咲夜「マミゾウさん。今貴方は『〈ナイフ〉がその場にあったことが直接的原因』と言いましたけど――それもどうでしょうか?」
マミゾウ「なんじゃと? 何かおかしいことを言ったか?」
咲夜「――では、先程
霊夢が
『トラッシュルームの突破に適していない能力者でも刺殺は可能』と証明しましたので、その視点から議論を展開してみましょうか? 本来〈ナイフ〉という凶器は――いえ、〈スタンガン〉等の近接武器全般に言えることですが、
近接武器はチルノさんを殺害する際に安全な凶器とは思えないのです」
早苗「ん? そうですか?」
咲夜「ピンと来ない? 私達はゲーム内では身体能力の制限がされているのよ? ここがゲーム内でなければ、トラッシュルームやDDSルームの仕掛けは意味を成さないのよ」
妹紅「ごめん。私にも言いたいことがわからない。〈ナイフ〉を持ったチルノが、私や
霊夢に勝てるとも思えないんだが」
てゐ「それなら、妹紅にもわかりやすい例えを出そうか。妹紅が慧音に呼ばれて
寺子屋に行ったとするじゃん。
さて、たまたま庭を見ると12歳と16歳の、人間の男の子が喧嘩をしていました。両方とも体育の成績はそこそこだと思ってね。妹紅だったらその喧嘩を止める?」
妹紅「うーん。女の子同士だったら口喧嘩で終わることもあるけど、男の子かあ。まあ、それぐらいの年齢だったら、そういう経験も少しは必要だとも思うからなあ。様子見、って所か」
てゐ「じゃあさ、
小さい方の男の子がハサミや棍棒を持っていたら?」
妹紅「――は?」
てゐ「続けて聞くよ。
ハサミや棍棒の代わりに、短刀や手斧、あるいは包丁を持っていたら?」
妹紅「なに言ってんだ!? 止めるに決まってる! そんなの、下手したら両方とも怪我じゃ済まないだろ!」
てゐ「わかった? 今の私達の力量なんて、その程度の差なんだよ。ここに更にスペルカードルールを度外視した身体能力差が加わるんだよ? ここでの私達の強さに『本当の』優劣を付けるとしたら、凶器の有無や能力だけじゃなく、人間基準の体格差や筋力差って奴を計算に入れないといけないんだよ」
妹紅「怪我も厭わなければ、誰だってチルノを殺せる気もするが……」
てゐ「
だけどここにいるみんなは、自傷した咲夜はともかく、目立った怪我なんて誰も負ってない。私だってそうさ。なんなら服を脱いで見せようか?」
妹紅「いいよ、そんなことしなくて。だけどそんなことを言い出したら、チルノを接近戦で殺害しようなんて誰も思わないだろ」
咲夜「あの状況でチルノさんを正面から殺害することが出来た人物って、トラッシュルームの突破を抜きにしても、実はかなり限られていたと思うんですよ。それにチルノさん自身、そう大人しく殺されるタイプでもないと思いますので」
ルーミア「
……チルノちゃんってさ、妖精の中でもかなり強い部類なんだよね。弾幕だって避けるのがめちゃくちゃうまいし、私や
みすちーやリグルは妖怪なのに、妖精のチルノちゃんも全然引けを取らないぐらい運動神経がよくて」
早苗「ですが、青娥さんが文さんに渡したメモでは、バスケットボールをした時にかなり点数の開きがあったようですけど?」
ルーミア「それは単純にバスケットボールっていうゲームとの相性だと思うよ? 氷の棒かなんかでチャンバラなんてしたら、正直どっちが勝つかわからないと思う」
霊夢「映姫様も以前同じようなことを話していたわ。チルノは妖精の域を大きく逸脱しているって」
早苗「うーん、言われてみれば、チルノさんってかなり複雑な
弾幕を連続で展開出来ますもんねえ。もしも幻想郷の妖精が全員あのレベルだったら――と考えると正直ゾッとしますよ。人里から出ようと考える人間は、まずいなくなるんじゃないですかね?」
咲夜「では、これらのことを紙にまとめてみますので少々お待ち下さい。亡くなった方や運営である紫を含めて」
咲夜「――お待たせしました。こちらになります」
早苗「どれどれ、ちょっと見せてください」
こいし「あ、この表おもしろーい!」
咲夜「かなり主観が入っていますが、まあ参考程度に。体格差が『○』以下であったり、種族差が『○』以下のプレイヤーは、何かしらの能力を用いなければチルノさんからの反撃を躱すことは難しいでしょう」
ナズーリン「いや、冗談じゃなくかなり主観が入っている気もするが……」
早苗「身体能力が一般人レベルまで落ちてるのは相当大きいですもんねえ。文さんや勇儀さんはともかく。ですが、この表の通りだとすると――能力を使えばほぼ全員が近距離からチルノさんを刺殺可能ってことになっちゃいませんか?」
咲夜「あ、あれ? そうなるわね?」
魔理沙「さっきまでの議論の意味はなんだったんだ……」
妹紅「この『経験』の部分――ざっくり年齢とかで決めてないか?」
てゐ「ちょっとちょっと! 私の『〈幸運〉の貸し出し状況は不明』ってところ、完璧に難癖でしょ!?」
マミゾウ「こうして表にしてみると、勇儀の身体能力が如何に優れていたかがわかるのう」
レミリア「……さーくやちゃん? この評価は何かしら?」
咲夜「はい? どの部分のことでしょうか?」
レミリア「なんで私がチルノにスペルカードで劣ってるのよ!? 流石におかしいでしょ!」
魔理沙「いや、その項目については私も異論はないぜ?」
魔理沙「なんというか最近あいつ急成長してるというか。なあ
霊夢?」
霊夢「『四季異変』の時ね。全く……なんで紫の旧友ってクソ迷惑なやつしかいないのよ?」
紫「それについては同意しておくわ」
ルーミア「この表……チルノちゃんの評価は高いのに、私の評価だけ妙に低くない?」
青娥「そんなことありませんって。少なくとも私は
ルーミアさんのことも高く評価していますよ?」
青娥「ふふ。本当にそう思ってますよ? 数奇な運命とでも言いましょうか。たまたま知り合いとなった貴方とその遊び仲間の方達は、幻想郷が持つ側面の一方である『妖』を担っていくのに十分な実力を手に入れることになると考えています。精神面でも肉体面でもです。その時の幻想郷の勢力図が――今からとても楽しみです」
こいし「お姉ちゃん。この字ってなんて読むの?」
さとり「『さとりようかい』に決まってるでしょう。自分の種族を忘れないでください……」
ナズーリン「……なあ、君達。私個人としても非常に興味深い表なんだが、本題を忘れてしまってないか?」
マミゾウ「む……。確かに脱線しとったわい。真犯人を導き出さねばならんというに」
ルーミア「うーん……。もう少しで真犯人に辿り着けそうなんだけどなあ。後、何が必要なんだろ?」
てゐ「……やっぱりダイイングメッセージの解読じゃないの?」
ナズーリン「チルノが懐に隠し持っていた、
謎の黒い造花か」
早苗「
霊夢さん。あれがどういう意味なのかわかりますか?」
霊夢「
ただし、造花そのものについての正体がなんとなくわかっただけなんだけど……」
てゐ「ん? なんだか歯切れが悪くない?」
妹紅「どういう意味だ?」
霊夢「妹紅。出来ればこれは貴方に解いて欲しい謎なのよ。
チルノが残したダイイングメッセージは、貴方に宛てた物なのよ」
18
マミゾウ「妹紅への?」
霊夢「
妹紅。貴方は私と同じように生前のチルノと倉庫内で会っていた。だけど私と貴方には大きな違いがある。何だかわかる?」
咲夜「妹紅さんのほうがチルノさんと親密だった、ということ?」
霊夢「二人は仲が良かった。だからこそ、チルノはダイイングメッセージを妹紅に向けて残した。でも、咲夜の答えはちょっと違うわ。
チルノから事前に美術図鑑の情報について知らされていたのが、妹紅だけだったからよ」
ナズーリン「確かにほとんどのプレイヤーは、
チルノが倉庫で飾り付けを行っていたことさえ知らなかったな」
ルーミア「え? 私だって美術図鑑については知ってたよ? そもそも私がチルノちゃんに渡した物だし」
青娥「
ルーミアさん。大変申し上げにくいのですが、貴方は恐らくチルノさんから、
トラッシュルームで何らかの犯行を起こした容疑者だと思われていました」
青娥「はい。マミゾウさん達が工作した後のトラッシュルームにチルノさんが23:45に出向いたのは間違いないでしょう。
その時の現場の状況から推測される『架空の事件』について、ルーミアさんが何らかの形で関わっているとチルノさんには思われていたんです。だからこそチルノさんは〈氷細工〉の龍や〈水晶玉〉の行方が気になり、霊安室へ移動したのでしょうね」
霊夢「咲夜。確か貴方、花を回収していたわよね。今ここで出して貰える?」
咲夜「え、ええ。わかったわ」
咲夜「蓋付きのバスケットに入れてそのまま持ってきたのよ。タオルに包もうか迷ったけど、かなり脆そうな作りだったから、花が血でタオルのほうに張り付きそうで――」
レミリア「……ん? ちょっと花びらを一枚貰うわよ。……あむ。やっぱり妖精の血の味って人間とは全く違うわね」
咲夜「お、お嬢様?」
てゐ「ちょっ! 何やってんのさ!」
こいし「うへぇ、悪食だなあ」
レミリア「んー。これくらいの血液の浸透率だったら――もしかしたら? 咲夜、花を丸ごと貸しなさい」
咲夜「はい? どうぞ」
ベリッ! バリッ!
咲夜「――お嬢様! お止めください!」
妹紅「待て! それはチルノの遺品だぞ!」
早苗「それに大事な証拠品ですよ!? そんなことしたら――」
ルーミア「あれ?
この花の根元のほう、少し青くない?」
マミゾウ「! おい、この黒い花はまさか――」
霊夢「そうよ。
血が凝固して黒ずんでしまっているけど、本来は青い花だったのよ。この黒い花は、元々〈水晶玉〉の中に埋め込まれていた、青色のドライフラワーだったのよ」
ルーミア「――そうだったんだ。やっぱり黒い花なんて、どこにもなかったんだね」
青娥「あら。どうしてそう思われていたのでしょう?」
ルーミア「
私もチルノちゃんもさ、みんなと違って、黒い色に誰かを弔う意味合いなんて感じないんだ。だからチルノちゃんがしてた飾り付けにも、黒い色なんて一つもなかったでしょ?」
早苗「いや、でも
ルーミアさん。一般的にお葬式で使われる色というのは、黒って相場が決まってるんすよ。幻想郷でも同じように――」
ナズーリン「いや、案外彼女達の感性のほうが自然なのかも知れない」
早苗「はい?」
ナズーリン「日本で葬儀で着る喪服と言えば、元来白色だった。その後時代が進み上流階級の人間が黒い喪服を着るようになっても、基本的には白い喪服が用いられていた。日本で黒い喪服が一般化したのはつい最近で、欧州文化の影響だ」
早苗「はぇ~、マジっすか」
青娥「私の故郷である中国でも、喪服は白い物ですねえ」
早苗「あの、すみません。ダイイングメッセージが黒い花ではなかったとして、それってつまり――どういう意味なんすか?」
レミリア「本来の色が『黒』じゃなくて『青』だったとして、そこから連想される物が多過ぎるわね」
てゐ「えぇ!?
霊夢でも駄目だったの!? 博麗の巫女でもどうにも出来ない問題なんて――私達にどうしろって言うのさ!?」
妹紅「大丈夫だ、みんな」
てゐ「――妹紅?」
妹紅「チルノの言葉は、必ず私が見つけ出す。だからみんなは別の議論を進めてくれ」
19
妹紅「…………龍の氷像は…………意味はつまり…………チルノはどうして…………」
霊夢「集中しているみたいね。そっとしといてあげましょう」
ナズーリン「私達も議論を進めよう。なあ。もう一度これを見てくれないか」
青娥「事件発生現場の全体図ですね」
てゐ「トラッシュルームだけでもかなりの証拠品があるのにねえ」
ナズーリン「会場に残ってる証拠品は、マミゾウや妹紅の証言でほぼ全体が把握出来たが、
真犯人が残した痕跡はほとんどない。そう思わないか?」
マミゾウ「強いて言えば、わしが設置した〈ナイフ〉くらいじゃろうな」
青娥「そうですね。〈ナイフ〉が凶器というのは確定でしょうね」
早苗「あの……それなら、ちょっとおかしいところがありませんか?」
咲夜「早苗は〈ナイフ〉ではないと思うの?」
早苗「いいえ、そうじゃないんです! ただ、真犯人はどうして〈ナイフ〉を処分しなかったのかなあ、って思って」
てゐ「出来るわけないじゃん。そうでしょ? メダルを全部使わないといけないんだから」
早苗「でも、〈ナイフ〉さえ無ければ推理はもっと難しかったような気もするんですよね」
ルーミア「それは無理でしょ? だってマミゾウと妹紅が自分から〈ナイフ〉のことを話してくれたんだし」
早苗「だけどそれは私達が議論を続けた上で、妹紅さんやマミゾウさんが味方になってくれたからですよね? 真犯人側としても有利でしょうけど、マミゾウさん達にとってもかなり有利な状況になったと思うんすよ」
マミゾウ「何を言っとる。〈ナイフ〉が無ければ〈
リボルバー〉が隠せなかったはずじゃが――いや、そうでもないのかのう?」
早苗「ですよね?
仮にキッチンナイフだけ中央に設置してから〈リボルバー〉をバックヤードに隠したとしても――『中央から検出される証拠品が一件だけになる』ってことは、キッチンナイフが重要な証拠品だと錯覚されるだけ、ってことなんすよ
。どちらにせよ、マミゾウさんには得しかなかったんです」
早苗「はい。チルノさんを殺した犯人が、マミゾウさん達と同じ様に共犯だったのなら、〈ナイフ〉は処分していたと思います」
てゐ「――マミゾウ」
マミゾウ「なんじゃ?」
てゐ「あんたもしかして、とんでもない大ポカをやらかしたんじゃないの?
