超幻想郷級のダンガンロンパ・二章考察(前編)
- はじめに
- 三部作構成への再編集について(2022/03/30更新)
- 本考察の表現や記号の使い方について
- 画像が読み込まれない場合について
- 本考察の『推敲』のスタンスについて
- 各種リンク
- タイムテーブル
- メモ(第一の事件関連)
- 01
- 02
- 03
- 04
- 05
- 06
はじめに
現在ニコニコ動画内には『東方Project(上海アリス幻樂団)』と『ダンガンロンパシリーズ(スパイク・チュンソフト)』の二次創作作品に当たる、NOH氏制作の『超幻想郷級のダンガンロンパ』(以下、東方ロンパ)という作品が存在します。
本作は、東方ロンパの『第二章』に対する考察をSS形式で行う、所謂東方Projectの三次創作となるSS作品となっております。
未視聴の方は必ず、NOH氏がニコニコ動画に投稿されている東方ロンパを最後まで視聴済みの上で読み進めてください。
あるいはNOH氏により配布予定がある、PCゲーム版の東方ロンパを第二章裁判前までプレイ後に本考察を読み進めてください。
まだ未視聴の方はネタバレ回避のために、ブラウザバックをおすすめします。
なお、本考察は既に判明している一章の真犯人、まだ本編で未判明である二章の真犯人、及び〈17人目〉の正体について言及しています。
本考察には本動画内から切り抜かれた画像等が含まれていますが、東方ロンパという作品の都合上、流血等ショッキングな画像が一部含まれていますので、鑑賞の際はご注意ください。
本考察が二章で起きた事件を読み解く上での、皆さんの参考になれば幸いです。
三部作構成への再編集について(2022/03/30更新)
・本考察を読んで感想をくださり、本当にありがとうございます。本考察はあくまで『考察』であり、推理の為に自らでも自分の作品を何度も読み返し推敲を繰り返しています。その際に文章や画像を大きく追加することもありますが、その度に1ページ当たりのデータ量が多くなり、ページの表示速度に影響が出てきてしまいます。ですので大変勝手ながら、本考察を三部作として再編集させて頂きました(SSの物語構成そのものは変えておりません)。ご了承ください。
本考察の表現や記号の使い方について
・日付や時刻について……文章として違和感を覚えることもあると思いますが、例を挙げると『二日目』を『DAY02』等と表現しています。東方ロンパ中には『ゲーム初日』(ゲームの0日目に当たる日)が存在します。文章とタイムテーブル等を比較した際に理解をスムーズに行うためです。
・特定の語句、極上の凶器、超高校級の才能……言葉に〈〉を付けています(〈17人目〉、〈リボルバー〉、〈盗み〉)。
・区切ったほうが適切だと思われる言葉。台詞内台詞等……言葉に『』を付けています
・その他の強調したい言葉……太字で文章を強調しています。
画像が読み込まれない場合について
文章量と画像添付数の関係で一部の画像が開けない時があります。その場合はブラウザを再読み込みしてください。
本考察の『推敲』のスタンスについて
本編第一章から第二章にかけての情報量は膨大であり、当ブログにアップロードした文章についても何度も追記・修正を繰り返しています。
読みにくい漢字の平仮名表記への変更、セリフの流れが矛盾している箇所の変更、本編画像や表の追加、わかりづらかった部分への追加解説などはこれからも続けていきます。
ただし、『真犯人の正体』など特に重要な情報については、第零稿から変更を加えていませんし、これからも変更する予定はありません。
各種リンク
超幻想郷級のダンガンロンパ(NOH氏による公開マイリスト)
超幻想郷級のダンガンロンパとは (チョウゲンソウキョウキュウノダンガンロンパとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
超幻想郷級のダンガンロンパ(超高校級の才能一覧)
https://seiga.nicovideo.jp/clip/1011831
超幻想郷級のダンガンロンパ(ゲームルール一覧)
https://seiga.nicovideo.jp/clip/1293062
超幻想郷級のダンガンロンパ(極上の凶器一覧)
タイムテーブル
メモ(第一の事件関連)
01
【裁判所】DAY07 1:30
紫「どうしました? まだ10分くらいしか話し合っていませんよ? それなのに口が止まっているようですが」
早苗「そうは言われましても……。今回の事件、どうにも証拠品がゴチャゴチャしてて何が何だか。結局〈リボルバー〉も見つかりませんでしたし」
咲夜「一度DAY04まで遡ってみましょうか? まず裁判後に私達は紫から休息日を与えられました。その次の日の早朝すぐに発覚したのは――」
レミリア「何者かの手によって、14体の人形が食堂に仕掛けられていたことね。その後にマミゾウが全員の前で謝罪したり、DDSルーム前の見張りが提案されたり。その一方で、ルーミアは〈絶望〉の情報を聞き出すために、霍青娥を朝から長時間拷問に掛けた」
ルーミア「う……。青娥、あの時はごめんね」
青娥「いえいえ、私は全然気にしていませんよ。ルーミアさんが皆さんのためを思って実行したことなのですから」
マミゾウ「DAY05に仕掛けられた人形の意味も謎じゃが、その次の日に起きた出来事も相当不可解じゃな」
妹紅「例の毒殺未遂事件だな。貯水槽前で見つかった〈香水〉と〈消臭剤〉は青娥の部屋で保管することになった。その時に魔理沙が運営の橙からビデオテープを盗み出していて、その中身を少しだけ確認したんだっけ?」
魔理沙「ああ。ビデオテープと、黒く塗り潰された書類だ。それに加えて霊夢は写真も拾っていた。全部紫に没収されたけどな」
ナズーリン「みんなはBARや娯楽室等で思い思いの時間を過ごしていた。しかし今日の0:10頃には――」
レミリア「――死体発見アナウンスが流れ、捜索の末にチルノの遺体が発見された。その直後には私がトラッシュルームの外で見張っていたのにも関わらず、妹紅がトラッシュルーム内の、バックヤード入り口付近で銃殺されていた」
咲夜「捜査開始が0:15頃。そこから1時間の捜査時間が与えられました。私とお嬢様は死亡推定時刻のDAY06、23:30から24:00に能力を使っていないことを証明するために、今日の0:30になる前には霊夢達の前で能力を発動しました」
青娥「私が急にお願いしてしまったんですよね。疑ってしまってすみません」
レミリア「別にいいわよ。私としては、出来れば能力発動にインターバルが設けられているプレイヤー全員から確認が取りたかったところね」
マミゾウ「……」
レミリア「マミゾウ、貴方のことを言ったんじゃないのよ?」
マミゾウ「いや、わし以外に誰がいるんじゃ。だが確かにレミリアの言う通り、死亡推定時刻から一時間以上経過してしまえば、能力の未発動は証明不可能じゃ。わしやルーミアの〈幻惑〉と〈暗闇〉に関しては、使われていないことを信じて貰う他ないのう」
魔理沙「〈幻惑〉はともかく、〈暗闇〉は使われてないんじゃないか? ほとんどのプレイヤーがまだ起きてた時間だし、〈暗闇〉が発動していたら誰かが気付くだろ」
ナズーリン「――よし、一度付近の時間の流れを確認しよう。チルノの死亡推定時刻がDAY06の23:30~24:00。更に魔理沙の証言により、23:45分まではチルノが倉庫内で生きていたことが判明している。霊夢が修理したビデオカメラに記録されていた時間は0:00で、そこには生前の妹紅が映っていた。死体発見アナウンスが0:05であり、実際に死体が発見されたのは0:10。捜査開始が0:15で、捜査終了が1:15。二度目の裁判が始まり、今現在の時刻が1:30を少し上回った所。こんな物か?」
てゐ「今回も深夜からの裁判開始になっちゃったねえ。あたしほとんど寝られなかったよ。犯人は、私達の頭が回らなくなる時間でも狙ったのかねえ」
てゐ「どういうこと?」
てゐ「あー、そういうことね。日を回ってるから、もう三回しか能力を使えないんだっけ」
ナズーリン「いや、『今回の事件に関係ある証拠品』で一度検索しているから、残り回数は二回だ」
咲夜「捜査時間が終わり、こうして裁判所にいる間は、裁判が終わるまでは他のエリアの捜索は出来ません。何かを〈ダウジング〉するとしても、証拠の確認が取れないことを承知の上で検索しなければいけませんね」
ルーミア「……ねえ。議論とか推理とか裁判とか、もうほんっとに、どうでもいいよ」
咲夜「はい?」
早苗「な、なにを言い出すんですかルーミアさん!」
ルーミア「もう、いい加減名乗り出て欲しいんだけど。誰がチルノちゃんを殺したの?」
ルーミア「チルノちゃんってさ、ここでなんか悪いことしたっけ!? 私が殺されるんだったらわかるよ? 文の事件の時は部屋に青娥を殺しに行ったし、実際DAY05の時には教室で青娥を半殺しにしたから。でも、チルノちゃんは誰も傷つけてないよね!? 会場で私達と一緒に遊んでただけじゃん! 違う!?」
ルーミア「……当たり前じゃん! もうDDSルームのボーナスを使い切ってるんだから、凶器なんて取得出来るはずないもん!」
妹紅「その通りだ。私みたいな死への抵抗が薄い蓬莱人ならともかく、普通の感覚では3/6以上の確率で死ぬ賭博に何度も挑めるわけがない」
マミゾウ「少なくともルーミアは三回目のチャレンジなぞしとらんじゃろうな」
てゐ「はぁ。みんなお子様には本当に甘いねえ。ま、いいや。そんなことよりさ――ねえ?」
早苗「え、ええと――?」
咲夜「そうですね。議論が始まってから、まだ一度も発言をしていないプレイヤーがいますね」
さとり「霊夢さん……」
レミリア「貴方、今日は本当におかしいわよ。大丈夫?」
霊夢「……」
妹紅「どうした? まだ調子が悪そうならあんまり無理しなくても――」
マミゾウ「そういうわけにもいかんじゃろう。嫌でもいつものキレを見せて貰わんと、わしら全員裁判で負けてしまうぞ?」
霊夢「――私は」
レミリア「……」
霊夢「もう一人のプレイヤーをこの場に呼ぶべきだと思う」
早苗「プレイヤー? 〈17人目〉っすか?」
霊夢「……全く、そうじゃないでしょ? あーもう! ほんっとうに厄介ね! あいつの能力!」
さとり「ご迷惑おかけします……」
ナズーリン「――あ」
霊夢「そうよ。思い出した? さとりの妹、古明地こいしよ! 今から紫に頼んでここに呼んで貰うけど、さとりもそれで構わないわよね?」
さとり「はい。もちろんです。今回の裁判には彼女の証言が必須ですから」
魔理沙「本当に来てくれるのか? 学級裁判には参加義務が無いし、こいしもルールブックを持ち歩いているからそれを知っているはずだ」
早苗「いや、そもそも既に裁判は始まってるんすよ? 途中参加って可能なんすか?」
さとり「ご心配なく。姿は見えなくとも、彼女がどこにいるのかは、いつも大体の予想がついていますので。――紫さん」
紫「何かしら?」
さとり「議論台の前にいる古明地こいしの〈無意識〉を解いてください」
早苗「ええ!? 今そこにいるんすか!?」
さとり「はい。先に言っておきますが――彼女はゲームの外であろうと中であろうと、とても不安定な存在で、身内以外の人間にとっては特に危険な一面を持ち合わせています。それでも構いませんか?」
咲夜「……どうぞ」
レミリア「別にいいわよ。慣れてるから」
紫「――たった今本人の参加意思が確認されたわ。ついに彼女と直接議論する時が来たわね。それでは『超高校級の無意識・古明地こいし』。出廷しなさい」
02
こいし「しゅってーーーーーーーーーーい!! はーいみんなーーーーーーー!! こーんばーんはーーーーーー!!!!! 古明地こいしでーす!!!」
さとり「こいし……」
こいし「おねーちゃーーーん! やっとわたしが見えるようになったんだねーー!」
ギュッ
さとり「は、恥ずかしいでしょう。ほら皆さんにご挨拶を」
てゐ「ふーん、姉妹で性格が正反対なんだね?」
さとり「……それ、勇儀さんにも言われたことがあります」
こいし「ええと、誰だっけ?」
てゐ「迷いの竹林に住んでる、因幡てゐ。よろしく」
魔理沙「おう、こいし。相変わらずだな」
霊夢「あんたは騒がしかったり、どこにいるのかもわからなかったり、本当に両極端ねえ」
マミゾウ「こいし、元気にしとったか?」
こいし「マミゾウおばあちゃんとナズーリンだー! またお寺に遊びに行っていいかな!」
ナズーリン「うん。聖もご主人も喜ぶと思う。命蓮寺のみんなで歓迎するよ」
こいし「やったー!」
ルーミア「ええと、こんばんはー?」
こいし「……どうも」
ルーミア「……?」
早苗「あの、どうなさいました?」
こいし「あ、早苗じゃん! 実はお願いがあったんだけど――」
早苗「――お空さんの件は特例みたいなもんで、『あのこと』について私に何度お願いされても無理っすよ?」
こいし「ぶー、けちー」
レミリア「……」
咲夜「お嬢様。やはり彼女の雰囲気は妹様と、とてもよく――」
こいし「こんばんは。ええと、神社であったことある?」
レミリア「こんばんは。私のほうも神社の宴会で見覚えあるわね。挨拶をしようと思ったらいつの間にか見失ってたけど」
咲夜「初めまして。レミリア・スカーレットの従者、紅魔館のメイド長の十六夜咲夜です」
こいし「あ! いつもご飯作ってくれてる人だよね! 何度もお洋服を洗濯物に混ぜちゃってごめんね!」
咲夜「いいえ。会場の家事一切は私に任されておりますので、こいしさんのお召し物も毎日出していただいて構いませんよ?」
こいし「あー、良かったー。今度あった時怒られるかと思ってた。ありがとね!」
妹紅(ええと。地底の怨霊と灼熱地獄跡を両方管理しているってことは、やっぱりさとりって幻想郷の大物なんだよな? 勇儀が旧都の妖怪達のまとめ役で、さとりが地霊殿の主。その妹だから、もしかしてめちゃくちゃ偉い人なのか? とりあえず初対面だし敬語で――)
こいし「あー!」
妹紅「おわぁ!? な、なんでしょう!?」
こいし「ねえねえ。そっちの脚、よく見せて!」
妹紅「あ、脚ぃ?」
レミリア「――え?」
咲夜「!」
魔理沙「……」
こいし「すっごい! 全然傷跡がないじゃん! どうやって!? くっついたの!? 生えてきたの!? あーあ、最後までよく見てれば良かった」
妹紅「お、おい! それを言ったら――」
レミリア「――こいし。貴方、あの場にいたの?」
こいし「うん。みんな忙しそうだから、ドーナツだけ貰ってから出ていったけど」
ルーミア「え、なんの話?」
早苗「くっついたとか、生えてきたとか、さっきから何を言ってるんですか?」
こいし「あれ? え? なんでみんな知らないの? 妹紅が変な罠みたいなのに引っかかって、脚がちぎれるくらいの大怪我してたじゃん」
03
ルーミア「――大怪我?」
てゐ「――罠? なんのこと?」
こいし「ほら、咲夜がいつもご飯を作ってるところにあったやつだよ」
早苗「――もしかして、厨房の大量の血のことっすか!? いやいや待ってくださいよ。あの血溜まり事件って、妹紅さんの怪我が原因だったんすか!?」
妹紅「いや、その。参ったなぁ……」
ナズーリン「こいし。君が言っているのは、DDSルームの端末破壊事件があった日――つまりDAY02に射命丸が厨房で発見した血溜まりの話かい?」
こいし「DDSルーム? そうそう、その日だね」
てゐ「ずっと疑問だったんだよねえ。あんたが放浪と修行の末に得たっていう『火炎操作』のほうはともかく、蓬莱の薬を飲んで得た『再生能力』。『不老不死』だけじゃなく、『あらゆる傷が瞬時に治る』ってやつ。実はそれもそのままなんじゃないの? これは例えば――勇儀や文の、種族としての筋力や身体能力と一緒だ。チルノが長時間サウナに入ると溶けてきちゃうのとも同じ」
咲夜「――お嬢様。これはやはり私の責任です。どんな処罰も受け入れます」
レミリア「もう、何度も言っているでしょう。全部私が悪いのよ。このメンツで最初から隠し通せるはずもなかったのね。みんな、ちょっとごめんね。今回の事件とは少し関係ないことを打ち明けたいのだけどいいかしら? 今話に出た厨房の一件なんだけどね――」
咲夜「あの血は私の仕掛けた罠に脚を踏み入れてしまった妹紅さんが、怪我をした時に発生した物なのです」
マミゾウ「罠と言えば――極上の凶器の〈トラバサミ〉か?」
咲夜「はい。私が配られた凶器は、皆さんの前でお見せした〈ナイフ〉。そしてお嬢様に配られた凶器が〈トラバサミ〉でした」
早苗「そんなことが……。だから、あんな大量の血があったんすねえ。それに――」
魔理沙「ああ。私達が部屋から盗み出した凶器のうち、一つだけ見つけられなかった物があったんだ。それが今話に出た〈トラバサミ〉だった。ずっと厨房に仕掛けられてたのなら、確かに回収は無理だな」
霊夢「あんた達、凶器は全部回収したんじゃなかったの?」
魔理沙「だ、黙ってて悪かった……」
レミリア「悪魔の館に侵入し、無礼千万にも吸血鬼との謁見を望む不届き者を返り討ちにするための牙。ふふ。私にぴったりの凶器でしょう?」
早苗「――え? 以前神奈子様達と一緒にお邪魔した時、私達のことめっちゃ歓迎してくれませんでした? 宴会だって紅魔館の皆さんが主催で何度も開いていますし。大図書館に個人的に遊びに行った時だって、小悪魔さんがお茶まで出してくれましたよ?」
咲夜「それは恐らくパチュリー様の許可が下りないですね。小悪魔を始め、出入りする妖精やホブゴブリンが怪我をする危険性が出てきますので」