二人にとって〈リボルバー〉はバックヤードに隠さざるを得ない凶器だったんだろうけど、〈ナイフ〉は現場の偽装段階で処分可能だし、トラッシュルーム内にあってもなくても同じような結果を生み出せたんでしょ?」
ナズーリン「
〈ナイフ〉は服と一緒に処分。そしてトラッシュルームの中央には未使用であるなら何を置いても構わなかったし、バックヤードに〈リボルバー〉を隠した所でトリックは成立した、ということかね?」
こいし「え? でもさ。マミゾウ達は『〈ナイフ〉を使って暗躍する犯人像』を作り上げたかったんでしょ? それならトラッシュルームのどこかに〈ナイフ〉を置いとかないとダメなんじゃないの?」
ナズーリン「一見そう思えるが――
例えばトラッシュルームの血溜まり付近に、〈ナイフ〉でしか再現できないような大きな傷が付いていたら、他のプレイヤーの眼にはどう映ったかね?」
こいし「あ、それなら確かに誰かが〈ナイフ〉を再取得して使ったっぽく見えるね。厨房で普通に手に入るキッチンナイフとかじゃそんなこと出来ないんだし」
魔理沙「そういえば端末破壊事件も同じだったな。DDSルームから凶器を回収しない限り再現不可能な状況が起きたから、みんなは互いに疑心暗鬼に陥るしかなかった」
マミゾウ「これは――そういうことになってしまうな。現場を偽装することに頭を取られて、『〈ナイフ〉をトラッシュルームに残す必要性』について考えが至っておらんかった」
青娥「――私の考えを言わせて貰うと、今回のマミゾウさん達の計画には、やはり〈ナイフ〉を現場に残すことは必要だったと思います。血塗れのテーブルクロスと、ゴミ箱の前の血液だけでは、事件現場としての『質感』が薄くなってしまうのですよ」
青娥「まず、〈
リボルバー〉という最初から隠し通すつもりだった凶器には効果が期待出来ません。誰にも発見されない凶器は、当然現場に質感を生みませんから。そもそも〈
リボルバー〉は妹紅さんの死因とワンセットの物でしたし。〈暗視ゴーグル〉も一応は『極上の凶器』に含まれますが、それ自体に殺傷力の無い物が見つかった所で、架空の事件を想起させる為には全然足りないんですよ。そして〈氷細工〉で作られた氷像や〈水晶玉〉についても同じことが言えます。どちらも『氷』や『水』といった青く透明度の高いもので、チルノさん自身が用意したと連想しやすい凶器ですし。そもそも本来の計画では氷像も〈水晶玉〉も現場に発生することは無かったわけでして。
『会場のどこかで人が死んだ』という質感を持たせる為には、実際に妹紅さんが髪とはいえ『人体の一部』を切除する為に使用した〈ナイフ〉を設置することは必須でした」
てゐ「もしかして――遠回しにマミゾウのこと慰めてるの?」
青娥「え? 逆ですよ? 貴方達は結局、二人殺してるんですよ。殺してしまったんですよ。もちろんチルノさんを殺したという意味ではありませんよ? 架空の存在を、です。架空の存在を意図せず殺してしまったことがきっかけで、会場に『厄』を呼び寄せたと――私はそう考えています」
てゐ「あのさ、青娥。正直言って不愉快なんだけど? そんな非科学的なことをここでぶち撒けたって何も――」
青娥「非科学的? ここは幻想郷ですよ? そんなことを言いだしたら私達の存在って――一体何なんでしょうね? 知っていましたか? 外界の人達からすれば生身で空を飛べるヒトガタの生き物って、『化物』とか『悪魔』らしいですよ?」
紫「……」
マミゾウ「……」
ナズーリン「……マミゾウ。青娥の言うことなんて、真に受けるな。少なくとも君達はゲームを完全に終わらせる為に動いていたんだろ? 殺人についても妹紅の同意を得た上でな。そもそも
『たった15分の間に真犯人に便乗されて起きた出来事』に、そこまで責任を持つのはいかがな物か」
こいし「ん? 15分? どうして?」
さとり「チルノさんは23:45まで生きていました。
レミリアさんも大体日付がDAY07に切り替わるくらいにはトラッシュルームを訪れていたことでしょう。トラッシュルームの状況さえプレイヤーに知れ渡れば、その瞬間にマミゾウさん達の計画は成功したと言えたでしょう」
こいし「あー。15分間誰もトラッシュルームに入らなければ事件は起きなかったんだ」
マミゾウ「……そうじゃな。DDSルームの見張りの都合もあったが、〈ナイフ〉や〈
リボルバー〉を現場に持ち出す以上、状況発見までの時間はなるべく短くしようと考えておった」
さとり「たった15分だけ運がマミゾウさん達に味方すれば、こんな悲しい結末にはならなかった。しかし――」
早苗「真犯人はトラッシュルームの状況から即席の計画を作って、犯行を?」
さとり「はい。ですが杜撰な部分も相当ある計画です。真犯人がきちんと計画を立て、何らかの犯行計画を実行していたのなら、このような発見状況にはまずならなかったでしょうね」
マミゾウ「踏んだり蹴ったりじゃのう。だが、わしらはここで終わるわけにはいかん! なんとしても真犯人を見つけねばな」
ルーミア「……ねえ、みんな。怒らないで訊いてね。マミゾウ達ってみんなのことを考えて行動したのが議論でわかったよね? 私なんかの独り善がりとは全然違った。例え真犯人を見つけられても、妹紅とマミゾウは処刑されるんだよ? だったら――」
マミゾウ「
ルーミア。気持ちは嬉しいが、それでは駄目だ。これはお前達が勝たなければいけないゲームじゃ。特に
霊夢と
魔理沙。お前さん達がわしらに負けることだけは許されん」
マミゾウ「幻想郷では人間が食われてしまうことだってある。
食物連鎖、あるいは存在意義の維持の為にな。だが『食欲以外の願望を満たす為に他人を殺めた』なんてことは、幻想郷でもそうは起きないはずじゃ。それをお前達が裁かないで、誰が裁く?」
魔理沙「いや、私達は異変のたびに首謀者を裁いているつもりはないんだ。そんな権限、幻想郷の管理者である紫からも与えられていない」
霊夢「妖怪にとっては遊びの延長に過ぎないことでも、放置していれば力の無い人間にとって一大事になることだって結構あるのよね。人里の住人とかには特にね。例えば人里に住む『小鈴』って子はある種の能力を持っているけど空も飛べないし、唯一無二の性質を持つ『阿求』も体が強いほうではない。だから私は誰かの力を借りて異変を解決することがある。積極的に命を取ろうとは考えていないけど。本当に危険な存在だと直感的にわかったら、遠慮なく退治するけどね」
魔理沙「ま、そういうことだ。それで、
霊夢はどうする? お前がギブアップするなら、私がくじ引きでもして投票対象を適当に決めてやってもいいぜ?」
霊夢「馬鹿なことを言わないでよ。真犯人は、必ず暴き出す」
マミゾウ「頼もしいのう。それを訊いて、少し安心したわい」
ルーミア「――そっか。マミゾウ達はそう考えていたんだね」
マミゾウ「ああ」
ルーミア「それなら、頑張って推理してみようかな。
霊夢のメモを確認しつつ――能力や凶器のカードを広げて、っと」
マミゾウ「おう、そうしろそうしろ」
マミゾウ「早っ!?」
ルーミア「だって無理だもん! 私はどちらかと言うと『犯人側』で動くタイプだし。そもそも真犯人もそうだけど、マミゾウ達の計画も細かい部分が多くて理解するのが難しいし……」
てゐ「度胸もあるしね。この計画、地味に廊下の移動距離も長いから隠密行動も大変だよねえ」
ルーミア「マミゾウと妹紅の立てた計画、本当に凄いなあ。私じゃ、こんなの無理だよ」
青娥「その通りですが、
ルーミアさんの立てた計画も素晴らしい物でしたよ? ほら、
霊夢さんだって最初は祭壇の意図に全然気付けなかったじゃないですか。チルノさんと一緒に飾り付けしていたのにも関わらず」
早苗「まあ、確かに……」
マミゾウ「何を言うとる。犯罪の計画に凄いもクソもあるかい」
こいし「ねえねえ、私の毒殺計画は!? 見立ては!? どう!? 凄かった!?」
こいし「疑問形!?」
ナズーリン「確かにトリックもそうだが――
道具を一通り揃えるのも難しい計画だ」
ルーミア「でしょ? マミゾウってさ。計画の為の道具を沢山用意してたじゃん。道具を吟味するのだって大変じゃない?」
てゐ「
ルーミア。あんただって図書室から美術図鑑を盗んだり、祭壇を作る為の素材を揃えたりしたじゃん」
ルーミア「見つかるリスクが低い所からは、ね。夜の図書室とかなら安心して侵入出来るし。でも厨房のキッチンナイフなんて、私だったら盗むのがちょっと怖いかなあ」
マミゾウ「そんなもん、九割度胸じゃ。後はプレイヤーの行動パターンを観察していれば、限りなくリスクは抑えられる」
レミリア「あ、そうだ! 咲夜! いくらなんでも厨房のキッチンナイフくらい毎日確認しておきなさいよ! こんなもん、紅魔館でやったら減給よ! 減給!」
咲夜「はい? うちの帳簿は私が管理しているのですが――どうしろと?」
レミリア「え!? そうだっけ? じゃあ、ええと――」
咲夜「むしろ私は、紅魔館に住み込みで働いている最中に危険なゲームに巻き込まれた被害者なのですが、労災は下りるのですか?」
レミリア「あれ、何も聞こえないわね? 〈幻惑〉が発動しているのかしら」
マミゾウ「人のせいにするでない」
てゐ「その理屈だと
ナズーリンも『上司』から仕事を与えられている最中だったね。労災下りるんじゃないの?」
てゐ(案外がっつり財宝くれそうだけどね)
ルーミア「――キッチンナイフ、替えの服、テーブルクロス。ここまで用意しないといけないのかあ」
マミゾウ「それだけではないぞ? 未使用だからこそ検索に引っ掛からなかっただけで、道具は他にも用意しておいた。妹紅だけでなく、わしの替えの服も用意したし、犯行前には懐中時計も正確な時間に直した。妹紅を銃撃する際にはどんな風に血が飛び散っても良いように、入念な準備を行った。先程話に出た通り、結局の所は銃撃の際に人体の一部が別の個室まで飛んでしまっていたようじゃが……」
マミゾウ「そこはほとんど妹紅任せじゃったがのう。妹紅が希望した〈暗視ゴーグル〉の取得については、要求を呑んだというよりも、妹紅が
ルーミアに殺人をして欲しくないという気持ちを尊重したんじゃが」
さとり「……!」
マミゾウ「ああ。それがどうした?」
早苗「え? どうしました? 何の話っすか?」
ナズーリン「
トラッシュルームの床に落ちていた、〈ナイフ〉。そして、地下のバックヤード内に隠されていた、〈リボルバー〉」
青娥「……ふふ」
こいし「なになにー?」
20
マミゾウ「……質問の意図がわからん」
ナズーリン「そうか。なら別の質問をしようか。
君、DAY05できちんと謝罪していたが、どうして急に『人が死ぬような計画』を実行しようと考えた?」
マミゾウ「あのな、
ナズーリン。今更そんなつまらんことを聞くのか? はぁ……
ナズーリンよ。わしはなんの妖怪じゃ?」
こいし「アライグマ!」
マミゾウ「狸じゃアホ! 化け狸に決まっておるだろ!」
こいし「いや、でも尻尾が――」
マミゾウ「これはそういう模様なだけじゃ! いいか!? わしは人語を操る化け狸じゃぞ!? あんな形ばかりの土下座に意味があるわけないじゃろう。わしに他人を騙すことへの躊躇なんぞあるか!」
てゐ「――そうだ! それそれ! 私、そこがどうしても納得出来ないんだけど」
マミゾウ「どうしてじゃ?」
てゐ「あんたがDAY05の朝に土下座した時、嘘偽り無い真摯な気持ちで謝っているように思えたんだよ。だからこそ私は、殺人未遂犯であるあんたとDDSルームの見張りを一緒にすることに決めたんだよね。妹紅だって、マミゾウがきちんと謝ることが出来る人物だからこそ協力したんじゃないの?」
マミゾウ「――仮にあの時本当に心を入れ替えていたとして、それが何だと言うんじゃ?」
てゐ「妹紅に計画を持ちかけたのって、その日の夜でしょ? そのタイミング以外有り得ないよ。たったそれだけの間に、どんな心境の変化があったのか気になって」
マミゾウ「だから、全部お前達を欺く為にやったことだと――」
早苗「そういえば気になりますね。保管していた凶器を盗まれたことは完全に私達の不手際だとしても、そもそもどうやって〈
リボルバー〉を見つけたんですか?」
ナズーリン「
DAY05から06の間に〈リボルバー〉を手に入れるには保管されていた場所から盗み出すしかないはずだが?」
マミゾウ「妹紅には話したぞ? 『エリア全体を調べ直している時に、たまたま見つけた』と」
ナズーリン「マミゾウ。それは、ちょっとおかしい。一応みんなにも確認しておくか
。この中で魔理沙と早苗が大量に取得していたという凶器の在処を知っていた者は?」
ルーミア「知らなかったよ? 知ってたら〈水晶玉〉じゃなくてそっちを狙ってた。チルノちゃんも知らなかったと思うよ?」
咲夜「私達も知りませんでした。ですよね? お嬢様」
てゐ「私だって知るわけないじゃん」
青娥「私の場合、端末破壊事件の後に早苗さん達が取る行動の予測はしていたのですが、如何せん途中から身動きが取れなかったので探しには行けませんでしたね。そもそも盗む気もありませんでしたが」
さとり「私は〈読心〉能力のせいで皆さんの思考が読めてしまいますが――その情報を誰かに話してはいません。明確なルール違反になりますので」
こいし「はーい! 私は知ってましたー!」
早苗「えぇ!? どうしてですか?」
こいし「でも〈香水〉も〈消臭剤〉も手に入れたばっかりだったし、スルーしちゃった。また事件を起こしたくなったら取りに行くね」
さとり「止めておきなさい、って言ってもやるのでしょうね……」
霊夢「私も凶器の件はさっき初めて知った。凶器がそんな風に大量に取得されていたことも知らなかった」
ナズーリン「そうか。みんなありがとう。マミゾウ。君の主張はやはりどこかおかしい。
魔理沙の〈盗み〉はともかく、早苗の〈奇跡〉をかけられたジュラルミンケースを探し出すことは至難の業だぞ? どうやって凶器を見つけ出せたんだ?」
マミゾウ「そんなこと言われても、見つけ出してしまったものは仕方なかろう?」
ナズーリン「
では、鍵はどうした? 〈リボルバー〉が保管されている部屋やジュラルミンケースを開けるための〈マスターキー〉はDDSルームの中だった。〈リボルバー〉と違って、〈マスターキー〉については場所が判明していた凶器と言える。だが、そもそもマミゾウは既に二回DDSルームを使用済みだったな? DDSルームを安全に使用することは出来ないのではないか?」
マミゾウ「おかしいかのう? 〈
リボルバー〉も〈マスターキー〉も別に会場から消えたわけではないのじゃぞ? だったらDDSルームを限界まで利用していたのでもなければ誰だって〈マスターキー〉の取得は出来るし、そこから更に〈
リボルバー〉を手に入れるチャンスはあったじゃろう? わしだって同じじゃ。
DAY05にてゐと別れた後でDDSルームにチャレンジすることは出来た。2分の1くらいのチャレンジがなんだというんじゃ?」
てゐ「へえ。だから見張りを始めたの? こっそり凶器を再取得するチャンスを伺ってたんだねえ」
マミゾウ「それについては――お主に謝るが」
早苗「あの――
ルーミアさんもそうですけど、なんでボーナスルールを使い切った後もみんな普通にギャンブルにチャレンジしようとするんすかね……。わたしやてゐさんみたいな確率操作系の能力者ならともかく」
マミゾウ「だからどうしたというのじゃ? 少なくともわしはそうやって〈マスターキー〉を再び拝借出来たぞ?」
ナズーリン「一見正しい主張に聞こえるが――
それならマミゾウはどうやって二人が隠した凶器を見つけた? 私のような〈ダウジング〉能力でもない限り見つけられるわけがないだろう。実を言うとな、早苗達が隠した凶器の位置は端末破壊事件の後に〈ダウジング〉で把握済みなのだが――まあそうそう見つかる場所には隠していなかったな。勿論ここで場所を言うつもりはないが……」
マミゾウ「いや、水掛け論のようになってしまうが、実際問題会場から凶器が消えたわけではないのだから、誰だって鍵さえあれば取得自体は可能じゃろう? わしが凶器を見つけたのはほんの偶然じゃが。それにな、DAY06の朝までに凶器を取得していれば、朝にメダルは補充されるのじゃ。それなら〈マスターキー〉を使い終わった後に、メダルが配られる朝までにトラッシュルームで処分すれば問題はない」
ルーミア「ねえ、
〈マスターキー〉なんて手に入れなくても、普通に魔理沙か早苗のジュラルミンケースの、鍵だけを入手すればよくない? 魔理沙みたいに〈盗み〉の能力を持ってなくても、少し頑張れば盗めるんじゃないの? 宿舎エリアのお風呂に入っている時とか」
ナズーリン「いや、それでは無理だ。
仮にルーミアが〈ナイフ〉を部屋で管理していて、魔理沙が君の懐から盗んだ鍵で凶器を入手したとしよう。ご丁寧に部屋の鍵まで掛け直してな。さて、君が部屋の前に戻ってきたらどうなる?」
ルーミア「――
部屋が開けられないから、鍵が盗まれたことに気付く?」
ナズーリン「そうだ。
トラッシュルームで運良く鍵を処分出来たとしても、鍵の再発行は本人にしか申請不可能だ。使った鍵をポケットにでも戻してみろ。そんなことをすれば、
鍵だって立派な証拠品だから、私の〈ダウジング〉に引っかかる」
てゐ「あのさ、それなら
〈マスターキー〉も〈リボルバー〉も無事手に入ったのに、なんであんなに面倒くさい計画を立ち上げたの? その二つさえあれば完全犯罪なんて可能でしょ。文の時の事件は相当異常な状況だったけど、あんなことがなければ普通に誰かを呼び出して銃殺したほうがずっと手っ取り早いし安全なんじゃないの? そうやってマミゾウがゲームを勝ち抜いて〈追放〉されたプレイヤーを含めて全員を解放すればいい話じゃん」
マミゾウ「ただプレイヤーを殺したかったわけではないんじゃ。それも話したじゃろ? 〈17人目〉を暴き出すことがわしらの真の目的だったのでな」
ナズーリン「
だが、〈17人目〉についての議論が出たのは、マミゾウが謝罪した日の後日――DAY06だ。それじゃタイミングが合わない」
マミゾウ「本気で言っておるのか? 〈17人目〉の危険性なぞ、端末破壊の件でとっくに知れ渡っていたじゃろうが」
ナズーリン「なぜそこまで危ない橋を渡る必要がある?