レミリア「……先を続けなさい」
咲夜「それでは失礼します。私がお嬢様にお借りした〈トラバサミ〉を厨房に仕掛けたのは、ゲーム初日の夕食後からです。その日は誰も罠に掛かることなく、次の日にも罠はそのままでした。皆さんが厨房に入りそうな時は罠を適当な場所に隠しつつ、食堂に誰もいない時を狙って罠を設置しました。深夜には一切〈トラバサミ〉は設置せず、厨房の隅に隠しておきました」
青娥「つまり咲夜さんの〈ナイフ〉によるデモンストレーションの後、ほとんどの時間に〈トラバサミ〉が設置されていたのですね?」
咲夜「はい。DDSルームの端末破壊事件――その日の午後に妹紅さんが厨房の〈トラバサミ〉を踏み、大怪我をしてしまいました」
妹紅「ああ、でもみんなに助けられたんだよ。私一人の力じゃ、〈トラバサミ〉を外せなかった」
てゐ「みんなって、誰さ? まず、〈トラバサミ〉を仕掛けた咲夜が手伝ったのはわかる。でもそいつ、片手を怪我してるじゃん。咲夜一人の力では絶対に〈トラバサミ〉を外せるわけがないよね? 妹紅自身で罠を外すことも出来るかもしれないけど、それでも人数が足りないんじゃないの?」
咲夜「妹紅さん、さとりさん、皆さんにお話してもよろしいですか?」
妹紅「うん。私は構わないよ?」
さとり「ええ。お願いします」
てゐ「へ? なんでそこでさとりが出てくるのさ?」
咲夜「――妹紅さんの足に食い込んだ〈トラバサミ〉を外すためには、片手を怪我している私一人の力だけでは到底無理でした。具体的には①私と、②近くを通りかかったさとりさん、③お部屋からお呼びしたお嬢様、この三人の力で〈トラバサミ〉を外しました」
レミリア「そう。そこなのよ! 聞いてくれる? 部屋にいた私に咲夜が報告しに来たんだけど、この子ったら私も手伝うって言ったら、やれ『従者の失態ですので』だの『お召し物が汚れます』だの、頑なに手伝わせようとしないのよ。全部無視したけど。そんな状況、命令した私に全責任があるに決まってるじゃないの」
咲夜「お嬢様……」
レミリア「罠を外すのに力を貸しただけじゃなくて、ちゃんと厨房の掃除も手伝ったわよ? 掃除用具一式はトラッシュルームでまとめて処分したけど。血の量が本当に多過ぎて、厨房の奥の方の掃除が間に合わなかったのよ。掃除をしているうちに勇儀が夕食を作りに来たから、急いで作業を中断したわ」
早苗「そういえば勇儀さんが食事当番だった日もありましたね」
ルーミア「夕飯がお茶漬けしか出なかった時だ……」
さとり「私には皆さんの心が読めます。このままでは誰かが近いうちに怪我をする――不安に駆られた私は図書室と厨房の間を何度か行き来していました。だからこそ妹紅さんの身に起きた事にも気付くことが出来ました」
ナズーリン「そもそも、何故厨房に〈トラバサミ〉を仕掛けたのだ? 咲夜にとっては、ほとんど自分の領域みたいな物かも知れないが、厨房に罠を仕掛けることになんらかのメリットがあったのか?」
咲夜「それは――」
ナズーリン「妹紅にだって訊きたいことがある。仮にも〈トラバサミ〉だぞ? いくらなんでも昼間の厨房に居て、そんな大きな罠に気付かないはずがないだろう」
妹紅「――あの時さ。お茶が飲みたいと思って食堂に行ったんだよ。ほら、私の部屋って、さっき見て貰った通りなんもかんも空っぽで、急須とか冷蔵庫とかそういう生活用品を一切置いてないから」
ナズーリン「ふむ?」
妹紅「それで食堂に行ったらさ、咲夜が鼻歌混じりに掃除してたんだよ。だから邪魔しちゃ悪いと思って、勝手に厨房に入ったんだ。それで急須と茶葉を探していたら、うまそうなドーナツがラップに包まれた皿に置かれててさ、それで――」
ナズーリン「足元の罠にも気付かずに、ドーナツをつまみ食いしようとして大怪我をしたというのか?」
てゐ「……呆れて物が言えない、ってこのことだよ。あんた、竹林の中でもそうだよね。鈴仙の次にしょうもない罠に引っかかるし。そもそもあんたも姫様も死なないからか、身を脅かす物に対して警戒が薄い所があるしねえ」
咲夜「私は妹紅さんとさとりさんに謝罪をしました。そしてお二人は私とお嬢様を許してくださいました。お詫びとして、犯行に使われた〈トラバサミ〉を譲渡しようと考えました」
妹紅「私は受け取らなかったぞ? 部屋に誰かが遊びに来た時に引っかかるのも嫌だし、DDSルームのルール解禁なんて知らなかったから」
さとり「妹紅さんが固辞したので、代わりに私が受け取りました。もちろんどこにも仕掛けていませんよ? 誰かが罠にかかってしまう危険性がありますので。ただ、トラッシュルームに凶器を処分することに気が引けたのも事実です。何人かの心を読むことで、DDSルームのボーナスルールについても知りましたので」
レミリア「――ねえ、妹紅。改めて私達のことを許してくれる?」
妹紅「ほんの出来心だったんだろ? 私を殺すつもりだったら、あの後一生懸命に私を助けようとするわけがないからな。もう終わったことなんだし別にいいって」
レミリア「! 妹紅、ありが――」
魔理沙「――おい、待てよ。レミリア、咲夜。お前らそこまでぶち撒けといて、なんで最後まで真相を話さないんだ? みんなも疑問に思ったろ? 『なぜ基本的に図書室か自室にいることが多いさとりが、その日は妙な時間に食堂付近にいたのか?』」
ナズーリン「ふむ?」
早苗「どういうことっすか? みんなが厨房に集まり出す時間でもなかったのに異変を発見出来たのは、ちょっと運が良いなとは思いますけど。ですが『厨房には〈トラバサミ〉が仕掛けられている』という情報を自分だけが所持することになってしまったのなら、頻繁に様子を見に行くのは自然な気もしますが……」
魔理沙「いいか? 咲夜達はゲーム初日から厨房に罠を仕掛けていたんだ。つまり罠を仕掛けて三日目だったってことになるだろ?」
早苗「ええ、まあ……」
魔理沙「仮に早苗が罠を仕掛ける立場ならどうだ? なかなか罠に引っかからないから痺れを切らして、『搦め手』を使おうって気になってこないか?」
咲夜「……」
早苗「搦め手、ですか? 〈トラバサミ〉自体、搦め手の塊みたいな凶器だと思うんすけど……。咲夜さん達はなんでそんなことを急に? ――あ」
魔理沙「そうだ。DDSルームのボーナスルールが解禁されたからだ」
ナズーリン「ほう? しかし仮にボーナスルール解禁に気付いていたとしたら、なぜ〈トラバサミ〉にこだわる必要があったんだ? ルール解禁後、私達が所在を未だに把握していない武器はいくつかあるが、どれも十分に殺傷能力があるものばかりだろう?」
マミゾウ「確かにな。〈トラバサミ〉は危険じゃが、命を奪う程の威力はない」
魔理沙「ん? ああ。さっき妹紅が話してた、厨房でつまみ食いしようとしてたドーナツのことだよ」
ルーミア「ドーナツが? 妹紅じゃあるまいし、誰もそんな罠に引っかからないと思う……」
妹紅「あるまいし、って……」
ルーミア「意図?」
青娥「はい。つまり咲夜さん達は、①足元の罠に気づかないくらいには注意力に多少難点があり、②ドーナツに釣られちゃうような可愛さがあり、③〈トラバサミ〉のような武器を使わないと相手にするのが難しい。そんな人を罠にはめようとしてたんです」
ルーミア「ふーん……」
てゐ「いや、それって実質妹紅じゃん」
マミゾウ「妹紅じゃな」
妹紅「いやいや! ①と②はともかく、③はないだろ!? 〈トラバサミ〉なんて〈不死〉の私に使う意味ないから! 私は多少失血したところでなんともないんだから」
ナズーリン「ん? 自分に可愛さがあることは認めるのか?」
妹紅「認めない!」
てゐ「なんで? 姫様はうちでいっつも言ってるよ。妹紅のこと、かわいい、かわいい、いつか食べちゃいたいって。ありゃ『ツンデレ』ってやつさね」
紫(それはむしろ『ヤンデレ』に近いわね)
こいし「へー、レミリア達ってずいぶん変わったやりかたするんだね。でもさ。そんな条件に全部当てはまる人が本当にいるのー?」
早苗「ですよねー。…………って、あれ?」
さとり「……」
霊夢「……」
04
こいし「え! 私が狙われていたの!? どうしてどうしてー?」
妹紅「お、おい。魔理沙、なに言ってんだよ? あれは勝手に私が引っかかっただけであって――」
早苗「魔理沙さん、あの――」
魔理沙「レミリアには、こいしと似た妹がいるんだ。『フランドール・スカーレット』という名前のな。早苗も会ったことがあるはずだ。こいしに対して有効な凶器を持ち合わせていたとはいえ、それがこいしを狙う理由にはならない。レミリア、はっきり言えよ。他人の家族なら、別にどうなっても良かったのか?」
レミリア「……」
魔理沙「まず、何人かのプレイヤーはとっくに気付いているだろうが、咲夜は利き手を負傷した後でもそれなりに会場の仕事をこなしている。マミゾウ。お前なら、これがどういうことかわかってるよな?」
マミゾウ「――利き手を潰したはずの咲夜は、わしが見る限りでも仕事にそれほどの影響はなかった。わしは最初、咲夜が左利きなのではないかと疑った。だが利き手でないほうを傷つけてしまっては、咲夜はレミリアの命令に背くことになる。その疑問の答えは一つ。咲夜が実は両利きだからじゃろう?」
魔理沙「その通りだ。そして咲夜は利き手のことで食堂にいた何人かのプレイヤーを騙した後、貴重な凶器であるはずの〈ナイフ〉まで放棄した。どうしてか? ルーミア、仮にお前がその段階で〈暗視ゴーグル〉以外の武器を持っていたとして、お前だったら誰を狙う?」
ルーミア「……?」
青娥「ちょっと意図を汲み取り辛い質問だったかも知れませんね。ルーミアさん、あの時はまだ私が凶器のリストを拡散する前でしたよね? 咲夜さんは『利き手が使えない状態』かつ『一切の凶器を所持していない』ことを示しました。さて、その段階で一番命を狙われやすいのは誰だかわかりますか? もし貴方だったら誰を狙いますか?」
ルーミア「え? そんなの私なら咲夜を真っ先に狙うよ? だって『一切抵抗する手段が無い』ってわかってるなら、安心して奇襲を仕掛けられるし」
魔理沙「レミリア達は何故不可解とも言えるデモンストレーションを行ったのか? その答えはな。あの時食堂に居た『とあるプレイヤー』に自分を狙わせるためだったんだよ。幻想郷で咲夜との交流が薄い、そんなプレイヤーにな」
ナズーリン「大抵のプレイヤーは共同生活を送っていくうちに咲夜の嘘に気付くことが出来る。例えば夕食の準備を一緒に行っている時、などにな。つまり――」
マミゾウ「会場の生活ルールを決める際、姿が見えなかったがその場には居た可能性が高い人物――こいしに対してのデモンストレーションだったわけじゃな」
こいし「うん! 確かに最初の日に私もあの中に居たよ!」
ナズーリン「確か咲夜は『普段個人で携帯している武器の有無』についても確認していたな。あれは我々の所持武器を確かめるためではなく、自分自身が持ち歩いている武器が皆無であることを、こいしに伝えるためだったんだな?」
魔理沙「『料理に毒を入れさせるな』、『食事中に殺人を起こすな』、だろ? あれは別に出鱈目や嘘じゃないんだ。だからこいしがドーナツを食ってる時に殺す気もなかったんだろうよ。ドーナツにありつく前に、あるいは食い終わった後に殺すつもりだったんだから」
早苗「そんな……」
魔理沙「さっき言ったようにレミリア達は、ボーナスルールの追加にも気付くことが出来ていた。二人で共有している武器にはそれ自体に殺傷能力の無い〈トラバサミ〉だけではなく、DDSルームで新たに取得された殺傷能力のある武器もDAY02の午後には追加されていたんだ。〈トラバサミ〉で動きを完全に止めた後でなら、隠密行動に適していない武器だろうがなんだろうが、昼間でもこいしを殺害可能だよな?」
咲夜「――魔理沙。私は決してこいしさんを殺そうとなんてしていないわ」
魔理沙「ふん。つまらない嘘をつくなって。そうだ。これも聞いておくか。DAY03のメッセージも、お前が朝に書いたやつだよな? もう片方の利き手でな」
レミリア「……え?」
魔理沙「咲夜。DAY03の朝、お前はすぐには私達の前に姿を現さなかったよな? 飯の準備をしていたとかで」
咲夜「……ええ」
魔理沙「普段のお前だったら有り得ないだろ。朝食を作る手を止めてでも、まず私達に挨拶に来るのがお前なんじゃないのか? 本当はあの時厨房にお前はいなくて、時間を止めてから厨房に入ったんじゃないか? 偽物のメッセージについてのアリバイを作るためにな」
早苗「え、そうだったんすか?」
咲夜「はい。お察しの通り、私は皆様が会話をしている途中で入室しました。皆様の後に厨房に入ることになったのは、完全に私の失態です。皆さんの世話はお嬢様から直々に仰せつかっておりますので。私にとって一番恐ろしいのは、本来の仕事を遂行出来ないことであり、皆様の後に朝の食堂に行くことなど、言語道断です。早朝の飲み物を所望されればすぐに用意し、蒸したタオルが必要な方には渡す。それくらいでないと――紅魔館のメイド長失格です」
レミリア「――待って。メッセージの件については把握してないわ。私はそんな命令は出してないわよ? 確かに一度は古明地こいしを標的にしたけど」
レミリア「そんなことするわけないじゃない。妹紅の件があって、こいしは完全にターゲットから外したんだから」
魔理沙「どうしてそう思う?」
ナズーリン「あの文字は青娥が書いた物の可能性が高いんだ」
青娥「あら?」
ナズーリン「あの後で私は、素人なりに筆跡鑑定を行ったんだ。体育館前のメッセージと見比べてみると、筆跡は青娥が書く癖のあるものに非常によく似ていた」
てゐ「ふーん。あんたも『凶器のリスト』を取得してたんだねえ」
ナズーリン「……あ」
てゐ「十中八九あんたは凶器を取得していると思ってたけどねー。〈ダウジング〉を使えるのがわたしだったとしても、同じことをすると思う。検索系の能力を持つのが会場に一人だけってことは、他のプレイヤーから凶器の有無を指摘されることがないからねえ」
ナズーリン「きょ、凶器は手に入れていないぞ!? どうしてもゲームで無駄なく動くためには凶器のデータは必須なのであってだな。それに私は――」
てゐ「はいはい」
魔理沙「さとりが直に見た鑑定でもそうだったらしいな。『癖の強い字を書く』って」
ナズーリン「ああ。それに咲夜が体育館前にメッセージを残すとしたら、普段の仕事に差し支えがない時間に済ませるに決まってる。夜の分の家事が終わった後、とかな」
魔理沙「なんだ?」
青娥「あれって実は、私が咲夜さんに頼んで急遽書いて貰った物なんですよ」
さとり「……」
ルーミア「え?」
魔理沙「お前が咲夜に書かせたのか!? なんでだ!?」
青娥「ほら、私って結構朝が弱いじゃないですか」
ルーミア「そうだよね。青娥も私みたいにのんびり起きるほうだよね」
青娥「はい。だからDAY03もゆっくりお着替えして、お化粧して、それから皆さんの部屋を〈壁抜け〉で一回りしたんですよ」
てゐ「は!? 何さらっと人の部屋に不法侵入してんのさ!」
青娥「まあまあ。それで誰の部屋にもこいしさんのメッセージが無いのを確認してから、『これじゃまずいんじゃないか』と思いまして。だから咲夜さんにお願いしちゃいました。咲夜さん、本当にご迷惑おかけしました」
咲夜「……私は青娥に脅迫されました。『昨日の件を黙っていて欲しいのなら、一つだけ願いを聞いて欲しい』と。そうやって、偽装メッセージの原文を渡されました。『筆跡を真似つつ、今日中に必ず誰かの目に止まる場所にメッセージを書き残してください。メッセージを書いた後は、この原文は処分しておいてください』と」
レミリア「……」
てゐ「なんで筆跡まで真似させたの?」
青娥「え? 私何度も文さんにアプローチを仕掛けていたじゃないですか。だから今回も意図に気付いて私に会いに来てくれるかも知れないなーって思って。残念ながら事件に巻き込まれ、DAY04には帰らぬ人となってしまいましたが」
マミゾウ「青娥。言葉は慎重に選べよ? 一回目の事件は、全てお主の差し金だったじゃろうが」
ルーミア「ねえ、青娥が書かせたメッセージの意図って、なに? 偽物のメッセージって、どうしても身内であるさとりにバレちゃうでしょ?」
こいし「私も訊きたいなー」
青娥「――こいしさんが忘れ去られないようにするためです。ルーミアさん、最後にこいしさんの本物のメッセージが残されていたのはいつでしたっけ?」
ルーミア「最後? DAY01の、マミゾウの部屋にあったやつだっけ?」
青娥「その通りです。そしてそれ以降、今日のDAY07まで古明地こいしさんが残したと確証の持てる証拠品は会場から消えます。最後のメッセージから、五、六日も空いてしまうわけです。これがどういうことかわかりますか?」
てゐ「――プレイヤー全員が、こいしの存在を忘れる危険性がある、って言いたいの?」
青娥「御名答ですわ。普段姿が見えないとはいえ、こいしさんだって私達と共同生活を送るプレイヤーです。それが皆さんに忘れ去られるなんて、余りにも悲しいとは思いませんか?」
ルーミア「……なんだ。やっぱり青娥って優しいじゃん」
青娥「あら、惚れ直しちゃいました?」
ルーミア「それはないかな」
さとり「青娥さん。――その言葉の半分は嘘、ですね」
紫「古明地さとりさん。今回は許しますが、〈読心〉で得た情報を他人と共有するのはルール違反です」
さとり「……」
マミゾウ「青娥よ。わしにもお主にそんな殊勝な心掛けがあるとは思えんなあ。こいしが忘れられることを避けたい、という部分は本当のことじゃろう。だが本当は、こいしの学級裁判における一人勝ちを防ぎたかったのではないか? なんせ、『存在を覚えていないプレイヤー』に投票することは出来ないのじゃからな」