隠されていた凶器の場所さえ知ることが出来たのなら、妹紅に〈マスターキー〉を取得して貰ってから回収に向かえば良かった話だろう。どの道妹紅を共犯者として引き込むつもりだったのなら尚更だ」
マミゾウ「そこはどうでもいいじゃろう。たまたま順番が逆だっただけじゃ。凶器の使い道はプレイヤー次第じゃ」
レミリア「総合すると――
マミゾウはエリアを独自に捜索中に、たまたま魔理沙と早苗が隠していた大量の凶器を発見した。DAY05の朝にはみんなの前で謝罪したけど、その謝罪はプレイヤーを欺くための嘘に過ぎなかった。だからDDSルームの見張りを終えててゐと別れたマミゾウは、三回目のチャレンジでジュラルミンケースを開けるための〈マスターキー〉を取得した。そして凶器の隠し場所まで行って〈リボルバー〉を拝借した。マミゾウは妹紅に〈リボルバー〉を見せつつ、共犯の約束を取り付けた。〈マスターキー〉は自分ひとりで内密に処分した為メダルを全て失ったけど、朝にはメダルが補充されたので問題はなかった。こんな所かしら?」
マミゾウ「ああ。矛盾なぞ一つも無い。どうじゃ、筋が通っておるじゃろう?」
レミリア「咲夜、どうかしら? 私も
霊夢と同じように全体を要約出来たわよ?」
咲夜「そんな羽をパタパタさせてドヤ顔で言われましても……。お嬢様、この線でマミゾウさんに対して何かを追及するのは無理筋なのでは? そもそもマミゾウさんはチルノさんを殺した犯人というわけでもないのですよね?」
レミリア「そうね。彼女はチルノを殺していない。断言出来るわ」
早苗「……」
マミゾウ「ん? なんじゃ、その眼は?」
早苗「――何でもありません。議論を続けてください」
こいし「ねえねえ、マミゾウおばあちゃん」
マミゾウ「なんじゃ?」
こいし「
〈リボルバー〉の他にはどんな武器があったのー?」
マミゾウ「他の武器?」
こいし「
魔理沙達はみんなに使われないようにする為に、沢山武器を集めてたんでしょ? だったら
七つくらいは武器が隠されていたんじゃないの?」
マミゾウ「七つ? その根拠はなんじゃ?」
こいし「んー? だってさ、
魔理沙はボーナスルールで、凶器を二つは安全に取得出来たし、早苗は〈奇跡〉で五つ取得出来たよね? マミゾウおばあちゃんが実際に〈リボルバー〉を盗んだのなら、他の凶器だって見てるはずだよね?」
マミゾウ「お主までわしを疑うのか? かーっ! 全く。世も末じゃな! こんな大勢が聞いている中で教えるわけがなかろう。凶器が誰かに狙われたらどうするんじゃ」
こいし「大丈夫大丈夫! また別の場所に隠せばいいんだし。いっそ
ナズーリンに手伝って貰えばいいと思うよ? そのほうがもっと安全な隠し方が出来ると思うし。ね?」
こいし「良かったー! 交渉せいりつー。で、マミゾウおばあちゃん。凶器はどんなのがあったの?」
マミゾウ「――端末破壊事件にまで遡りつつ説明するか?
まずDDSルームの端末が破壊された時、〈トラバサミ〉は設置済みでその取得可能凶器の中には含まれてなかった。ボーナスルール解禁直後、まずはお主が〈香水〉と〈消臭剤〉を取得し、その後でわしが〈金塗りの模擬刀〉と〈マスターキー〉を取得した。後からやってきたルーミアとチルノは、〈ナイフ〉、〈暗視ゴーグル〉、〈水晶玉〉をそれぞれ取得した。つまり早苗と魔理沙は残りの凶器の中から凶器を取得したということになるな?」
こいし「うん! それで?」
マミゾウ「こいし、
実は魔理沙は凶器を取得しとらんのじゃろ? わしを引っ掛けようとしても無駄じゃ。
二人が頻りに『私達』という言葉を出していたのは『ブラフ』、あるいは『チームで動いていたゆえの表現』じゃ」
こいし「お?」
マミゾウ「つまり――
魔理沙達がDDSルームから回収した凶器は
〈リモコン爆弾〉、〈無味無臭の毒薬〉、〈リボルバー〉、〈セミオート〉、〈霊体ボウガン〉、この五つで間違いないな?」
咲夜「……!」
こいし「おおー」
マミゾウ「言っておくがお前達、くれぐれも
魔理沙と早苗から凶器をせしめようとするでないぞ? 盗んだわしが言うことでもないかもしれんが。隠し通すのが不安だと考えるのなら、これからは当初のア
イデア通りに見張りを立てつつDDSルーム内での管理も――」
こいし「……………………うぷぷ」
マミゾウ「……ん?」
こいし「……ぷ、くくくく。あははははは! ざーんねーん! はっずれー! マミゾウおばあちゃん、ダウトーーーーーーー!」
マミゾウ「な、なんじゃ?」
こいし「五つも凶器はありませんでしたー! 本当は四つだよ! 騙してごめんね!」
マミゾウ「そんな、馬鹿な……」
こいし「
確かに魔理沙は凶器を取得していないよ! でもね、二人がジュラルミンケースの前で話し合っていた時、凶器は四つしかなかったんだよねー」
マミゾウ「そ、それは……」
レミリア「あらあら。貴方が舌戦で一本取られるなんて、相当ヤキが回っていたみたいね。ねえ、咲夜。――咲夜?」
咲夜「――すみません。呆気に取られてしまいました」
ナズーリン「……なるほど、そういう攻め方もあるのか。こいし、感服したよ」
青娥(
ルーミアさん、よろしいですか? もし凶器をもう一度取得する際には、このような場合に矛盾点を突かれないように言いわけを準備しておいてください。そうしないと間違いなく誰かにそこを掘り返されます)
早苗「こいしさんの言う通りです。私達の話し合いを、本当に間近で聞いていたんでしょうね。ちょっとした理由があって、私は四つしか凶器を取得しなかったんですよ」
マミゾウ「早苗……」
てゐ「それで、
なんで魔理沙は一個も凶器を取得しなかったの?」
早苗「……はぁ」
てゐ「ん?」
早苗「………………紫さん!!!」
こいし「うわ! あー、びっくりした」
早苗「裁判前に預けておいた
ジュラルミンケース! 今すぐここに持ってきてください!」
紫「いいわよ。すぐに取り出すわ。――はい、怪我しないように気を付けてね」
早苗「……どうも」
ガシャン!!
青娥「ふふふ。神様がご立腹ですわね」
ナズーリン「も、もう少し静かに置いてくれても――」
早苗「皆さんの目で確かめればいいでしょう!? 私達がどんな風に考えて凶器を再取得していたのか!」
マミゾウ「――これは?
〈セミオート〉、〈リモコン爆弾〉。そして〈無味無臭の毒薬〉、か……」
レミリア「〈霊体ボウガン〉なんてなかったわね。保管していたプレイヤーは二人とも『人間』なのだから、読みは間違っていなかったと思うけど」
こいし「そうそう。こんな感じだった。部屋で見た時は、これに加えて、〈
リボルバー〉があったねー」
早苗「ほら、手に取ってよく見てくださいよ」
ルーミア「――あれ?
この毒薬の瓶、空っぽだよ?」
ナズーリン「待ってくれ。
爆弾の信管が取り外されているぞ!? 拳銃に至っては――弾薬が一つも装填されていないじゃないか!」
青娥「ですが――確かに妹紅さんは銃殺されていました。これはどういうことでしょうねえ?」
てゐ「あ、あれ? それじゃあ、もしかして――」
咲夜「他の可能性を模索することも出来るけど、早苗の様子からすると恐らく……」
マミゾウ「――弾薬や信管を保管していたのは、
魔理沙だったのか?」
早苗「違います!」
てゐ「え? そしたら早苗が保管していたってことになっちゃうんだけど――」
早苗「それも違うんです……違うはずだったんですよ!!」
咲夜「早苗……?」
早苗「毒薬は、部屋の洗面台で簡単に中身を処分出来ました……。他の凶器も同じように無力化した、はずだったんです……」
早苗「
そうですよ! 弾薬も! 信管も! トラッシュルームで魔理沙さんと一緒に処分したはずだったんです! 何度も言ったじゃないですか! 『他のプレイヤーが殺人に用いないようにする為に』凶器を回収したんですよ!? 当然私達だって使うつもりはありませんでした! だったら私達が『ガワ』の部分はともかく、起動の要になる部品まで保管する必要性が無いじゃないですか!」
レミリア「本来、この会場で銃殺が起きることは有り得なかった――そういうことね」
てゐ「
それでさ、なんで魔理沙は凶器を取得しなかったの? 早苗が〈奇跡〉を魔理沙か施設そのものを対象として使えば、残りの凶器を全て回収することだって可能だったんじゃないの?」
早苗
「魔理沙さんはDAY02の計画が失敗した件で、本当に心を痛めていたんですよ……。だから私がたまたま知ったボーナスルール解禁のことを教えた後でも、頑なに凶器の回収を拒んだんです。魔理沙さんは――ゲームが始まってから、一度もDDSルームを使っていません。そんな
魔理沙さんだから、信じていたのに……」
早苗「
魔理沙さん! 貴方、一体どういうつもりだったんですか! 今すぐ全部白状してください! この凶器に手を付けた意味、わかってるんですか!? 私は殺人が起こらないようにする為に協力していたのに! ずっとそう願っていたのに! 私がどんな気持ちで貴方と一緒に――」
妹紅「――そうか。
魔理沙は端末破壊事件で、そこまで心を痛めていたんだな。
だからマミゾウに共犯による殺人を持ち掛けて拒まれてからも、チルノを殺害することを選んだわけだ。自分だけが手を汚していない罪悪感に苛まれた末にな」
21
妹紅「
チルノの残したダイイングメッセージ。やっと意味が解ったよ。チルノを殺した真犯人は『超高校級の泥棒』。『霧雨魔理沙』――お前だな」
22
てゐ「妹紅、今――あんた、なんて言ったの?」
ナズーリン「い、いや。そんな馬鹿な。妹紅、そんなはずはない」
ナズーリン「だってそうだろう!? 彼女は
博麗霊夢と同じ、『異変解決者』側の人間だ! 人妖が幻想郷を脅かす行動を起こした時、対処するのが彼女達の役割だ。スペルカードルール制定前は、命を賭して異変解決に取り組んでいた。そう聞いているぞ!?」
マミゾウ「……妹紅。お主はどうして
わしが魔理沙に共犯による殺人を持ち掛けられたと知っていた? 誰に聞いた?」
妹紅「ん? 私なりに推理ってやつをしただけだよ。まず、お前一人の結論では共犯という結論に辿り着くはずがないからな」
マミゾウ「……なぜそう思う?」
妹紅「一回目の事件の時、お前は一人で動いていただろ? その時お前は自分一人で証拠品を管理出来る範囲でしか行動を起こしていない。身も蓋もないことを言えばマミゾウは、私なんか居ないほうが人殺しだってスムーズに終えることが出来たんだよ」
マミゾウ「そ、それは――」
妹紅「次に、DAY05の朝に謝罪したお前が夜には心変わりした理由。そんなの余程のことがないとおかしい。お前は『義理人情』というものを大切にしているからな。お前の気持ちを変える何かがあるとすれば――誰かからの共犯の誘いくらいだろうな」
咲夜「マミゾウさん、とても優しい方ですもんね。私が
自傷した後も、軟膏を渡してくれましたし……」
妹紅「お前に共犯を持ち掛ける可能性が高いとしたら――
命蓮寺内で繋がりのあるナズーリン、あるいは神霊異変解決後に知り合いとなったこいし、その当たりだな。だがこいしとは連絡を取り合うこと自体至難の技だし、ナズーリンが関与していれば現場から出る証拠品は今と全く違ったはずだ。お前がこの会場で本当に心を許しているプレイヤーは、実はそう多くない。ゲーム外にまで心を許している人物の範囲を広げるなら、『
聖白蓮』、『
寅丸星』、『雲居一輪』、『雲山』、『
村紗水蜜』、『
封獣ぬえ』、『
幽谷響子』、『
多々良小傘』、『秦こころ』、『
稗田阿求』、『本居小鈴』――こんな所か?」
ナズーリン「関係者にずいぶん詳しいが――どうしてだ?」
妹紅「以前慧音が色々と教えてくれたんだよ。『幻想郷に素敵な思想を持った寺が生まれた』ってな。それに永夜異変の後から、多少は里の人達とも関わりを持つようになったんだ。そういう話を訊くこともある」
妹紅「だけどな――幻想郷の交友関係には『特別枠』とでも言うべき『広い交友関係を持ち、且つ知り合った人妖の大半から好かれている二人』というのが存在する。そんな二人のうち、片方から頼りにされれば、ここにいるみんな、断り辛いと思わないか?」
妹紅「ああ。仮に私の方からマミゾウに共犯を持ち掛けても、恐らく門前払いされていただろうな」
マミゾウ「そ、そんなことはない! お主は安全なプレイヤーだから、話くらいは聞いた!」
レミリア「
つまりマミゾウが殺人に関する交渉に応じたとすれば、霊夢か魔理沙の、どちらかだと?」
妹紅「ああ。
だが霊夢と魔理沙は既に強固な信頼関係で結ばれている。だったらマミゾウより先に、霊夢か魔理沙の片一方が、マミゾウより先にもう片方に交渉を持ち掛けていてもおかしくはない」
霊夢「黙っていてごめん……。
魔理沙にはDAY05の時に『〈青娥〉と〈妹紅〉を標的とした共犯による殺人』を持ち掛けられていたわ」
青娥「あら? それでしたら、私を遠慮なく狙ってくださっても良かったのに」
青娥「どうしてですか?