妹紅「ん? それってそんなに意味があることなのかなあ。ほら、例えばプレイヤーカードなんかには、しっかりこいしの写真が載ってるだろ?」
青娥「本当に皆さん全員で、確実にこいしさんを覚えていられるかしら? さとりさんがいなくなっても、皆さんはこいしさんを一日も忘れずに覚えていられますか? 現に例のビデオテープに映っていた被害者は、古明地さとりさんだったらしいじゃないですか」
妹紅「そう言われてみると、うーん……自信なくなってきた」
咲夜「――お嬢様、独断で動いてしまい申しわけございませんでした」
レミリア「別に貴方が必要だと思ったら、好きに行動してくれて構わないわよ。私が直接下した命令には、従って貰いたいけど。それと青娥、一ついい?」
青娥「なんでしょうか?」
レミリア「自分一人で出来ることを、なんで咲夜にやらせたのかしら?」
青娥「えー? だって塗料でお洋服が汚れてしまうじゃありませんか。きゃははは!」
レミリア「……ふん。次はないわよ」
魔理沙「まあ、青娥にそういう意図があったんなら別にそれでもいいさ。それで誰かを直接殺そうとしたわけじゃないのなら。それよりレミリア。一番気に入らないのは、『さとりは〈読心〉で得た情報をみんなに話せない』ことを見越してこいしを狙ったことだよ。さとりが食堂に対して注意を払っていたことだって、本当はこいしが心配だったからだろうからな。本当に最低だよお前ら」
魔理沙「霊夢。お前は紅霧異変が終わった時から、どちらかと言うとレミリアのほうに肩入れしているみたいだが、私は違う。私はずっとフランの味方だぜ? 妹を長期間閉じ込めていたこいつを、私はまだ完全には信用していない」
霊夢「……魔理沙。レミリアは恐らくこいしの動きを止めた後、ずっとどこかに隔離するつもりだったのよ。当然さとりにも事後承諾を得た上でね。決して殺そうとしたわけではなく、きちんと治療も行うつもりだったはずよ」
魔理沙「おい、本気で言ってんのかよ。〈トラバサミ〉だぞ? こいしの細い脚を見てみろよ。恐らく罠を踏んだ瞬間に真っ二つだぞ? レミリア。お前、やっぱり何も変わってないな。そういう手段でしか扱いに困る物に接することが出来ないのかよ」
魔理沙「――あ?」
霊夢「レミリアは幻想郷で今、フランの姉としての務めを立派に果たしているわよ? 既にフランを外とも交流させているし、異変解決の際にレミリア自身が出向いたこともあった。紅魔館の住人でもない部外者の貴方に、家庭の問題にとやかく口を出す権利があるの?」
魔理沙「はいはい。紫やお前は、幻想郷が第一だもんな。そこに住んでいる一人一人のことなんていちいち気にしてられないよな」
霊夢「――は? 何が言いたいのよ? 私が本当はあんた達のことなんかどうでもいいと思ってるとでも?」
てゐ「はいはい、そこまでにしときなって!」
霊夢「……頭に血が昇ってたわ。ごめん」
魔理沙「……ああ。こっちこそ悪かったよ」
紫「魔理沙。先程の発言、幻想郷の管理者に対する忠告として受け取っておくわ」
レミリア「……こいし、さとり」
さとり「はい」
こいし「なーに?」
レミリア「……本当にごめんなさい。償いはするわ」
さとり「結構です。私はいいのですが、こいし――貴方は彼女を許しますか? 今までの話を聞いた上で、それでも一人のプレイヤーとしてゲームに参加し続けますか?」
こいし「なんで?」
さとり「なんで、って……。貴方は紅魔館の二人だけでなく、ほとんどのプレイヤーから危険な存在だと思われているのですよ?」
こいし「うんうん」
さとり「命を狙われるのは当然だとして、逆にその力を利用しようとするプレイヤーも出てくるでしょう。私の意見としては――貴方は私達の生活から完全に離れて、どこかに隠れているべきだと思います。他の能力ならともかく、〈無意識〉には可能なのですから」
こいし「へー」
さとり「……本当に貴方との会話は要領を得ないですね。それで、どうですか? 貴方は今までの皆さんの行動について、どう思いますか?」
こいし「どう、って――」
さとり「……」
こいし「――めっちゃくちゃ嬉しい!」
さとり「……はい?」
マミゾウ「なに!?」
妹紅「命を狙われたんだぞ!? なんで?」
こいし「レミリア達に命を狙われていたことも嬉しいし! 青娥が私の存在が忘れ去られないように計らってくれたことも嬉しい! 私が議論の中心になってるの、すっごくいい!」
霊夢「……あんたの妹、ほんとに変わってるわね」
こいし「そんなことないよー! だって、みんなの中から存在が消えるのって、いっちばんイヤなんだもん!」
さとり「こいし……」
霊夢「さとり。気持ちはわかるけど、やはり貴方の妹を野放しには出来ない。だから私達は絶えず、彼女を一人のプレイヤーとして認識し続けなければならない。そのことで彼女がゲームに敗北することがあったとしても。もちろん彼女の命を奪おうとは思っていないけど。そこはわかって貰える?」
さとり「ええ。大丈夫です」
こいし「だからこの裁判が終わってからも、私はゲームに積極的に参加するから、みんなよろしくねー! いぇーい!」
早苗「なんとも、個性的な子ですねえ……」
ナズーリン「全くだな。だが聖は彼女のその精神性に、可能性を感じてもいるのだが……」
さとり「貴方も皆さんと共に議論に参加し、事件の真相に迫りたいと思っているのですか?」
こいし「やりたーい! 殺人犯役も面白かったけど、名探偵役も面白そう!」
てゐ「……『殺人犯役も面白かった』?」
さとり「――わかりました。それでは皆さんの輪の中に入るために、まず貴方には先にやるべきことがあるのです。それが何かはわかりますね?」
こいし「みんなにギフト券を配るとか?」
さとり「違います。今回の事件で貴方が関与した部分について、きちんと話せばいいのです。紫さん、〈読心〉で得た情報以外なら、あるいは私自身が得た情報から推理して生まれた結論なら、私の口からでも皆さんと共有して構いませんね?」
紫「ま、そのへんはゆるーく判断していくわ」
こいし「楽しみだなー。DAY04以降に私が動いていたって証拠、お姉ちゃんには見つけられるかなあ。うふふ」
さとり「……あのねえこいし。貴方が関与していたことなんて、そんなのとっくにわかってるに決まっているでしょう。あのカチナドールはうちのリビングにあった物なんですから」
05
てゐ「嘘!?」
こいし「あー! それ普通にバラしちゃ駄目だよ! 推理とか全然関係ないじゃん!」
魔理沙「――あれ、やっぱりそうだったのか?」
さとり「ふふ。『部屋で人形をじっと見つめていたら、なんだか地霊殿の中でも見たことがある気がしていた』ですか。はい、正解です。あれは旧都のアンティークショップで見掛けて購入し、リビングに何年か前から飾ってあった物です」
てゐ「……え? あんな悪趣味な物、あんたんとこの居間に飾ってあったの?」
魔理沙「おいおい。異国情緒溢れる、かっこいい人形だろ? 後でアリスにも見せてやりたいぜ」
霊夢「いや、さとりが本来の持ち主だってわかったんだから、きちんと返しなさいよ」
さとり「いいえ、魔理沙さんに差し上げます」
魔理沙「本当か? サンキュー」
早苗「あの、すみません。こいしさんに聞きたいんですけど、最初の二日間にメッセージを書き残しましたよね? あれってなんでやめちゃったんですか?」
こいし「え? メッセージなんて書いたっけ?」
さとり「こいし、貴方が書いた物なんだから忘れないでください。紙に書いて説明します。間違いがあったら指摘してください」
早苗「ええと、これで合ってると思いますよ?」
てゐ「表がスカスカだねえ? ん? DAY06のメッセージは、本来の日付より一日ずれてない?」
マミゾウ「一日程度のずれなら、発見時のタイミングも関係あるのかも知れんのう」
ルーミア「……」
早苗「DAY03の時に体育館前にあったメッセージは、青娥さんが咲夜さんに書かせた物なんすよね? じゃあDAY06の、図書室内にあったメッセージって誰が書いたんすかね?」
咲夜「それについては後で議論しましょ。さとりさん、表に書き出した意図は?」
さとり「――今から書き足すことが、こいしが部屋に書いたメッセージの真相だからです」
魔理沙「なんだこれ? もしメッセージが毎日書かれてたらこうなってたってことか?」
早苗「そういえばこいしさん。どうして最初にさとりさんとマミゾウさんの部屋を選んだんですか?」
こいし「え? 私がお姉ちゃんやマミゾウおばあちゃんを真っ先に狙うわけ無いじゃん」
マミゾウ「なあ、こいしよ。前にも言ったが、わしはお主より年下じゃぞ? まあ、構わんが……」
早苗「あの――もしかして、部屋にメッセージが書かれた人物は、殺害対象から外れていた、ってことっすか?」
こいし「あったりー!」
咲夜「そういう意図でしたか。ですがそれだとDAY13の殺害決行期日には、最終的に一人ではなく、二人が指名されないままになりますね。何故一人ではなく、二人なんですか?」
こいし「だってルールブックに書いてあったじゃん。一人のプレイヤーが殺せるのは二人までだって。一人殺すよりも二人殺したほうが裁判に勝つ確率が上がるでしょ?」
咲夜「そ、それは、どうでしょうか?」
レミリア「……こいしにとってはそういう計算になるのね。ちなみに、DAY02以降にメッセージを書こうと思っていた部屋は?」
こいし「ええとね。DAY02には、ナズーリンの部屋にメッセージを書こうと思ってたんだ。聖のお弟子さんだし、お寺で優しくしてくれたから。その次は、地底で私やお姉ちゃんがお世話になっている勇儀さん。後は、そうだなあ。以前お空の暴走を止めてくれた人達かなあ。霊夢や魔理沙みたいに」
早苗「――そして私、ですか」
霊夢「いや、あんたあの時地底に潜ってすらいないでしょ。そもそもあんたの所の神様が――まあいいや」
ナズーリン「私は厳密には聖の弟子ではないのだが……。それならばこいし、どうしてDAY02以降にメッセージを書くのを止めたんだい?」
こいし「それがね――そこのおばさんが後出しするのが悪いんだよ!」
紫「お、おばさん!?」
霊夢「あら、ご指名よ? 紫おばさん」
紫「――只今を持ちまして、今回の学級裁判は博麗霊夢一人の敗北とさせていただきます」
ナズーリン「ふむ。では帰らせて貰うか。私は朝が早いものでね」
てゐ「やったー! みんなお疲れ様ー。霊夢の処刑が終わったら、この前の裁判後みたいに休憩の日?」
早苗「じゃあ、明日は?」
魔理沙「早苗――そのネタだけは絶対に拾わないぜ? 何があってもだ」
早苗「す、すみません……」
霊夢「あんた達本当に仲良いわね」
こいし「……あの、続けてもいい? 私はわざわざスーパーマーケットからペンキを盗ん――借りてきて文字を書いたの。それなのにDAY02の朝にDDSルーム前で『この会場にはまだプレイヤーがいる』って言ってたじゃん? そんなことされたら、殺害予告のカウントダウンがずれるんだよ! わかる!?」
レミリア「それってもしかして、〈17人目〉のことかしら?」
こいし「そうそう! 今更日付をずらしたらみっともないじゃん! だからカウントダウンは止めちゃったの」
青娥「カウントダウンが残り一日になった時に、予告されていないプレイヤーが三人も居ることになりますものね」
さとり「……そんなことだと思ってたわ。貴方って飽き性だものね」
咲夜「そのカウントダウンの中断が――DAY05の人形設置に繋がってくるわけですか」
妹紅「あの人形、私達はプレイヤーの全滅を狙って設置した人形だと結論付けたんだけど、実際の所はどうなんだ?」
こいし「ええとね。休憩日の前に聞いたんだ。そこのおば――」
紫「……」
さとり「こいし。言葉には気を付けなさいと常日頃から言っているでしょう?」
こいし「――紫が言ってたんだけど、プレイヤーが全滅すると誰も報酬を貰えないんだよね?」
妹紅「私もそう聞いた。――ということはチルノと同じ質問を紫にぶつけたプレイヤーって、こいしのことだったのか?」
こいし「そうだよー」
ナズーリン「ふむ。疑問だったんだが、何故14体なんだ? 〈17人目〉を含めればプレイヤーは15人のはずだろう? 君は〈17人目〉のことを、DDSルーム前で既に訊いていた。なら人形も15体のはず。その14体は誰を想定して設置したんだ?」
てゐ「何言ってんのさ。まんまじゃん。あの時残っていたプレイヤーが15人で、こいしを含めないなら14人であってんじゃん」
ナズーリン「部屋のメッセージの話では、何人かのプレイヤーは見逃す対象だったのでは?」
こいし「うーん、確かにみんな友達だけど、絶対に殺したくないってわけじゃないんだ。私がこの会場で何があっても殺すことがないのは、お姉ちゃんだけだよ。ごめんね」
マミゾウ(この子は――こういう事を、さらっと言ってしまうのか)
マミゾウ「それでは、何故14人なんじゃ? それならばお主とさとりを含めない、生き残っている12人のプレイヤー+〈17人目〉で人形は13体のはずじゃ」
こいし「え? 私自身は別にどうしても死にたくないわけじゃないよ? だってそういうゲームなんでしょ?」
魔理沙「おい、まさか――」
早苗「こいしさん自身も、こいしさんの殺害対象に含まれてるんですか!?」
こいし「もし全滅狙いだったらね。でも、多分私がお姉ちゃん以外の全員を殺したら、直後に〈追放〉ってのになるだけなんじゃないの? そんなの全然怖くないよ。だって処刑されるわけじゃないんでしょ?」
さとり「こいし、貴方はなんでそんな風に……」
咲夜「お嬢様。これは一体――」
レミリア「彼女ってフランに似ているから、考えていることもなんとなくわかるわよ」
さとり「レミリアさん……」
レミリア「こいしはきっとね。〈17人目〉を含め、姉以外を全滅させようとしていた。そして自らも死ぬか〈追放〉されるつもりだった。さとりだけを生き残らせるためにね」
咲夜「ちょっとわかりません……。それならば姉妹でゲームに勝つほうがずっと建設的だと思うのですが」
レミリア「建設的? 逆よ。彼女は破滅的な思想を持っているの。こいしは試したかったのよ。さとりが一人で優勝した後に何を望むのか? こいしを生き返らせるのか、あるいは他の願いを叶えるのか。あるいは――死を選ぶのか」
てゐ「……」
早苗「……」
妹紅(難しい子だな。月から来た『あいつら』も何を考えているのかわからない時があるが――この子は恐らく、普通に何かを考える能力そのものが欠如しているのかも知れない)
さとり「皆さん、気持ちはわかりますが、もっとこいしの話を聞きましょう。人形を設置した貴方は、次に何をしましたか?」
こいし「ん? もちろん〈香水〉を試しに使ってみたんだよ?」
魔理沙「え!? おい、やっぱりDAY05の昼飯の後に飲んだ茶には〈香水〉が入ってたのか?」
こいし「うん! でも〈消臭剤〉はその時一切使ってないから安心して!」
早苗「いやいや、そういう問題じゃないっすよ!?」
マミゾウ「こいしや。凶器の種類と番号は青娥が配った凶器のリストで知ったのじゃな? 誰かのリストを盗み見て、他の凶器の存在を知った上で、その二つの凶器を選んだのか?」
こいし「そうだよ! 新ルール解禁とほぼ同時にルールブックが光っていることに気付いたから、それで〈香水〉と〈消臭剤〉をゲットしたんだ。〈香水〉と〈消臭剤〉がワンセットなんて、すっごく面白そうじゃん! 凶器の色合いだって私とお姉ちゃんっぽいし。ちなみに、他の凶器は手に入れてないからね? 万が一運試しで死んだらゲームに参加出来ないし。それでティータイムの話なんだけど、お茶に全然口を付けない人もいたね。魔理沙は飲んでたけど」
魔理沙「……あぁ、変な味だったな」
レミリア「私も飲んだけど、二度と飲みたくない味ね」
こいし「ちなみに、その場に居なかった青娥には飲ませてないよ」
青娥「皆さんの話を聞いていると、そこまでおかしな味なら飲んでみたくなってきますねえ」
ナズーリン「こいしは全員に確実に〈香水〉を飲ませるために、夜になってから貯水槽に直接〈香水〉を投入したんだな?」
こいし「せいかーい! もちろんみんながお風呂に入ったりとか、水を使いそうな時間を狙ってね。それなら結構な数のプレイヤーが〈香水〉を身体に入れると思ったし。でもね。確認のために宿舎エリアのトイレに入って、洗面台の水を流したんだ。だけど全然緑色に染まってなかったんだよ。おかしいよね!?」
ルーミア「確かに変だね。〈香水〉って色が付いているんでしょ? だったら蛇口からは緑色に染まった水が出てくるはずだよね。貯水槽は緑色に染まっていたのになんでだろ?」
ナズーリン「ああ、それなら貯水槽内で油のみが上部に分離したせいだ。確か極上の凶器の〈香水〉は油性が強かったはずだ」
魔理沙「あー……そういえばそうだっけ。よくそんな一文覚えてたな。全く、私もあの時なんで気付かなかったんだか」
こいし「え、意味わかんない。どういうこと?」
ナズーリン「水と油を混ぜると、油の部分が表面に浮かぶんだ。油というのは水より軽いからな」
魔理沙「分子同士が引き合う力を表面張力って言うんだが、水には水の、油には油の表面張力がある。似たような表面張力の液体なら溶け合うんだけど、水と油には表面張力にかなりの開きがあるんだ。だから界面活性剤でも混ぜないと、水と油は溶けない。界面活性剤っていうのは――ほら、石鹸とかに含まれてるやつだ」