能力的に〈絶望〉かどうかを判断し辛いプレイヤーは、霊夢さん、魔理沙さん、妹紅さん、そして私だけでしょう?」
こいし「え? 私って〈絶望〉かどうかを、どうやって自分で判断出来るの?」
さとり「貴方が〈絶望〉なら、〈無意識〉を簡単に解除出来るに決まっているでしょう……」
こいし「あ、じゃあ無理だね!」
ナズーリン「同じように、さとりが〈絶望〉だったら深層心理を読むことも出来るだろう。早苗は〈奇跡〉の解除が可能だろうし、てゐに至っては〈幸運〉の無制限貸し出しすら出来るかも知れない。咲夜、
レミリア、マミゾウ、それに私の場合は、インターバルや回数、あるいは発動時間の制限が撤廃されるということになる」
てゐ「それで、
霊夢に断られた
魔理沙は、どうして代わりにマミゾウを選んだのさ? 他にもプレイヤーは沢山いるじゃん」
妹紅「どうしてだろうな。マミゾウの腕を買っていたから、あるいは〈幻惑〉能力が犯人側の能力として有用だから、か?」
青娥「ふふ。あるいはこう考えられませんか?
『マミゾウさんは魔理沙さんに無い物を持っていたから』」
妹紅「それって一体、なんだ?」
青娥「さあ、なーんでしょうねえ。大人の色気かしら?」
ナズーリン「そんな煙に巻くようなことを言うな。もっと現実的な理由でだろう?
『文の事件の時に、殺人の為に動ける人物だと明確になったから』だな?」
ルーミア「私もその時に動いたけど、マミゾウは私みたいに頭が悪くもないもんね」
レミリア「――それで、妹紅。ダイイングメッセージの意味については、いつ話してくれるの?」
妹紅「ああ。今教える。まずはこれをもう一度見てくれ」
咲夜「黒い造花は、本来青い造花だったんですよね」
妹紅「その通りだ。『青』から、『黒』だ。だけど花の色には、その間にもう一段階別の色が存在する。何かわかるか?」
ナズーリン「ん?
血が付いたから変色したわけだろう? それ以前になんらかの薬品に浸されていた、ということか?」
妹紅「正解だ。
チルノが抱いていたドライフラワーは最初『青』色だった。そこに『赤』い血の色が加わり、『黒』に変色したわけだ」
早苗「確かに、
青い花をダイイングメッセージとしたかったら、指を差すなりすればいい話ですもんね? 逆にしっかり抱きかかえてしまえば、今回のように血で色が変わってしまいますし」
咲夜「それとは逆に、抱きしめることで血液を花に浸透させることが目的だったんですね」
てゐ「
血液ってさ、みんなが思うよりもずっと速く凝固するんだよね。チルノは自分の死体が15分以内には発見されると踏んでいたのかもね。時間的にレミリアがトラッシュルームを使う前だったし。だけどそれじゃ他のプレイヤーに『血で赤く染まった花』を見せる為には全然間に合わない。鼻血でも出した時、
ティッシュが黒ずむまでの時間、今度測ってみな?」
レミリア「元々がガラス玉を通しても映えるように濃い青色である〈水晶玉〉内部の花に、強い赤色である血液が混ざれば、かなり濃いマゼンタ色になるわね。そこから更に血液の凝固が進めば『限りなく黒に近い色の花』。現物を確認したのはトラッシュルームという暗い場所だったし、こうやって今再確認しているけど、更に凝固は進んで暗い色の花になっているわ」
早苗「私も小中学生の時に――そういえば文化祭とかでもそれに似たような物を作ったことがあるんですが、それももしかして普通の折り紙よりもうっすい紙じゃないですか? うん――やっぱりそうっすね。水に浸したらすぐに駄目になっちゃうようなやつだ。当然っちゃ当然すよね。〈水晶玉〉の内部に埋め込まれたってことは、外に取り出すことを前提としない紙でもあるんですから。これなら血を吸うのも普通の紙より早いと思いますよ?」
妹紅「花の色については納得してくれたか? 次はこれを見てくれ。さっき
霊夢から貸して貰った
美術図鑑の本体だ」
ルーミア「これ、私がチルノちゃんに渡したやつ? 持ってきてたんだ」
ルーミア「え? うん。どちらかと言うと休み時間にみんなと遊びたくて通ってるけど」
妹紅「そうか。だったらこの記述――『龍の花生け』について書かれた部分は読めるか?」
ルーミア「ん? ええと、『ちょう……しょうがくせいきゅうの、ずこうのじかん…………なんと
かせいの、はないけで』、? えーと――」
ルーミア「や、やってるって! 大ちゃんみたいに真面目にはやってないけど!」
妹紅「よし、だったら、これが作られた経緯や、芸術の趣旨についての部分はわかるか?」
ルーミア「え、そんなの無理だよ!
『花は龍の口に生ける』ってところは一応読めたけど。『龍』って漢字が像のことを指しているのはなんとなくわかったけど、習ってない漢字だって沢山あるし。だって、図鑑をパラパラってめくってから、〈水晶玉〉を嵌められそうな見た目でそれを選んだんだよ? 文章なんてあんまり読んでないし、深夜のうちにパッと持ち出したんだから、書かれていることを気にしている余裕なんてなかったもん」
妹紅「――なあ、
ルーミア。
この龍は、何をしている所だと思う?」
ルーミア「
え? この持っている物を食べようとしているんじゃないの?」
早苗「え!?」
咲夜「はい?」
てゐ「おいおい……」
妹紅「
ルーミア、多分違うと思うぞ? 私も厳密には何をしようとしているところなのかはよくわからないけど。チルノも同じ認識だったのか?」
チルノ「うん。チルノちゃんに『これって何なの?』って聞かれたから、『口の所に花を生けられるらしいよ』ってことは話しておいたけど」
ナズーリン「――龍は『昇龍』と『降龍』の二種類に分けることが出来る。一般的に昇龍をモチーフにした作品の龍は、龍玉を持っていないんだ。龍は天に昇ってから、龍玉を取って降りてくると考えられているからな。この龍が何をしているところなのか、ということをあえて定義するならば『龍が宝玉を手に入れて地上に降りてくる所』だろうな。龍をモチーフにした作品の作り手全員がそれを理解しているとは全く思わないし、その必要性もないと思うが」
ルーミア「そ、そんなことまで考えてこれを選ぶわけないじゃん!」
てゐ「だろうねえ」
レミリア「
――チルノもルーミア同様、龍の像の、作品としての趣旨を大きく勘違いしていた?」
妹紅「ああ。私もそう考えている」
青娥「妹紅さんは、そこからどうダイイングメッセージに繋げたのですか?」
妹紅「最も重要な部分は当然ここだ。『花は龍の口に生ける』。つまりここから花の色を踏まえて連想していけばいい」
こいし「口に、って――あ!」
妹紅「お前も気付いたか? 多分そういうことだよな? 『花は龍の口に生ける』ってことは、チルノが抱えていたあの花は、口に咥えさせればいい、ってことだ」
早苗「そういう意味だったんすか。チルノさんは、プレイヤーの誰かが『赤い花』を咥えていたのを目撃していたってことすか?」
てゐ「……何さその奇妙な状況。意味がわかんないし」
妹紅「私もそこで推理が詰まった。だからもう少し踏み込んで解釈することにしたんだ
。そもそもダイイングメッセージに〈水晶玉〉の中のドライフラワーを選んだ理由はどうしてか?」
てゐ「いや、そこにそれしかなかったからじゃないの?」
ナズーリン「
だったら花の絵を血で床や壁に描けばいい話だ。
血文字で出来た、赤い花の絵をな。五分近く生きていて、花を懐に抱える力が残っていれば出来る」
妹紅「その通りだ。つまり私は――こう考えた。床に落ちていた割れた〈水晶玉〉も含めて、一つのメッセージなんだとな」
早苗「凶器が、ですか?」
妹紅「そうだ。
〈水晶玉〉は『花』の部分と、凶器である『水晶』の部分に分けられる。そしてチルノは、ドライフラワーは抱えていたのに、水晶部分のほうは一切抱えていなかった」
妹紅「だったら、こうは考えられないか? チルノが創造し、想像した龍は、『花と水晶部分を分けることが出来た存在』だと」
妹紅「ああ。真犯人も凶器と無害な部分を分けることが出来たんだ」
妹紅「――『毒』だよ」
てゐ「毒? それってもしかして――〈香水〉のこと?」
早苗「でしたら、〈花〉を意味するのは、お茶のことですか?」
こいし「でもさ、お茶ってどちらかと言えば花じゃなくて葉っぱのほうじゃない? それだと意味がちょっと――」
咲夜「――いいえ、合ってますよ。あの紅茶は、『花』でもあるんです」
こいし「え?」
咲夜「お嬢様、DAY05に淹れたお茶が何か覚えてますよね?」
妹紅「そうだ。
魔理沙、
お前はDAY05には紅茶に違和感を覚え、DAY06の朝食の際にもそれを指摘していたな。赤いローズヒップティーと、チルノが抱えていた『赤い花』。この奇妙な符合はなんだろうな?」
ナズーリン「――待ってくれ。
紅茶自体はほぼ全員が飲んでいるんだぞ。いくら二回とも魔理沙がそれを指摘していたと言われてもなあ」
ルーミア「
それに咲夜だって〈香水〉を飲む前に気付いてたよね? レミリアが味についての指摘をした時に」
妹紅「そうだな。だけど私達が毒を飲まされそうになったタイミングは――その二回だけじゃないんだよ」
てゐ「他に〈香水〉が仕組まれたタイミングなんてあったっけ?」
妹紅「ああ。その時は私だって飲んでないし、誰も飲んでいない。そんなもん一口でも飲んでいたら、ここにいる誰も助からなかっただろうな」
早苗「あ、あの、まさか……」
てゐ「え?」
早苗「私が〈奇跡〉を使って〈絶望〉に飲ませようとした、〈無味無臭の毒薬〉のことですか!?」
レミリア「
――咲夜、一応確認するけど、その時淹れたお茶は?」
咲夜「
――ローズヒップティーです! DAY05に、皆さんにお出しした紅茶と、全く同じ物です! 赤い薔薇の花の、赤い実から作られた、紅茶です……」
妹紅「
ああ。その時も毒殺を回避出来たのは――魔理沙の手柄だったな」
妹紅「チルノのメッセージの意味、納得して貰えたか?」
咲夜「妹紅さん。聞かせてください。チルノさんはなぜ、紅茶や毒の件をダイイングメッセージに用いたのでしょう?」
ルーミア「
私が『血』に対する嗅覚が強いように、チルノちゃんや大ちゃんのような妖精は『植物』に関する嗅覚が敏感なんだ。だからチルノちゃんには、異物が混入したローズヒップティーの印象が強く残ったんだと思う」
妹紅「知らない、ってどういうことだ? じゃあ、トラッシュルームにあった花はなんだ!? どうしてチルノは懐でしっかりと抱えていた!?」
マミゾウ「――いい加減にしろ! 小童が!」
23
紫「……」
妹紅「……マミゾウ」
マミゾウ「
魔理沙が人殺し? ふざけるのも大概にせい!
此奴のような臆病者に殺人者が務まるわけがない! 断じて、有り得ん!」
咲夜「……『臆病者』?」
てゐ「どういうこと?」
マミゾウ「こいし! 早苗!」
こいし「は、はい!」
早苗「な、なんですか?」
マミゾウ「ゲームは明日以降も続くんじゃ! それなのに〈
リボルバー〉の件をバラしてしもうて――次に
魔理沙の命が狙われることも有り得るのじゃぞ!? なんでもかんでも推理で暴けばいいわけではない!」
こいし「で、でもダイイングメッセージは?」
マミゾウ「――妹紅には申しわけないが、
魔理沙のことを指しているとは到底思えん。事実、この中で
魔理沙がチルノを殺したという考えを受け止めることが出来た奴はおるのか?」
ルーミア「出来るわけ、ないじゃん。
魔理沙が人殺しだなんて、考えられないよ……」
こいし「私だって、そうだし……」
マミゾウ「そうじゃろう。だったら訊かせてやるわい。DAY05の夜にあった出来事をな」
妹紅「
――魔理沙が共犯の交渉に訪ねてきた時の話か?」
マミゾウ「そうじゃ!