早苗「あれ、なんで魔理沙さんって、そういうこと詳しいんすか? 私もどちらかと言われると理系人間ですけど」
ナズーリン「油と水は分離したはずだが――実際には〈ダウジング〉の結果は上水道全体を示した。紫。運営の慈悲として、これだけでも我々に情報を与えて欲しいのだが、いくら水槽に多少なりとも浄化装置があり、尚且つ〈香水〉単体で見ればそれほどの量ではなかったとはいえ、上水道には既に〈香水〉に含まれていた毒の成分が行き渡っているのだろう?」
紫「確かに不安の中でコロシアイなんてしたくないわよねえ。それくらいは教えてあげてもいいかしら。私達が使う水の中に、既に毒は混じっているわ。貴方達全員、〈香水〉を既に体内に取り込んでしまっている。ちなみに運営も全員毒を口にしているわ。私達がここで生活に使っている水は、貴方達と同じ物だからね」
ルーミア「え、嘘!?」
早苗「うへぇ……」
レミリア「まあ、〈消臭剤〉さえ飲まなければいい話だけどね」
咲夜「ん? それでは、こいしさんは運営に危害を加えたということになりませんか?」
青娥「あらあら。ここで〈追放〉されちゃいますね」
こいし「えぇー!? まだ誰も殺してないのに!」
さとり「いや、それはもう止めなさい」
紫「うーん。そうは言ってもねえ。こういう〈香水〉の使い方って、本当に想定外だったのよ。だって自分も使用する上水に、普通毒なんて入れる? 本来ならルール違反で〈追放〉するべきなんでしょうけど、知っての通り私達は、〈17人目〉の情報を隠しているわよね? 『〈17人目〉への数少ない攻撃手段を思いつき、それを実行しようとした』と解釈して、今回は大目に見ようかしら」
こいし「あー良かった。〈追放〉されるのかと思った」
紫「それと、私達は確かに〈香水〉を飲んだけど、妙なことは考えないでね? 例えば橙を騙して〈消臭剤〉を飲ませたりなんかしたら――同じ手段で報復した後に、学級裁判抜きでそのプレイヤーを〈追放〉するわよ?」
霊夢「……」
魔理沙「……了解」
さとり「こいし、DAY05について他に話すことはありますか?」
こいし「他に? DAY05からDAY06になってすぐの時かなあ。つまり咲夜もレミリアも部屋に戻ってからだね。ええとね、水の色が変わってないのがなんでかよくわからなくて、念のため厨房の水道から出る水も確認しに行ったんだ。やっぱり緑色の水なんて出てこなかったけど。そしたら食堂で変な物を作っている人がいた」
こいし「うん。ルーミアは祭壇を作り終えた後で――図書室に向かった」
ナズーリン「図書室……?」
マミゾウ「ということは、だ。つまり――」
ルーミア「え? 全部こいしに見られてたの!?」
こいし「見てたよ。――ペンキでデカデカと文字を書いてたよね。しかも本の上から」
マミゾウ「そしてペンキで『残り8日』の文字を書いた後、書庫に文字を書く過程で生じた道具は捨てたというわけじゃな」
こいし「そう。本当に最悪だよね」
マミゾウ「む……?」
こいし「読書家のお姉ちゃんがまだ読んでない本だって、いっぱいあったのに。信じられない」
ルーミア「ええ、と?」
さとり「こいし、貴方は少し勘違いをしていますね」
こいし「なんでさ。お姉ちゃんだって嫌だったんじゃないの? ルーミアが落書きした本の中にはまだ読んでいない物だって含まれていたかもしれないし」
さとり「あの棚の本は、既に全部読んでありました」
こいし「え?」
ナズーリン「いや、棚一つと言っても、かなりの分量だぞ!? たった一週間そこらで読み終えてしまったのか!?」
霊夢「そういえばあんた、図書室の本を読破する勢いで読んでたらしいわね」
咲夜「こいしさん、塗料が付着した本の中身って――確認しましたか?」
こいし「ん? してないよ?」
咲夜「ソフトカバーの書籍ならともかく、分厚いハードカバーの本でしたら、塗料はそれほど内部に浸透しません」
こいし「え、そうなの?」
さとり「……」
ルーミア「……」
こいし「え、ええと……」
レミリア「ほら。今はそのことを話している場合じゃないでしょ。こいし、人形のことについて訊きたいのだけど――」
こいし「ん?」
こいし「うん。以前読んだことがあったから」
レミリア「そう。貴方もミステリー小説を愛好しているのね。他には何か『見立て殺人』の計画は立てていたの? あの人形で最後にするつもりだった?」
咲夜(お嬢様は普段から読書は嗜んでいませんし、この前もミステリー『漫画』を読んでいただけですけどね)
早苗「代わりの物、と言いますと?」
こいし「最初の日みたいに、食堂にペンキでメッセージを書こうとしてたんだよ。でもさ、書庫のほうにメッセージがあって、更に食堂にメッセージを書くのって、なんだかおかしくない? かっこよくないっていうか。もう、本当に台無しだよ! 全部!」
早苗「あれ? ルーミアさんがずっと祭壇を作っていたから何かを仕掛けられなかったわけではないんすか?」
こいし「違うよ。犯行予告が二つもあるのって、なんだかださくて嫌だと思ったから書かなかっただけ」
ナズーリン「こいしの感性は、本当によくわからないな……」
ルーミア「……うん。食堂で祭壇を作った後、図書室にメッセージを残した。だけど、こいしが近くにいたなんて全然気付かなかった」
さとり「こいし。DAY06には、具体的にどのように動いたのですか?」
こいし「私は少し眠ってから、〈香水〉と〈消臭剤〉の瓶を持って、朝の食堂に待機してた。そして、全員のお茶に〈香水〉を入れた」
さとり「どうしてですか?」
こいし「以前どこかで見たトリックを使ってみたいと思ったんだ。『全員が同じ物を食べたのに、一人だけが毒を盛られて殺されちゃう』、って感じのトリック」
早苗「あー、たまに見ますねえ。刺激物を料理に混入しておいて、取り乱す被害者に渡した水の方に毒を入れておくとか」
こいし「そうそう。そんな感じのやつ。私は上水道を使って全員に毒を飲ませるのは無理だと思ったから、ピンポイントでプレイヤーを狙うことにしたんだ」
魔理沙「実際は全員、水道から摂取したことで、何かしらのタイミングで毒を体内に取り入れてたんだけどな」
咲夜「料理や洗濯、入浴に水が使われないことなんて有り得ませんものね」
こいし「うん。それに気付いてれば、多分全員の料理に〈消臭剤〉だけ入れてたと思うけど」
霊夢「だけど貴方は、あの場に居た私達の料理には〈香水〉だけを入れ、〈消臭剤〉は入れなかった。どうして?」
こいし「ルーミアの料理にだけ〈消臭剤〉を盛ることにしたんだ。直前でね。量にしたら、ほんの一口分だけど」
ルーミア「…………そ、そうだったんだ。もしかして、私が料理を口にした順番によっては――」
霊夢「恐らく、毒で死んでいたわね。でもそこでアクシデントが起きた。こいしが緑茶に〈香水〉を混ぜてしまったことで、朝食そのものが中断されてしまった。なんで緑茶に〈香水〉を混ぜたの?」
こいし「いや、他に緑色っぽい食べ物もなかったし。昨日だって、紅茶に入れても誰も気が付かなかったから、今回も気付かれないかなって思って」
魔理沙「いや、紅茶と緑茶じゃ全然味も臭いも違うだろ。普通に気付くわ!」
こいし「てへ☆」
マミゾウ「馬鹿者! 茶化せることではないだろう! こいしよ。姉が不健康に入り浸っている書庫へ落書きをされた、というのが未遂とはいえ犯行の動機なのか!?」
こいし「う、うん。ごめんなさい」
さとり(あれ? 今、私なんだかマミゾウさんにひどいことを言われたような)
マミゾウ「全く……厄介なことをしおって。〈消臭剤〉は油性でもなく、無臭なのじゃぞ? 誰かが同じように上水道に投入してしまったら、わしらは全滅じゃ」
早苗「そう考えると、やっぱり〈香水〉って使いにくいような……。実際の所、〈香水〉ってどうやって使うのが正しいんすかね? それこそ臭いの強い紅茶とかでもないと、混入が難しく無いっすか?」
咲夜「いえ。出来なくはないと思う。例えば蒸発させて粉末状にし、食事に練り込んでしまうとか」
てゐ「違う違う。そもそも〈消臭剤〉を先に飲ませればいいんだよ。こいしみたいに〈香水〉を先に仕込めば、誰かに勘付かれて次の食事から警戒されるかもしれないけど、〈消臭剤〉を先に飲ませておけば、少し飲んでから気付いても後の祭りってやつじゃん。すぐに吐き出しても間に合わない危険性がある。医者の所に住まわせて貰ってる身としては、あんまり推奨したくないけど」
青娥「すみません、皆さん。もしかして皆さんは〈消臭剤〉という凶器に対して思い違いをしているかもしれません」
魔理沙「え? 何をだ?」
青娥「凶器の説明文をもう一度読んでみてください。『どんな臭いも一瞬で中和してしまう』と書かれています。つまり〈消臭剤〉を、普段私達が食べるような物――例えばサンドイッチやお味噌汁なんかにかけた場合、どんな味や臭いがすると思いますか?」