わしは魔理沙の話を一通り訊いた後に、交渉を一度突っぱねてやったのじゃ! わしに言わせれば、挨拶代わりの軽い挑発のつもりじゃった。『お主は
霊夢に比べて心が圧倒的に
弱い』、『そんな杜撰な犯行計画では話にならない』、『どうせ
霊夢に断られたからここに来たんじゃろ』、とな」
マミゾウ「一度
魔理沙を突き放してから、その後にきちんと交渉に応じるつもりじゃった。だからわしは一先ず一服する為に、部屋にあった灰皿を空にした。その後――何が起きたと思う?」
マミゾウ「
空になった灰皿の前で火を付ける前に何気なく魔理沙の方を振り向いたら――
此奴は泣きながら〈リボルバー〉の銃口をこちらに向けておったのじゃ」
咲夜「そんなことが!?」
マミゾウ「『私は強いんだ』、『一人でも出来るんだ』、『仲間だって沢山いる』、『
霊夢にだって負けないんだ』と呟きながらな。そうやって――照準が全く合わない銃を構えていた」
てゐ「なんだよ、それ……」
魔理沙「――おい! ふざけるな! 出鱈目を言うな!」
マミゾウ「だからわしは瞬時に距離を詰めて、
魔理沙を叩き伏せ、〈
リボルバー〉を奪った。〈幻惑〉を使う必要すらなかったわ。更に数回打ち据えてから、こう言い放ってやった。
『凶器だけ渡せ。こっちで勝手にやるから、一切手出しをするな』と。
『DAY06の夜は誰かと一緒に居るか、部屋で待機していろ』とも、
魔理沙には厳命しておいた」
咲夜「では、
魔理沙が犯人ではないと考える理由というのは――」
マミゾウ「ああ。あの時の姿を見れば、
魔理沙がまともに殺しが出来る人間だとは誰も思わんはずじゃ」
青娥「マミゾウさん」
マミゾウ「なんじゃ?」
青娥「
魔理沙さんは一体どのような計画を携えて、交渉に訪れたのでしょうか?」
マミゾウ「――
わしが〈リボルバー〉と〈幻惑〉で妹紅を殺し、魔理沙が〈セミオート〉で青娥を殺す。そして〈リボルバー〉と〈セミオート〉をトラッシュルームで処分し、ボーナスルール未使用の魔理沙がDDSルームで二つの銃を再取得。もう一度トラッシュルームに行き、二人で弾薬を処分した後で、そのまま凶器を元あった所に戻す。捜査が開始されたら、わしと魔理沙はお互いのアリバイを証言する。こんな所じゃな。今にして思えば、
弾薬を処分する理由についても一旦
魔理沙に訊いておくべきじゃったが」
てゐ「
ああ。だからさっき魔理沙が凶器を取得していないことも知ってたんだね」
こいし「なんか、普通によく出来た計画だと思うけどなあ」
レミリア「完全犯罪が成立するように思えるわね――
魔理沙に人を殺せる度胸があるのなら」
マミゾウ「そうじゃ。いくら綿密に計画が練られていたとしても、肝心要の殺人で躓いたら話にならん」
ルーミア「でも、それならマミゾウが二人とも殺して、
魔理沙がDDSルームを使えば――」
マミゾウ「なんじゃと? なんで向こうさんが手を汚さず、わしだけ二人も殺さんといけないのじゃ? そんなもん、筋が通らん。それにな、そういう卑怯な人間は大抵自分から人を誰も殺しておらずとも、裁判で良心の呵責に耐え切れず、自白してしまうのが関の山じゃ」
妹紅「だけど、私は自白したぞ?」
マミゾウ「お前さんはいいんじゃよ。まず、三度も命を投げ出したのじゃからな。それにギリギリまでわしを守る為に口を閉ざしてもくれたし、裁判の勝利よりもチルノへの友情を優先した。お主は間違いなく共犯者として、わしの期待に答えてくれた」
妹紅「――私はそんな大層な人間じゃない。竹林に隠れ棲む、一体の化物だよ」
早苗「化物だなんて、そんな……」
ルーミア「チルノちゃん、妹紅といる時、すっごくリラックスしてるように見えたよ。だから一週間も経たないうちに、殺人ゲームに対するモチベーションが下がっちゃったんだと思うな……」
妹紅「……」
霊夢「
ごめん、それでも私も――魔理沙が犯人だと考えている。妹紅とは別の理由でね」
24
マミゾウ「――なぜそう思う?」
霊夢「
捜査時間中に私は、さとりの提案で青娥を解放しに行ったのよ」
さとり「ええ。そうでしたね」
霊夢「
私は九割ぐらいの気持ちで青娥を解放することには反対だった。だけど一割くらいは、『そうするしかない』という気持ちもあった」
青娥「あら? どうしてでしょう?」
ルーミア「青娥が〈絶望〉についての鍵を握っていたから?」
霊夢「『鍵』か、ちょっと近いわね。
このままでは青娥の部屋の鍵が開けられないと考えたからよ」
早苗「部屋の鍵、ですか?」
ナズーリン「――む? 青娥の部屋にあった反応については、
霊夢にはトラッシュルームに戻ってきた後で教えたはずだが?」
霊夢「そうね。だけど私の直感でも――〈香水〉と〈消臭剤〉が保管されている部屋で、何かがあった気がしたのよ。
つまり捜査時間中に必ず調べなければならなかった部屋は二つ。チルノの部屋と――青娥の部屋。チルノの部屋も鍵が手に入るか怪しかったけど、青娥の部屋の鍵は魔理沙と私で処分したことが確定していたのよ? だったら青娥の力を借りなければ、部屋が調べられないじゃない」
レミリア「それはそうよね。
ジュラルミンケースに鍵をして〈香水〉と〈消臭剤〉を処分したのなら、青娥の部屋の扉だって施錠するに決まってるものね。私だったらそうするわ」
ナズーリン「
ああ。一回目の殺人事件が起きた時に、橙は青娥の部屋を訪ねてきた。橙は既にシリンダーが抜き取られたドアを交換済みのはずだ」
咲夜「あれ? でも私達が部屋を訪ねた時、青娥が鍵を再発行したり、〈壁抜け〉で錠を外したりしていましたっけ?」
青娥「いいえ。〈壁抜け〉で扉の鍵なんて開けていません」
霊夢「
部屋の鍵は、私と魔理沙がジュラルミンケースに凶器を保管した時点では掛かっていた。だけど事件発生後は鍵が外されていた。理由は――鍵を掛け直したくても出来なかったから。鍵を処分した後ではね」
こいし「出来なかった? なんで? どこに処分しちゃったの?」
ナズーリン「
それは――マミゾウ達と同じ手口か!?」
霊夢「
〈香水〉と〈消臭剤〉は今回の事件で一切使われていないわ。つまりジュラルミンケースの近くに保管しておけば、証拠品を二つまで隠すことが出来る。逆に言えば、証拠品を丁度二つ用意しておかないと〈
ダウジング〉で矛盾が出てくるってことだけど」
こいし「わたしも早苗達が
ジュラルミンケースを使うの見たことあるけどさ、
ジュラルミンケースは自動でロックが掛かるタイプの錠前じゃないでしょ? だったら鍵を入れちゃったら、閉めることなんて無理だよ?」
霊夢「そうね。私もそれは確認してる。
――だけど、鍵をケースに入れる必要なんてないのよ」
こいし「え?」
霊夢「確かにケースに鍵を入れることが出来れば万全だけど――
要はナズーリンの〈ダウジング〉さえ掻い潜ればいいの。ジュラルミンケースがあったのは部屋のサイドボードの上だった。つまりその近辺に鍵を隠してしまえばいい。納得出来た?」
こいし「うん、納得した!」
咲夜「つまり、お嬢様。
魔理沙が
霊夢に処分を託した鍵というのは――」
レミリア「
魔理沙の部屋の鍵だったんじゃないの? だから事件発生時、トラッシュルームを使わずに証拠品を処分することが出来た」
早苗「
あの、それってつまり――魔理沙さんが霊夢さんを騙した、ってことになりません? 殺人に使う道具を手に入れる為に?」
咲夜「……」
てゐ「……あのさ。そんな幻想郷の終わりみたいな結論、急ぐの止めとこうよ。――
それに〈マスターキー〉さえあれば、部屋だろうがジュラルミンケースだろうが、鍵なんて簡単に開けられるじゃん」
マミゾウ「――いや、確かに可能じゃが、その場合は余計に鍵が掛かっていないとおかしい」
てゐ「マミゾウ?」
マミゾウ「
ジュラルミンケースの鍵を掛けてからトラッシュルームに捨てに行くまでには、当然部屋の扉も通過する。鍵を処分するついでに部屋を施錠しないのは、可能性が無いとは言わんが、行動心理としておかしい」
てゐ「いや、そもそもさ。部屋に施錠されていることって、そんなに重要? 捜査する側になって考えてみなよ? 私や早苗もいるんだよ? その気になれば青娥に頼らなくても鍵を開けることなんて――」
マミゾウ「捜査時間中にDDSルームを使う? そんなこと、大半のプレイヤーが許すと思うか? 〈マスターキー〉は証拠隠滅にも使えるし、咲夜やわしの能力なら捜査時間中にも〈マスターキー〉は簡単に盗めてしまうぞ? そのような提案、真犯人ならまず拒否するじゃろうな。それにDDSルームは基本的に、『凶器を自分一人で密かに保管する』ことを前提として回収する為の場所じゃ。護身にしろ、殺人にしろな。裁判後は回収した〈マスターキー〉を処分することを皆に要求されるじゃろうし、『余程の奉仕精神を持ったプレイヤー』と『他プレイヤーからの同意を得られる状況』が同時に存在しなければ、〈マスターキー〉を手に入れることは出来んよ」
ナズーリン「
魔理沙自身が部屋の鍵ではなく〈マスターキー〉を入手して使った場合でも、同じことが言えるな。その場合部屋に保管された物も多少変わってくると思うが」
てゐ「――わかった。そこまで言うならもう少し反論させてね?
確か宿舎エリアにある部屋のドアってそこまで頑丈な作りじゃなかったよね? 流石に勇儀みたいに蹴破ることが出来るやつなんて他にはいないと思うけど、力を合わせれば捜査時間中にドアをこじ開けることだって出来るんじゃないの? それならドアには
ジュラルミンケースと違って、犯行のための道具としてそこまでの信頼性はないんじゃないの?」
ナズーリン「てゐ。
勇儀が霊夢の部屋のドアを蹴破った時、どうしてそれを直すことが出来たと思う?」
てゐ「は? 馬鹿にしてんの?
霊夢が紫に申請したからでしょ?」
マミゾウ「では青娥が自らの部屋を犯行現場に仕立て上げるためにドアのシリンダーを抜き取った後は、ドアの修理は誰が申請したと思う?」
てゐ「……青娥自身じゃないの?」
青娥「はい。その通りですよ」
てゐ「ほら、やっぱりそうでしょ? だったら捜査時間中にドアをこじ開けたとしても後から青娥が――」
ルーミア「
――多分青娥は自分の部屋のドアなんて直さないと思うよ? だって裁判が終わったら青娥をまた拘束するつもりなんでしょ?」
てゐ「え?」
青娥「……ふふ」
こいし「えー、なんで? 〈香水〉と〈消臭剤〉は明日からも青娥の部屋で管理しなくちゃいけないんでしょ? 私はもういらないけど」
てゐ「! そ、そうだった……。こいしの言う通り、DAY08以降も凶器は青娥の部屋で管理しないといけないんだっけ……。
処刑されたプレイヤーの部屋の鍵やジュラルミンケースは運営に返却する決まりだったから、〈香水〉と〈消臭剤〉を勇儀や文の部屋で管理することは出来なかったんだ。だったら犯人がドアの鍵を掛けることにも、ちゃんと意味があるってことなんだ……」
ナズーリン「裁判終了後に調べたところ、文と勇儀の部屋はドアの鍵が開いたままだった。てゐの言う通り、鍵とケースを運営に返却した状態でな。だからこそ我々は『文か勇儀の部屋のケースに〈香水〉と〈消臭剤〉を保管する』という選択肢はなかったわけだ。つまり――我々が捜査時間中に青娥の部屋のドアをこじ開けてしまえば、非常にまずい状況になっていたんだ」
早苗「……あのー、青娥さん。つかぬことをお聞きしますが、青娥さんって私達がドアをこじ開けた場合って、錠を直す気はあるんすか? そもそも
霊夢さんに解放されて自分の部屋の前に戻ってきた時に、錠を外す気ってあったんすか?」
青娥「――私は確かに言いましたよね? 『皆さまの味方です』と。『貴方達を皆殺しにする』とも。つまり私の役割って探偵助手と殺人幇助犯をダブルでやっているようなものなんですよね。勝手に私の懐から盗み出した鍵で、勝手に私の部屋に凶器を持ち込んで、勝手に私の部屋のケースに入れて、勝手に私の部屋に鍵を掛けて、勝手に鍵を焼却処分した気になっていたのは他でもない貴方達ですよね? それを『部屋でもう一度凶器を管理したいから鍵とドアについて運営に申請してくれ』なんて頼まれて、私が素直に従うと思いますか? もしそう思うのでしたら、ちょっと私を買い被り過ぎかもしれませんねえ」
さとり「それだけではありません
。裁判が終わった後に保管することになる凶器は〈香水〉と〈消臭剤〉だけではないんです。犯行に使われた〈ナイフ〉と〈暗視ゴーグル〉も保管場所を決めなくてはなりません。チルノさんの足元に砕け散っていた〈水晶玉〉や、地下に隠されているはずの〈
リボルバー〉についても同様です。破片の処理さえしなければDDSルームに送られることはないわけですから」
咲夜「お待ち下さい。それなら結局はドアが壊れてても壊れてなくても同じような気もするんですが……。まず捜査時間中には手段を問わなければドアをこじ開けることも出来ます。ですが明日以降に青娥の部屋にある凶器を狙う何者かがいた場合、その人物だってドアをこじ開けることが出来てしまいます。無論、〈マスターキー〉がなければドアを突破出来てもケースの中の凶器を盗むことは出来ませんが」
レミリア「そうね。一見すると確かにそう思えるわね。ところで咲夜。宿舎エリアには誰にも使われていない『〈17人目〉の部屋』があるわよね? 紫に『あの場所は好きに使って貰っても構わない』と言われたら、貴方だったらどんな風に利用する? ただし『部屋の鍵は渡されず、鍵は開け放しのまま』だとしたら?」
咲夜「はい? それでしたら私なら生活全般で使用するものを部屋や倉庫からいくつか移動しておくと思います。鍵を掛けられないのでしたら、私個人として使うよりも休憩室として皆さんと共用で使うかもしれません。あるいは――」
咲夜「――深夜に誰も使うこともない、しかも他のプレイヤーの部屋にも非常に近い場所なら、犯行中誰かに見つかりそうになった時に身を隠す避難場所としても活用出来ますね。殺害対象のプレイヤーを一時的に監禁しておくことも可能です。バスタブ、あるいはベッドの下などに」
レミリア「あら、物騒なことを考えるわね。一体誰に似たのかしら?」
咲夜「お嬢様がおっしゃりたいことはわかりました。
『ジュラルミンケースの鍵が開けられないとはいえ、青娥の部屋に自由に出入りできる状態は非常に危険』ということですよね?
ジュラルミンケースそのものは〈マスターキー〉を使うか、青娥の力を借りなければ開けることは出来ません。逆に言えばドアが開放された状態でしたら、『中身は取り出せないけど
ジュラルミンケース自体は持ち去ることは可能』ということですよね? 自らの所有しているケースとのすり替え、発見や回収が困難な場所へのケースの移動、あるいはプレイヤーの進入禁止エリアにケースだけを放り込んでしまう……。
今私が思いついたプレイヤーへの妨害行為って全部、〈17人目〉だったら本当にやりかねないことですよね?」
早苗「――あれ? そういえば青娥さんは最初の事件の後にドアの鍵を直すように申請していたみたいですけど、そもそも橙さんは『命令を受けた』って言ってたんすよね? 直したのって他でもない紫さんの命令なのでは? ゲームの運営だったら誰も何も言わなくてもドアを直してくれそうじゃないすか?」
紫「ええ。仮に捜査時間中になんらかの要因でドアが破壊されたら、私達が自発的に直すと思うわ。貴方達がゲームの外で寛いでいる間にでもね」
早苗「そうなんすか!? それでしたらあまり考えたくありませんが、今後事件が起きた際も捜査時間中に『ドアを破壊して』捜査することになっても問題ない、ってことになりません? つまり今回の事件に関して言えば、鍵を掛けておく意味ってないんじゃないですか?」
青娥「うふふ。流石ですね、早苗さん。とても頭の回転が速いですわ。ですが――『運営なら何も言わなくても備品を直してくれるはず』という考えからは、一つ重要な視点が抜け落ちています。それが何かわかりますか?」
早苗「へ? 自分が与えられた部屋なんですよね? 壊れた物とか失くした物は、プレイヤーに権利が残っている間なら運営に融通して貰えるんじゃないですか?」
青娥「はい。そのとおりですね。大抵の要求は通ると思います。例えば、そうですね。妹紅さんに聞いてみましょうか」
妹紅「なんだ?」
青娥「貴方は『自分から』ほぼ全ての部屋にあった備品を運営に返却していましたが――。仮にゲーム初日、手違いから備品がほぼなかった状態だったとします。その場合貴方はどうしましたか?」
妹紅「ん? まあ、別に必要ないから、家具を運んで貰ったりはしなかったと思う」
青娥「では、もう一つお尋ねしましょうか。備品が無いことに加えて『部屋の錠が掛けられない』状態だったとしましょう。その時貴方なら運営に何かを要求しますか?」
早苗「いや、流石にそれなら――」
妹紅「いいや? それだって運営には特に何も言わないと思うぞ? ドアのことを謝られたら――そうだな。うん、『別にそのままでいいや』って返すと思うな」
早苗「そ、そこは素直に交換して貰いましょうよ!? そんなの私が紫さんに言って無理にでも鍵を直して貰いますよ!?」
紫「ごめんね、早苗。ゲームの運営上、そういうことってちょっと出来ないのよねえ……」
早苗「『運営上』、ですか? なにかルールに引っかかりましたっけ?」
紫「『居住権』を持っている妹紅さん自身に『ドアを直さないでくれ』って頼まれたら、運営としてはそれに従うしかないのよ。本人以外のプレイヤーに頼まれてもドアは直せないのよねえ」
早苗「まあ、それは確かにわかる理屈っすけど……」
青娥「如何でしょう? その理屈でいきますと、私の部屋のドアが何者かに壊された場合でも、私自身が運営に対してたった一言だけ、『ドアは絶対に直さないでください』とお願いすれば、裁判後も直すことは出来ないわけです。それどころか――〈香水〉と〈消臭剤〉が部屋で管理出来たことは、私自身のおかげだったということ、今ならわかって貰えません?」
早苗「え、ええ?」
青娥「もし私が拘束初日に『部屋のドアを取り外してください』と運営に申請したとしましょう。なんなら妹紅さんの部屋と同じ様に、私物も家具も処分していただくのもいいですね。そんなまっさらな部屋を目の当たりにして、それでも皆さんは『私の部屋で凶器を保管する』という手段を取りますか?」
こいし「ねえねえ。紫」
紫「あら、何かしら?」
こいし「文と勇儀の部屋って、今は誰も住んでないよね? 私が言えば部屋の鍵とかって貸して貰えたりする?」
紫「いいえ。住んでいるプレイヤーがいない状態の部屋の鍵は運営が保管しているけど、鍵は貸せないわね。その二つの部屋は今現在所有しているプレイヤーがいない状態になってるわね。部屋は開けてあるから、好きに寝泊まりして貰っても構わないけど」
こいし「なるほどなー。それじゃさ、もう一つ質問があるんだけどいいかな?」
紫「どうぞ?」
こいし「『〈17人目〉の部屋』の居住権って、誰が持ってるの? 運営が管理しているだけの状態?」
紫「いいえ、居住権を持ってるのは〈17人目〉よ?」
こいし「……へー」
ルーミア「えーと、〈マスターキー〉を使った場合と、こじ開けた場合の違いは……なんだかややこしいなあ」
ルーミア「あ、ありがと……」
マミゾウ「ルーミア、難しく考える必要はないぞ? 要するに犯人は『青娥の部屋に施錠する』というたったそれだけの動作をするだけで、わしらにとっては厄介な二択を強いることが出来たんじゃよ。それをしなかったのはいったいどういう理由なのか? ということじゃ」
てゐ「……」
マミゾウ「なあ、てゐよ。仮にドアをこじ開けるしかなかった場合、今度は凶器をどの部屋に保管すればよいと思う?」
てゐ「どこ、って……」
マミゾウ「ふむ。お前さんからその答えがすぐには出てこないというだけで、犯人にとって部屋を施錠する意味は十分にあったと言える。わしだって彼女が真犯人とは考えたくないところじゃが……」
ナズーリン「そうなると最悪DDSルームで全プレイヤー交代で凶器を見張ることになるわけだが――ちょっと現実的ではない気がするな。仮に明日以降もゲームが続いたとして、会場からは更に人数が減るし、〈無意識〉を任意で解除できないこいしも見張りに参加することは難しい。多忙な咲夜に見張りを頼むのも酷だと思う。すると残りは何人になる? そもそも〈17人目〉が既に紛れ込んでいる状況で、交代制での見張りは危険だ。……てゐ、大丈夫か?」
てゐ「……」
咲夜「……あの、お嬢様。今現在青娥の部屋のジュラルミンケースの中には、何が入っているのでしょう?」
レミリア「恐らくチルノを刺殺した時に返り血を浴びた服でしょうね」
咲夜「そんな決定的な証拠品が、あのケースの中に?」
青娥「もう取りにいけませんけどね」
レミリア「あの時あんたがチャチャッと回収してくれれば良かったんだけどねえ」
青娥「頼まれてもいないことは無理ですわ」
魔理沙「――あはははは! そうだ。確かに無理だ!!」
マミゾウ「……」
25
咲夜「そ、そんな!?」
ナズーリン「なんてことだ……。ここまで進んだ議論を根本から覆すなんて、とても……」
早苗「鍵、持ってたんですか。それなら
魔理沙さんが犯人ではなかったんですね。良かった……」
魔理沙「いっやあ、なるべく黙って訊いてたが、本当に面白い推理だったなあ。マミゾウに私の失態をバラされた時は、ちょっとムカついたけど」
マミゾウ「……済まなかった」
魔理沙「別にいいさ。余計な疑いが晴れたんだし。私がチルノを殺しただって? で、
霊夢はそれでも私を疑ってるのか」
霊夢「――貴方が肩肘を張るのをよ。貴方は十分に頑張ったわよ」
魔理沙「はは。やっぱりお前も私がチルノを殺したと思ってるわけだ。それだったら、お前とはもう絶交だな」
早苗「え、え? ……そんな、冗談ですよね?」
ルーミア「だ、駄目だよそんなこと! そんなの、嫌だよ……」
てゐ「はいはい。絶交ね。子供みたいなことを言うねえ。
魔理沙。そんなこと言ってもさあ。絶交なんてしたら、次の異変はどうするつもりなのさ」
てゐ「……え?」
魔理沙「先に言っておく。ここにいる連中、もう二度と異変を起こそうとしたり、あるいは異変に加担しようとは考えないほうがいいぜ? スペルカードルールがあろうがなかろうが、
霊夢が――博麗の巫女が本気を出せば、ここにいる奴ら全員を無傷であっさり殺せるぐらいには強い。紫が直々に面倒を見ているからな」
紫「……」
魔理沙「――というわけでだ。私なんかいなくても、
霊夢が幻想郷の秩序を守ることなんて簡単なんだよ。圧倒的な暴力でな。まあ、別にお前らと縁を切ろうとは思っていない。用があったら気軽に魔法の森を訪ねて来いよな!」
ルーミア「い、嫌だよ。二人が友達じゃなくなるなんて。う、ひっぐ、うぇえええええ……」
早苗「わ、私だって御免ですよ!? 絶交なんて言わないでくださいよ! これ、単なるゲームですからね!? それがこんなことになるなんて――」
魔理沙「そうかそうか。お前はこれが単なるゲームに思えるのか。紫みたいなこと言ってんなあ。
さてはお前が〈17人目〉だな? だから私が盗んだ機密ファイルのことが心配になって、私と霊夢を尾行してたんだな」
早苗「――え!?」
魔理沙「あっはっは! 冗談だよ! 適当に言ってみただけだ」
こいし「ね、ねえ。私って、
魔理沙と友達だと思ってたけど、違うの?」
魔理沙「ん? 私はそう思ってるよ。でも、お前だって結局は
霊夢に味方するんだろ? 私と
霊夢のどちらかが死ぬとしたら、ここにいる全員が
霊夢を生かすことを選ぶよな。ほら、どうなんだ? ここで今、私のほうにつく奴なんているのか?」
こいし「え、そんなこと言わないでよ。私、
霊夢も、
魔理沙も、大切な友達だって思ってるし、その――」
魔理沙「おいおい、無理すんなって。お前が考えていることなんてわかってんだから。ほら、さっさと処刑でもなんでも――」
バンッ!!
青娥「貴方は私のような『悪党』とは違う。それなのに神聖な議論の場で友情を盾にすることは、人道に反していると思いませんか?
香霖堂を営む恩人の前で、人形の館で帰りを待つ親友の前で、妖怪の山で工学に励む盟友の前で、大図書館で知識を共有してくれる学友の前で、あるいは尊敬する師匠の前で――今話したことをそのまま口に出すことが、貴方には出来るのですか?」
青娥「なんと言って頂いても構いませんよ? 所詮私は豊聡耳様達を騙した、人間の屑に過ぎませんので。 ――お尋ねしますが、貴方は捜査時間終了直前に、どうして『あのような』証言をしたのですか?」
青娥「
魔理沙さんからすれば一見不利になるとしか思えないこの証言、これは明らかにルーミアさんに罪を擦り付ける為に口にした物ですよね? 言い争いの相手がわからなかった、というのは真っ赤な嘘です。それにこの証言は偽装現場の製作タイミングが23:30から23:45の間だと容易に特定可能な証言でもあります。魔理沙さん。貴方は交渉に応じて動いてくれたマミゾウさんすら切り捨てて、自分だけ助かろうとしましたね?」
マミゾウ「馬鹿な! そんなわけあるか!
魔理沙はそういう人間のはずは――」
青娥「では、どんな人間だと思っています? 少なくとも彼女は『強い』人間ではありません。それなら仲間を切り捨てられるはずがない。ところが彼女は『弱い』人間でもありません。だけどそれは、計画的に人を殺せる種類の強さとも違う。彼女は――『脆い』んですよ。外界で学校に通う普通の少女達と同じくらいには」
マミゾウ「――脆い?」
青娥「そうです。
だから特定の状況下に置かれた時に、彼女は霊夢さんと違って踏み止まることが出来ないんです。つまり――目の前に状況さえ揃ってしまえば、誘惑に勝てない。一線を越えてしまうんです」
マミゾウ「わしは、
霧雨魔理沙という存在を見誤っていたと?」
青娥「そうなりますね。
魔理沙さんに殺人を犯して欲しくなかったのなら、〈
リボルバー〉を受け取った時点で
霊夢さんに相談するべきでした。そこまでしなければ今回の件が無かったとしても、いずれ彼女は貴方の言う所の『義理』に従って、私をなんらかの方法で殺しに来たと思います」
妹紅「そうか。やっぱりマミゾウ一人に殺しを任せたことに罪悪感を覚えていたのか……」
マミゾウ「
魔理沙との交渉は、わしの中では
『凶器の提供を含めた殺人の依頼』として成立してたんじゃが……」
妹紅「だが――
魔理沙はそう思ってなかったんじゃないか? それに
魔理沙からすれば、
『私達が同意の上で片一方を殺したこと』なんて知る由もなかったんだからな」
青娥「それだけではなく、事件の動機には罪悪感以外にも――
霊夢さんに対する『競争心』のようなものもあったのかもしれません。殺人という行為は私や妹紅さんのような『血生臭さ』に慣れていない人間にとって、様々な感情が心に去来するものでしょうから」
妹紅「
それならなぜ、魔理沙は早苗とトラッシュルームを利用した時、凶器の部品を手放さなかったんだ? この部分は紛れもない『悪意』そのものとは違うのか?」
青娥「――私はそうは思いませんよ? チルノさんとトラッシュルームで二人きりになった時と同じです。『状況が揃ってしまったから誘惑に勝てなかった』だけなんだと思います。一人の人間の同じ体には、感情がいくつも同居します。『異変解決者でもある自分自身の手でゲームを終わらせるべきだという使命感』、『汚れ役を押し付けてしまったという罪悪感』、『複雑なトリックを成功させたという達成感』、『自らが殺人者になってしまったという絶望感』。そして、『自分を信用している人間を出し抜き、貴重な物を掠め取ることが出来たという、後ろ暗い快感』」
妹紅「――っ!」
青娥「目を逸らさないでください。いいですか?
魔理沙さんが起こした今回の一連の事件は、彼女の精神構造と全く矛盾していないんです。彼女は『psychopath』でもなんでもありません。貴方が何億回と憎悪した相手もそうだったのでしょう? 同じように物を考え、
穀物を食べて、心を打つ詩を詠むことも出来る、私達と何も変わらない存在だった。だからこそ貴方は『彼女』を『殺し切る』ことが物理的に難しいとはいえ、『追い返す』ことすら未だに叶っていない」
妹紅「……それは……今は……関係ないだろ…………」
青娥「――はい。確かに関係ありませんね。失礼しました」
魔理沙「くくく……青娥にプロファイリングされる日が来るとはな。でも私は殺しなんてやってないんだ。青娥の部屋の鍵なんて、あの時
霊夢と一緒に捨てちまったんだから」
咲夜「お嬢様?」
魔理沙「あーあ。最後の貴重な一回なのに。勿体ねえなあ」
咲夜「! 今持っている鍵は、再発行された物なんですか!?」
魔理沙「――ああ。そうだぜ? 少し前に無くしちまったから紫に頼んでな。みんなには言ってなかったか?」
レミリア「そう。
それなら魔理沙、貴方自身が紫に申請して今ここに鍵の紛失記録を取り寄せて貰いなさい。まさか貴方の部屋の鍵が事件に関係するはずがないもの。出来るわよね?」
紫「本来は捜査時間じゃないから用意出来ないけど――今回は特別よ? ちょっと待ってて」
26
紫「お待たせ。これが貴方の鍵の紛失記録よ」
早苗「ええと……昨日の朝食後に鍵の再発行が申請されているみたいですね?」
ナズーリン「
――ん!? 例の香水事件が起きた直後くらいだぞ!?」
魔理沙「ああ。
確かにその付近に私は自分の部屋の鍵を紛失した。それは間違いない。だがそれとこれとは話が別だ。鍵のすり替えなんて行ってない。
霊夢にはあの時青娥の部屋の鍵を渡した」
魔理沙「え、何をだよ? それにしても――お前ら状況がわかってんのか?」
てゐ「え?」
魔理沙「
今私が容疑者になっているが、そうなると私の証言の効力が失われるよな? するとチルノの死亡推定時刻も変わってくる。DAY06の23:30から23:45の間にチルノが殺された可能性すら出てくる。三十分もあれば、妹紅やマミゾウにだって簡単にチルノを殺せるんじゃないのか?」
妹紅「お前――いい加減にしろよ?」
魔理沙「それだけじゃないぜ。
証拠品の処分についてケースが使われた話が出たが、私が出来たことって、実際に鍵を処分した霊夢にも出来ることだよな? もう〈ダウジング〉は使えないだろうけど、霊夢が確実に鍵を処分したことを証明出来なければ私を一方的に容疑者扱いすることも出来ないぜ?」
こいし「ちょっと待ってよ
魔理沙! 何を言ってるかわかってるの!?」
咲夜「
魔理沙! さっきも言ったじゃない! チルノを正面から殺せるプレイヤーなんて――」
魔理沙「ああ。覚えてるさ。
〈氷細工〉を持つチルノを相手にすることは大半のプレイヤーには困難だ。だけどチルノは両手が塞がっていたんだろ? それなら誰だって無傷であいつを殺せてもおかしくはないぜ?」
魔理沙「あ、そんな小難しいこと考えなくても、お前らは『ルールで』私を処刑することも出来るんだっけ? 怪しきは罰しろ、だっけ? なんだったっけ、忘れちまった。だったらそうすればいいんじゃないのか?」
紫「何かしら?」
レミリア「貴方は私達に何をさせたいの? これなら普通にみんなで殺し合ったほうが、遥かに気が楽なんだけど? 運営者は他ならぬ貴方自身じゃない。それなのに――どうして貴方はそんな悲しそうな目で
魔理沙を見つめているの?」
紫「……」
霊夢「……わかったわ、
魔理沙。だったら貴方の部屋の鍵については、もう何も言わない。
ナズーリン。いいかしら?」
霊夢「
『霍青娥の部屋の鍵』。
それがどこにあるのか『探し出して』?」
魔理沙「おいおい……。お前は
今日既に三回の検索を済ませているだろ? 捜査時間中には
『事件に関係ある証拠品』で検索し、裁判中は
『〈リボルバー〉の位置』で検索し、さっき
レミリアが
『ゲーム初日に私に配られた鍵の場所』を検索するよう頼んだ。もう能力を使えないだろ? 〈絶望〉でもない限りな」
霊夢「それは後で教えるわ。
ナズーリン、改めて言うけど、『探し出して』?」
てゐ「……どうなのさ?」
てゐ「……そっか」
レミリア「――鍵がその場所にあるということは、本来有りえないわね」
早苗「え?」
魔理沙「仮に
ジュラルミンケースの中身がお前達が考えた通りの物だとするなら――ここにそれを持ってきてみろ! それを拒否して私を〈追放〉してもいいが――そんなの議論無しで私を〈追放〉するようなもんだぜ!? ほら、どうするんだ!?」
青娥「これが何かわかりますか?」
青娥「
ええ。裁判直前に自室から持ってきたんですよ。魔理沙さんと霊夢さんが〈香水〉と〈消臭剤〉を保管していた物です」
魔理沙「――で、でも〈マスターキー〉でもなければ開けられないはずだ! 勇儀がいないんだから、こじ開けることも無理だ! 〈壁抜け〉で中身を取り出そうとするなよ!? みんなの前できちんと開けなければ、そのケースの中身であることを証明出来ないぞ!」
青娥「あら、御親切にどうもありがとうございます。そういえば鍵の方は見当たりませんでしたね。では運営さん――諸事情から鍵を持っていないのですが、今すぐ再発行して頂いても構いませんか? 私の部屋の鍵なのですから、今からでも申請可能ですよね?」
紫「――ちょっと待っててね」
魔理沙「おい。やめてくれ。頼む。私は裁判に勝ちたいんだよ。みんなを助けるには――」
青娥「違う。今の貴方の心の大半を占めているのは、そんな殊勝な気持ちではないでしょう? 貴方は勇儀さんが受けたような処刑を、自分も受けることが恐ろしい――それだけです」
紫「はい――これが鍵よ」
青娥「ありがとうございます。では皆さん、開けてみましょうか」
ガチャ…
ルーミア「
空っぽの〈
香水〉の瓶と、中身が残っている〈消臭剤〉の瓶。それと――ゴミ袋?」
咲夜「折り紙や紐が少し湿ってますね。この中に氷像を削ることで出た欠片も捨てたのでしょうか?」
霊夢「――紫。投票に移りましょう。
魔理沙もそれで構わないわね?」
紫「ええ。そうしましょうか。それでは議論を終了し、犯人二人の指名を――」
妹紅「……」
ガシッ
妹紅「おい。巫山戯るなよ。お前がチルノを殺したのかよ? 幻想郷の外に出たことも無ぇ、●●●だって知らねえ、ケツの青い親不孝者のクソガキが!!」
マミゾウ「妹紅! やめんか!」
妹紅「なんだその顔は!! 被害者面すんじゃねえよ!
弾幕ごっこみてえな妖怪に手加減して貰えるお遊戯が、ほんの少しうまいくらいでいい気になりやがって!! お前は地底でも山でも行って、高位の妖怪の首一つでも取ってこられるのかよ!? あぁ!? 私みたいなババアを殺すならともかく――なんでチルノなんだ!!! 私だって化物だろうが人間だろうが相当ぶっ殺して来てるが、まだ化物になる以前の、あの時の最初の殺人は千年経ったところで――」
妹紅「――クソ!」
霊夢「熱も出てる!?
魔理沙! 大丈夫!? しっかりしなさい! まずは横にしないと! それから――」
てゐ「――そんなに騒がなくても大丈夫だよ。緊張の糸が切れたんだろうねえ。はいはい、ちょっと診せてね。うん、熱発してる。三点クーリングしよう。裁判場の隅に移動させて、少し寝かせてあげれば大丈夫。紫。氷枕と冷湿布を用意して。解熱剤も。今ルールがどうとか言ったら、ゲームが終わった後でぶっ殺すよ?」
紫「怖いわねえ。そんな顔しなくても、用意してあげるわよ」
てゐ「みんなも今のうちにもう一度休んでおくといいよ。裁判で疲弊してるでしょ?」
てゐ「『お願い』? 『探し出して』じゃなくって?」
てゐ「
ナズーリンに許可を求められた場合の『言い回し』と――後は、そうだなあ。『瞬きによる検索件数の指定』って所?」
ナズーリン「私が提案したんだがな。あまり複雑すぎるのもよくないと思って、そんな感じの暗号で意思疎通していた」
てゐ「いくらなんでも簡単すぎ。あんな暗号、ぜんっぜん駄目だよ。下手すると
魔理沙に気付かれてたよ?」
咲夜「お嬢様、これは――」
27
【宿舎エリア・
魔理沙の部屋】DAY06 23:45
魔理沙「あー、遊んだ遊んだ。とりあえず早苗と仲直り出来て良かったなあ……」
魔理沙(……たまには喧嘩することもあるか。子供同士だもんな)
魔理沙「――いや、駄目だ駄目だ! マミゾウが妹紅を殺すのに動いてるんだもんな」
【宿舎エリア・倉庫】DAY06 23:47
コン コン
チルノ「……? 誰?」
ガチャ
魔理沙「あれ、チルノだけか。 ――泣いてたのか?」
魔理沙「そうかそうか。まあ喧嘩する程仲が悪いって言うだろ。そう気にすんな」
チルノ「……やっぱりそうなのかなあ」
チルノ「
魔理沙……わたし……
ルーミアちゃんにひどいこと言っちゃったよ…………ひっぐ……いつも湖でやってるような喧嘩じゃなくて……もう……絶交しちゃうかも知れない……でも……
ルーミアちゃんだってひどいこと私に……」
チルノ「……なに?」
魔理沙「昨日私は、
この会場で最も信頼しているプレイヤー二人と意見の相違があったんだ。片方とは険悪な状態になっちまったし、もう片方とは覚悟を決めてから相当やばい交渉を持ち掛けたんだけど――あっさり断られちまった」
チルノ「……交渉?」
魔理沙「ああ。会場にいるみんなの為に行ったことだ。だけど恐らくあいつからは――ゲーム中に二度と信用されなくなっただろうな」
魔理沙「ああ。厳密には喧嘩ともまた違うんだが――概ねそんな感じだ。私の言いたいことはな。お前と
ルーミアに何があったのかはわからないが、明日には仲直り出来るってことだ。現に私だって片方とは、一応元の関係を取り戻せたぞ?」
チルノ「――明日の内に? 仲直り? 本当?」
魔理沙「ああ。お前達なら大丈夫だ。もし
ルーミアと話し辛いなら、仲を取り持ってやってもいいぜ? とにかく、マジでさっさと和解しておけよな。
いずれ必ず、生き残っている全員で力を合わせないといけない状況が来る。私はそう考えている。その時私は居ないかもしれないがな」
チルノ「……ううん。なんでもない。話を訊いてくれてありがとね。――実は
魔理沙に付き合ってほしい所があるんだ。
飾り付けで出たゴミを処理したいから、一緒にトラッシュルームまで来て貰っていい?」
魔理沙「ん? ああ、構わないぜ。――って、おいいいいぃ!? この飾り付け、お前がやったのか!?」
チルノ「お、おかしいかな?」
魔理沙「正直言ってかなり個性的だが、なかなかその――クールなんじゃないか? 氷精だけに」
チルノ「あはは。ありがとう。……ちょっと用意するから待ってて」
【宿舎エリア・トラッシュルーム】DAY06 23:50
チルノ「任せて! とりあえずあたいのメダル、一枚残しで全部預かってて貰える?」
魔理沙「任せとけ。――あれ? ずいぶんメダルが少ないな。結構散財したのか?」
チルノ「うん。飾り付けに使ったからね」
魔理沙「そうだったのか。おい、間違ってもてゐからメダルを借りるなよ? 後でぼったくられるぞ」
チルノ「あはは。実は借りたことあるんだよね。うん、わかった。今度からそうする。ええとメダルを入れて――」
チャリン……
ガララララ……
チルノ「うん、行ってきます!」
チルノ「ええと、真ん中が焼却炉で、ゴミ箱は確か――」
魔理沙「……ん、おいチルノ?
部屋の中央に落ちてるのなんだ?」
チルノ「……え? ええ、と!?
魔理沙! 見て!」
魔理沙「
なんだこれ……極上の凶器の――〈ナイフ〉?」
チルノ「これ、誰かの血が付いてない?」
魔理沙「! 本当だ! 何があったんだ!? ――隣にあるのは、厨房とかにあるキッチンナイフか?」
チルノ「こっちは全然血が付いてないね? それならどうして――」
チルノ「え!?」
魔理沙「私達のいるこの場所――恐らく殺人事件の現場だ! どこかに死体があるはずだ!!」
チルノ「え、死体って、どこに? 誰が殺されたの?」
魔理沙「それはまだわからない。
だけどアナウンスが流れない以上、まだ誰にも見つかってないはずだ。だったら〈ナイフ〉に一切触らずに、現場を保存しないと駄目だ!」
魔理沙(いったいどうなってる!?
ここでマミゾウが妹紅を殺したのか? ――だけど有り得ない! マミゾウは〈リボルバー〉を持っているはずなのに、なんで〈ナイフ〉まで落ちてるんだ!? あいつはもうDDSルームは使えないはずだろ!?)
チルノ「で、でも――」
魔理沙「まずはトラッシュルームを奥まで調べるぞ。チルノは先に入り口まで――」
ガララララ……
ガシャン!
魔理沙「――クソッ! やっぱり駄目か!
確かメダルを使ったプレイヤーしか最奥には行けないんだよな。よし、チルノ。お前が捜査しろ。私が入り口のほうから指示を出す」
チルノ「う、うん!」
ガララララ……
ガシャン!
チルノ「え!? 一番手前のシャッターも下りるんだっけ!?」
魔理沙「ああ。そういう仕組みなんだよな、この部屋。だけど問題ない。
チルノ、トラッシュルームの奥に進んでみてくれ!」
ガララララ……
チルノ「あ、今度は開いたね。じゃあ、進むよ?」
ガララララ……
ガシャン!
チルノ「え!?」
魔理沙「大丈夫だ。
最奥のシャッターが下りただけだ。チルノ、声はそっちに届いてるな!?」
チルノ「届いてるよ! 室内でかなり反響してるし!」
魔理沙「そうか。
それならまずは焼却炉のボタンを見てくれ。赤い色の『燃焼ボタン』と、緑色の『キャンセルボタン』だ。どちらかを押さないとお前はこちら側に戻って来られない」
チルノ「うん! 確かにあるね」
魔理沙「
適当な物――例えばチルノが今持っている、ゴミの入った袋でも入れて“燃焼ボタン”を押せば、シャッターが開き、こちら側に戻って来られる。だけどそれだけは絶対にやめろ。なんでかわかるか?」
チルノ「ええと――」
魔理沙「
ここが本当に事件現場なら、焼却炉の中に何らかの証拠品が残ってる可能性が高いからだ。それなのに今焼却炉を使うのは、非常にまずい。一緒に証拠が燃えちまうからな。これから霊夢達と共に現場を捜索することになるから、下手すると私達は、証拠品を処分しようとした容疑者になる」
チルノ「ええ!? それはやだなあ……」
魔理沙「大丈夫だ。私はともかくお前はみんなに信用されているから、それなら互いのアリバイを証明出来る」
チルノ「それなら、
左奥にある方のゴミ箱は?
レミリアちゃんがゴミ捨てに使ってるのを見たことがあるんだけど……」
魔理沙「日常で出たゴミを捨てる方だな。知ってるよ。
ゴミ捨てをする時にメダルを預かって貰うにしても、焼却炉を利用すればゴミの処理をするたびに一枚のメダルを消費しちまうからな。咲夜とレミリアは調理や清掃で出たゴミを処理する際に、いつも左奥のゴミ箱にゴミを捨てて、それからキャンセルボタンで外に出ている。そうすればメダルも節約出来るしな」
チルノ「じゃあこっちに――」
魔理沙「だけど、
そっちにゴミを捨ててくるのもやめろ。ゴミ箱を開けて中を確認しなくてもいい。凶器の中には〈リモコン爆弾〉や〈ピアノ線〉もあるから、なんらかのトラップが仕掛けられている危険性もある。それは二人以上で、シャッターのすり抜けが可能なプレイヤーが一緒に行うことだ。トラッシュルームを出たら、お前は入り口で見張っていてくれ。私が
霊夢を呼んでくる」
チルノ「うん。ゴミ箱も確認しなくていいんだね? だったら今から私はどうすればいい?」
魔理沙「
ゴミ箱と焼却炉の前に、何か見つからないか?」
チルノ「――ゴミ箱の前辺りに、血溜まりがある!」
魔理沙「そうか!
血の量はどうだ!? 気分が悪くなったら離れていいぞ!?」
チルノ「ありがとう! でも大丈夫だよ! ええと……。間違いなく、誰か一人死なないとこの量の血は流れないと思う……」
魔理沙「そうか――一応聞くが、
私くらいの体格の人間なら助かってそうな血の量なのか!?」
チルノ「正直、誰も助からないんじゃないかな……」
魔理沙「よし! もう十分だ!
チルノ、焼却炉付近を調べ終わったら、ゴミ袋を持ったまま、キャンセルボタンを押して戻ってこい!」
チルノ(そういえば……)
チルノ(
ルーミアちゃんは藍を殺そうとしていたみたいけど、武器も無いのに殺しには行かないよね?)
チルノ(
紫にスキマで案内して貰った霊安室。氷の保管が可能な気温や湿度が保たれている場所。
後で一度だけみんなに氷像を見せたかったから直接氷像を運んだんだっけ)
チルノ(
霊安室の保管庫の一つに――龍の氷像は保管されている。〈水晶玉〉も一緒に。自分で肌見放さず持っていても、もし取っ組み合いになったらルーミアちゃんに奪われちゃうし)
チルノ(――もう、保管は無理かな。完成した氷像をみんなに見せたかったけど、氷像も〈水晶玉〉も処分しないと)
チルノ(
そういえばルーミアちゃん、私が〈水晶玉〉と氷像を隠して、倉庫で喧嘩してから――どこに行ったんだろ? 部屋に戻ったのかな?)
チルノ(
もし霊安室の存在に気付いて、氷像と〈水晶玉〉を保管庫の一つから探し当てていたとしたら?)
チルノ(
――よし、氷像が無事ならルーミアちゃんの無実を証明できるし、氷像と〈水晶玉〉を持ってこよう! 魔理沙が一緒に居るなら大丈夫だ!)
魔理沙「おーい! どうした立ち止まって! 早く戻ってこい!」
チルノ「
……ごめん、魔理沙! すぐに戻ってくるから、そのままそこにいて!」
チルノ「紫! 今すぐ来て!」
紫「はいはーい。……ふわぁ、寝不足になりそうねえ」
紫「ええ。いいわよ」
魔理沙(あれ?
トラッシュルームの端末が、使えるようになってる?)
魔理沙(そうか。
チルノが部屋からいなくなったから、メダル使用前の状態に戻ったんだな)
魔理沙(あはは。
このままメダルを入れて奥まで進んだら、戻ってきたチルノを驚かせることが出来るな)
ドクン……
ドクン……ドクン……
魔理沙(
部屋には何者かが残していった凶器がある。誰かが私より先になんらかの事件を起こし、それが今もまだ進行中なのは間違いない。これならもしかして――)
ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……
魔理沙(
――もうひとつの事件に乗じて、完全犯罪が可能か? この状況でチルノを殺せば、密室を作ることも可能か?)
ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……
魔理沙(
冷静に考えてみると――この状況全部をマミゾウが作り出した可能性もあるのか? だけど仮にマミゾウが残した物だとしても――私さえ勝ち抜ければ、みんなを救えるよな?)
ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……ドクン……
チャリン……
ガララララ……
ガシャン!
魔理沙(………………………………………………これなら、
霊夢に勝てる)
チルノ「――よいしょ、っと」
チルノ「ごめん! お待たせ! って、わっ!?
魔理沙じゃん! びっくりした~。どうやってここまで来たの!? びっくりするじゃん。危うく氷像を落とすところだったよ」
魔理沙「……ああ。驚かせてやろうと思ってな。もう用事は済んだか?」
チルノ「――うん! 紫。夜遅くにありがとうね」
紫(…………!!! この状況は――まさか!!?)
魔理沙「私からもお礼を言うよ。ありがとう、紫。――なあ、チルノ。この氷像、そこそこ重いな」
チルノ「だよねー。氷で出来ていても、その重さだと――え? え? あれ、どうして、
魔理沙の手に」
ガシャン!
チルノ「な、なんで――」
ザクッ…
チルノ「……あ」
ザクッ… ザクッ… ザクッ… ザクッ…
チルノ「……あ、まって、まり、さ……」
ザクッ… ザクッ… ザクッ… ザクッ… ザクッ… ザクッ… ザクッ… ザクッ… ザクッ… ザクッ… ザクッ… ザクッ…
チルノ「かはっ……ぐぅ……はあ……うあ…………」
紫「……」
紫「――そう。ごめんなさい」
魔理沙「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
魔理沙「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
魔理沙「ごめん!!! チルノ!!! ごめんなあああああああああああ!!! 許してくれえええええええ!!!!!」
チルノ「……ま……まりさ……あの…………」
魔理沙「そんな眼で見ないでくれ……わたしは……わたしは……」
チルノ(ゲームに勝って……みんなを助けたかったんだよね……?
ルーミアちゃんと同じだね……。だったら……そんな辛そうな顔しないで……って言おうとしても………もう…声が……出ない……)
カチッ カチッ カチッ
魔理沙「
あれ!? ボタンが反応しない! チルノがまだ生きているからか!? でも服に返り血が……処分……しないと」
魔理沙(
クソ! チルノが一度スキマで消えてから、端末を再起動したのは私だ! 二人同時に近づかないと、シャッターが上がらないんだ……)
魔理沙「…………それなら、とどめを刺さないと……」
チルノ「……」
魔理沙「む、無理だよ……そんなの……私には…………」
魔理沙「
ええと、服をここで燃やさないと――いや駄目だ、今更メダルを調達するなんて……無理だ……じゃあ、どこに捨てれば」
魔理沙「
そ、そうだ。焼却炉! マミゾウが残した物が何か一つは――」
魔理沙「あ、あった!
これを焼却炉の下に置いて……」
魔理沙「
チルノが持ってた氷の塊みたいなのは――私が落としてバラバラにしたから、回収は無理か……」
魔理沙「
急がないとレミリアか咲夜がゴミを捨てに、ここに来る。ああ……何からどうすればいいんだよ」
チルノ(
魔理沙……なんだか凄く可哀想……大丈夫だよ……私は……
魔理沙を告発しない……
魔理沙さえ勝ち上がればそれで……みんなを……)
チルノ(……あ)
チルノ(……それじゃ……駄目なのかな……?)
チルノ(
魔理沙の持ってる〈ナイフ〉……最初から血塗れだったってことは……誰かが既に使った後……だよね? ……さっきもそう話したし……)
チルノ(
もし……物凄く悪いやつがゲームで勝ち抜ければ…………魔理沙が……文姉ちゃんや勇儀姉ちゃんや私を生き返らせたところで……みんな殺される…………?)
チルノ(それ、なら……誰かに……私を殺したのが誰かを伝えないと……)
チルノ(でも……誰に……? ……どうやって?)
チルノ(……そうだ!)
チルノ(
魔理沙……ごめん…………
妹紅………………後は頼んだよ…………)
ガシャン
チルノ「……」
魔理沙「……おい、チルノ? お、おい……チルノ……ああ……もう……死んでるのか……私が……あああああああああああああああああああああああ!!」
魔理沙「
……最後の力を振り絞って〈水晶玉〉を割ったのか? 私に証拠品を隠蔽されないようにする為? それだけか?」
魔理沙「
――『隠蔽』? そうだ。チルノは他にも何か残しているかも知れない。確認しないと、駄目だよな? まず部屋の鍵を死体から――」
チルノ「……」
魔理沙(
い、いや……無理だ! 死体を調べるなんて私には!)
魔理沙(
……せめて飾り付けの入ったゴミだけでも回収していくか。急いでここを離れないと!)
魔理沙(――そうだ! メダルは!? ええと、チルノがまず一枚のメダルを使ってトラッシュルームを利用して、それからスキマで移動したから、その分は消費されたんだよな? それで、次は私がメダルを全投入して、ここに入った。だから『燃焼ボタン』か『キャンセルボタン』、このどちらかを押さないと私は出られない)
魔理沙(
焼却炉を使えば着ている服やゴミ袋を全て処分できる。だが、メダル0枚では絶対にみんなに疑われる!)
魔理沙(
よし――とりあえず『キャンセルボタン』でトラッシュルームを出よう。
殺しに使った〈ナイフ〉は――そのまま中央に戻しておくか)
【宿舎エリア・
魔理沙の部屋(シャワー室)】DAY07 00:00
ザーーーーーーー
魔理沙(――
こうやって血をしっかり洗い流しておかないと、後でルーミアに臭いで気付かれる)
魔理沙(
アリバイ作りは無理だが――証拠品の隠し場所には心当たりがある)
魔理沙(これから行う計画――
落ち着いてやれば、10分から20分あればなんとかなる)
【宿舎エリア・
魔理沙の部屋】DAY07 00:05
ジャラ…
紫「それは巾着袋ね。メダルが入ってるみたいだけど」
魔理沙「
そうだ。このメダルを全て新品に替えろ! チルノから預かったメダルが証拠品に引っかかる! 所有権は私に移ってるから交換可能なはずだ!」
ジャラ…
紫「はい、袋の中のメダル、全部新品に交換したわよ? それでそのメダルは検索には引っ掛からないわ」
紫(気付かなかったら気付かなかったで、証拠品の判定なんて消すつもりだったけど。裁判がつまらなくなっちゃうし)
ピンポンパンポーン
『死体が発見されました! 一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!』
魔理沙「――クソ! 早すぎる! もう死体が見つかったのかよ!」
紫(あーあ。妹紅さん。三人に見られちゃったのね)
魔理沙「
チルノがスキマで向かった場所を調べる余裕は無いか。だったら次は――」
【宿舎エリア・青娥の部屋】DAY07 00:08
魔理沙「紫、このゴミ袋に入っている物を確認してくれ」
紫「あら? 返り血を浴びた服と、チルノさんが飾り付けで出したゴミね」
魔理沙「
なあ、このゴミ袋一つで、証拠品の判定は一つにならないか?」
紫「うーん……」
魔理沙「頼むよ! これが成立しなければ、私は証拠品を隠せないからおしまいだ! 急いでくれ! もう時間がない!」
紫「うーん。そのゴミ袋はチルノさん自身が用意した、言うなら事件とは無関係のゴミね。大目に見て、血のついた服は全てワンセットで証拠品として判定するわ」
紫「だけど――その鍵はきちんと証拠品として判定するわよ?」
魔理沙「部屋の鍵か。それなら問題ない。
こうやってサイドボードの引き出しを外して――床の上に」
紫「へえ。そんな所に。それなら大丈夫そうね」
魔理沙「――もう、みんな部屋から出てきてるはずだよな。慎重に戻らないとな」
紫「それはいいけど――部屋の施錠はどうするのよ?」
魔理沙「そんなのどうでもいいだろ! 他の証拠品を見られるよりはマシだ!」
【宿舎エリア・
魔理沙の部屋】DAY07 00:10
魔理沙(恐らく問題ない。私はほとんど証拠品を残していないからな)
魔理沙(
あの〈ナイフ〉は一体なんだったんだ? マミゾウは〈リボルバー〉を使わなかったのか? 昨日の今日だし、動くとしたらマミゾウしか考えられないが……)
魔理沙(クソ……
捜査や裁判の様子を見ながら証言するしかないか)
【宿舎エリア・廊下】DAY07 00:12
霊夢「よく聞いて。さっき、トラッシュルームで――」
28
②チルノを殺したと思われる人物は誰か?
結果
〈クロ〉二名の特定に成功。
『超高校級の泥棒』霧雨魔理沙→処刑。後に〈追放〉。
『超高校級の不死者』藤原妹紅→裁判終了後に〈追放〉。
生き残った他のプレイヤーはゲームを続行。
29
【???】DAY07 11:00
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「…………………………あー……」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………」
早苗「……………………ここ、どこだっけ?」
早苗「……………………………………………………………………あ、私の家か」
30
【宿舎エリア・
魔理沙の部屋】DAY00 16:31
トントン
早苗「まーりささん! あーそびましょ!」
ガチャ
早苗「じゃじゃーん! 遊びに来ましたー」
早苗「テンションひっく! どうしたんですか? そんな辛気臭い顔して」
早苗「それはそうですけど――」
魔理沙「もしかしたらと思ったんだけど――部屋のどこにもマジックアイテムが無い。紫の奴、ミニ
八卦炉まで取り上げやがったぞ」
早苗「私の御幣は取られてなかったんですけど、神力がごっそり抜けちゃってる感じで……」
魔理沙「それなら、
霊夢も同じ感じだな。参ったなあ。この『事件』。どう考えても『異変』として処理するタイプの物じゃないよなあ。首謀者は紫だし」
早苗「『事件』? 『異変』? 流石にそれは言い過ぎでは?」
魔理沙「馬鹿言うなって。人が死ぬ危険性があるんだぞ? 早苗は紫から何か訊いてるか?」
早苗「いいえ、全く。紫さん、何を考えてこんなゲームを始めたんですかね」
早苗「そういえば、
魔理沙さんって何の能力を割り当てられたんすか?」
早苗「泥棒? どんな能力ですか?」
早苗「ええと、メダルとか、ルールブックとか――」
ジャラ……
早苗「え!? あれ、いつの間に!?」
早苗「すっご! 手品みたいっすね」
魔理沙「いや、自分でも驚いてるよ。こんな簡単に盗めるなんて。――早苗の能力は?」
早苗「――私のメダルを、床にチャラチャラって落としてみてくれません?」
チャリン…… チャリン……
早苗「7枚」
早苗「『7枚のメダルで表が出ますように』って念じたんですけど、合ってます?」
魔理沙「――本当だ! 確かに7枚ぴったり表だ! お前こんなこと出来たのかよ!」
早苗「まあ、ゲームで割り当てられた能力ですけどね」
魔理沙「あー。びっくりだ。他のプレイヤーの能力にも少し興味が湧いてきた」
早苗「ほら! どうせなら会場を探検しましょうよ! ほら、行くっすよ!」
【娯楽エリア・娯楽室】DAY00 22:07
早苗「イエーイ! 私の勝ちー!」
魔理沙「そもそも全然ゼロに届かないぜ。削りきれる気がしない」
早苗「ルールを変えます?」
魔理沙「いーや、もう少しこれでやる。それにしても意外と難しいな。早苗、よくこんなの当たるなあ」
早苗「要は慣れっすよ。慣れ。幻想郷に来る前は、ネカフェに置いてあったからよく遊んでたんすよ」
早苗「あ、謝らないでくださいよ! なんだかめっちゃ惨めじゃないっすか!」
魔理沙「え? 『正直ちょっと笑いそうだった』って続けるつもりだったんだが?」
早苗「……
魔理沙さん。こっちはクッソ強い凶器持ってるの、忘れないでくださいね?」
早苗「な、なんすか?」
早苗「次の先行はどちらにします?
ミニゲームとかやってみますか?」
魔理沙「それなら次は私が先攻で。もう一回501で――」
ガチャ
勇儀「ん? この部屋って何だ? 賭場でも開いてるのか?」
早苗「あ、勇儀さん!」
勇儀「おう! お前ら一緒か!」
早苗「勇儀さんは一人っすか?」
勇儀「ああ。ちょっと散歩をしてただけだ」
勇儀「だっはっは! だけどここってあんまり強い酒無いんだよなあ。味はそこそこ良いんだけどよ」
魔理沙「酒ばっかり飲んでると、メダル足りなくないか?」
勇儀「ははは! からっけつだな! 宵越しの金なんて持たないタチなもんで! ――ところで何やってたんだ?」
早苗「ええと、的当てっすね。二人で交互に投げて点数を――」
勇儀「つまり、勝負事だな? どうだ! 二人の残りのメダル全部賭けて、私と一戦交えないか? 私が負けたら、そうだなあ。明日の朝に配られるメダル全部やるよ!」
早苗「勇儀さんとですか!? 絶対やばいですって!」
魔理沙「大丈夫だって! ――いいか、早苗。カウントアップ形式で勝負するんだよ。ハンデとして点数を二人の合計点にして貰えばいい。早苗も素人のふりをするんだ」
早苗「勇儀さん既に酔っ払ってますし、それならまあ――」
勇儀「おーい。さっさとやろうぜ。なんなら二人掛かりだって構わないぜ」
魔理沙「う、嘘だろ? このルールでなんで負けんだよ……」
勇儀「わはははは! 私の勝ちだな!」
早苗「スコア1392点……で、出鱈目過ぎる……」
勇儀「なっさけねえなあ。二人で1200点くらいは取れるだろ?」
早苗「む、無理ですってそんなん!」
勇儀「そんじゃ、メダルは貰ってくぜ~。まだBARってやってんのかなあ」
早苗「あれ? そういえば今全然酔ってないような――」
勇儀「さーてな」
勇儀「そういうこった。じゃあな――あ、そうだ」
勇儀「一緒に遊んでくれた上に、メダルまでくれたんだ。ちょっと情報でも置いて帰るか。――さっき、新聞屋の部屋に、青髪の姉ちゃんが入るのを見た」
早苗「青娥さんが、射命丸さんの部屋に?」
勇儀「わからん。だが二人の動向には注意しろ。この二人はゲームに積極的に参加するタイプだからな」
早苗「二人のどちらかが――殺人を起こす?」
勇儀「どうだかな。ま、お前らなら大丈夫さ。じゃあな」
ガチャ
早苗「行動? とりあえず明日からにしませんか」
【娯楽エリア・スーパーマーケット】DAY01 19:13
魔理沙「当たり前だろ。というか――
ゲームそのものを無力化するには、これしかないだろ」
早苗「うまくいくといいんすけどね」
魔理沙「大丈夫だって。青娥や文が積極的に動いている所で、結局はまだ日にちが経ってないんだから。つまり――どのプレイヤーもまだゲームに慣れてないんだよ。ほら、時間潰ししなくちゃいけないんだから、面白そうな
ボドゲ選ぼうぜ」
早苗「あ、夜食も必要じゃないっすか?」
魔理沙「だな。一緒に買ってくか。だけど――あんまり贅沢出来そうにないなあ」
早苗「ですねえ。深夜に二人でメダルを14枚も消費することになりますからねえ」
【宿舎エリア・廊下】DAY02 02:05
早苗「……」
早苗「最後に確認しますよ? 私達、この計画に何も『見落とし』なんてありませんよね?」
魔理沙「
――どういうことだ? 〈マスターキー〉だって先に青娥と交換しておいたぜ? それに、ほら。これだってついでに青娥から貰えた」
早苗「それは?」