ルーミア「ええと――味は変わらないんだよね。でも、臭いだけがしなくなる?」
紫「ご名答。そうよ。マヨネーズケーキでしょうがイナゴの佃煮でしょうがシュールストレミングでしょうが、味は感じるんだけど、ぜーんぶ臭いはしなくなっちゃうの。ある意味全ての凶器の中で一番ミステリアスなアイテムね」
てゐ「いや、どんな成分が入ってるのさ」
紫「出どころを知りたいかしら?」
てゐ「……わかったからいい」
青娥「〈消臭剤〉は大抵の飲食物を『無臭ではあるけど味だけがする』という異質な物に変えてしまいます。つまりこれを標的が口にする物に仕掛けたい場合――何に仕掛けるべきだと思いますか?」
ルーミア「……うーん」
マミゾウ「ルーミア、ヒントじゃ。『この会場で最も総量が多い飲食物』、と言えばわかるかのう?」
ルーミア「あ! わかったかも!」
マミゾウ「ほう。なんじゃいな?」
ルーミア「こんにゃく!」
マミゾウ「なんでそうなる!? 『水』じゃ!」
青娥「あ、あの、マミゾウさん。ルーミアさんが言ったことも、あながち間違ってないかもしれませんよ?」
ナズーリン「確か青娥の能力で〈壁抜け〉が出来ないように、エリアの外側にはびっしりと詰めてあるらしいな……直接確認したわけでは無いが。会場にはかなりの量のこんにゃくが存在することになる」
魔理沙「水に入れるのがベストだろうけど、こんにゃくだって強い臭いがする種類の食べ物じゃないから、仕掛けるのに適しているかも知れない。〈香水〉と〈消臭剤〉は真逆の凶器だ。仕掛けるべき対象が『臭いの強いもの』と『臭いのしないもの』なんだからな」
咲夜「そう考えると――なかなか鋭い解答ですね」
早苗「そういえば紫さん、なんでこんにゃくを敷き詰めたんすか?」
ナズーリン「そもそも〈壁抜け〉の仕様を最初からエリア外に侵入出来ないようにすればよかったのでは? 会場の規模からすると私達が移動できる倉庫やスーパーマーケット以外の場所にも資材や日用品等は保管されているのだろう? スキマで会場を区切るほうが簡単では?」
紫「……」
早苗「紫さん?」
紫「……次からそうするわ」
霊夢「いや、次なんて絶対許さないわよ。今度は誰を集めてゲームをやる気よ」
レミリア「貴方達、こんにゃくについて真面目に考え過ぎだから。ほら、さとり。こいしに先を続けさせなさい」
こいし「えー? もっとこんにゃくの話聞きたーい!」
さとり「こいし。自白中に気を逸らせないでください。こんにゃくぶつけますよ? 計画が失敗した貴方はどうしましたか? 何故バックヤードに〈香水〉と〈消臭剤〉の瓶を捨てたのですか?」
こいし「え? 決まってるじゃん。もう〈香水〉と〈消臭剤〉に飽きちゃったからだよ。気持ちが萎えたっていうか。私ならいくらでも他の武器を調達出来るし」
さとり「……やはりそうでしたか」
てゐ「ちょっと待って。あんた、妹の犯行だって最初から気付いていたの?」
さとり「はい。DAY05の時点で、ほぼ間違いなく妹が関与していると確信していました」
ルーミア「……家にあった人形が置かれていたから?」
さとり「それもありますが、DAY05のティータイムの時、私の紅茶にだけ〈香水〉が仕掛けられていませんでした。皆さんが紅茶を飲んでいる時の感想をずっと〈読心〉していましたが、眼の前にあった紅茶とかなり違っていたので気がつきました」
てゐ「へ? いや、だったら教えてよ! 一歩間違えれば本当に全滅していた危険性があったんだよ!? ギリギリルール違反にはならないでしょ?」
霊夢「こいしを刺激しないため、でしょ?」
さとり「その通りです。私が〈香水〉の件をその場で話せば、自棄になったこいしが二つの凶器から〈無味無臭の毒薬〉を作り出し、毒を誰かに無理やり飲ませてしまうことも考えられました」
てゐ「……あー。普通にやりそう」
こいし「や、やらないし! 〈無味無臭の毒薬〉なんてつまらない凶器、面白いトリックが作れないじゃん」
さとり「上水道への混入は私にも予想外でしたが……。彼女の身内とはいえ、こんなだいじな事を黙っていて、本当にすみませんでした」
マミゾウ「お主はこいしを溺愛しているからのう。そこは庇いたくなるのも仕方がない。だが、どの道こいしの目論見は外れていたことじゃろう。あの状況で茶に毒を混入できるのは、わしかこいしか咲夜くらいじゃからな」
魔理沙「タイミング?」
ナズーリン「ああ。そこをはっきりさせておきたい。まず〈香水〉と〈消臭剤〉は共に朝食に仕掛けられていたのだから、食堂の検索結果については何も問題はない。だがバックヤードの方の反応はどう説明する? 私は食事の中断後すぐに〈ダウジング〉を行った。ところがこいしは毒が仕掛けられる直前まで食堂にいたのだろう? どうやって瓶をバックヤードに移動した?」
早苗「バックヤードの瓶? それは最初からそこにあったのでは――というのは無理っすね。こいしさんは食堂でルーミアさんに〈消臭剤〉を使ったわけですから。瓶の中身だけ別の容器に移しておいたんすか?」
こいし「ううん。そんなことしてないよ?」
霊夢「――こういうことじゃない? まず食堂の反応は〈香水〉と〈消臭剤〉で一つずつだった。〈香水〉は食堂にいた全員のお茶に入っていたけど、カップ自体は密集していたから1カウントだった。そして〈消臭剤〉もルーミアの料理のみに含まれていた分で1カウント。もし話に出たように二つの凶器が混ぜて使われていたら――つまり〈無味無臭の毒薬〉が精製されていたら、ナズーリンの検索結果はまた違う物になっていたでしょうね。ちなみにこいし自身が手に持ったままの瓶は、〈無意識〉が発動することでカウントされないはず」
さとり「……」
霊夢「ではバックヤードの方はと言うと、〈香水〉は貯水槽に注がれていたのだから一応説明がつく。でも〈消臭剤〉にまで反応があるのはおかしいわよね? つまりね、こいしはナズーリンが〈ダウジング〉をするより前に――食堂から遠ざかっていた」
こいし「さっさと逃げちゃった。走れば〈ダウジング〉の前に〈消臭剤〉を捨てられると思って」
青娥「貯水槽の近くに〈香水〉と〈消臭剤〉を放棄した理由というのはなんでしょう?」
こいし「えっとね。どこに〈香水〉と〈消臭剤〉の瓶を捨てるか迷ったけど、貯水槽の近くに捨てておいたほうが、上水道に〈香水〉を入れたことに気付いて貰えると思って。上水道に〈香水〉を入れたことって、ナズーリンの〈ダウジング〉にちゃんと反映されるかわからなかったし」
早苗「え? なんすか、その変な優しさ……」
咲夜「気まぐれ過ぎて……何がなんだか……」
こいし「あ、それかっこいい! 採用!」
ルーミア「ええと、げき、じょう? なにそれ」
さとり「『劇場型犯罪』、それが演劇の一部であるかのような犯罪の事を指します。ゲーム初日からDAY01に掛けてのメッセージ、14体の人形による犯行予告、一見無駄な部分が多い〈香水〉と〈消臭剤〉の使い方――ナズーリンさんの見立ては正しいと思います」
こいし「あーあ。全部ばれちゃったね。次はもっと頑張るから! 多分今度は毒を仕掛けないと思うなあ。ご飯が丸ごと捨てられちゃうってわかったし」
てゐ「! あたし、今の一言が、一番納得いったわ! あんたは初日からずっと、食事や間食をつまみ食いしてたわけだ。つまり咲夜の料理の味を知っている。確かに美味いもんね、咲夜の料理。貴重な凶器を二つも放棄したそもそもの理由はそれなんだね」
咲夜「てゐさん……」
てゐ「ま、さっきみたいなことがあったけど、これからも生活全般に関してはよろしく頼むよ。乾パンなんか食べてたんじゃ、残りの日数持たないし」
咲夜「――はい!」
さとり「こいし」
こいし「なあに?」
さとり「能力のせいで孤立しているとはいえ、これからも皆さんと共同生活を続けていくのです。まずはルーミアさんに謝っておきましょう」
こいし「えー。元はと言えばルーミアが――」
さとり「こいし!」
こいし「ひゃあ!」
さとり「……」
こいし「わ、わかったよ、ちゃんと謝るって。そんな怖い顔しないでって。……ルーミア、ごめんね?」
ルーミア「い、いいよ。私もみんなで読むための図書室の本を汚しちゃってごめんなさい」
こいし「でも、なんで図書室の本の上にメッセージを書いたの? 体育館の前でもトラッシュルームの中でも、一日のどこかで目につく所ならどこでも良かったじゃん」
ルーミア「! それは、その……」
早苗「まあまあ。いいじゃないですか。とりあえず、こいしさんの毒では誰も死なずに済んでよかったですよ。これにて、一件落着っすね!」
魔理沙「いや、その真逆だろ。まだまだ解決していないことが多過ぎる」
ルーミア「え?」
霊夢「どうして祭壇を作ったの?」
ルーミア「ええと、それは……」
青娥「――ルーミアさん」
ルーミア「ん?」
青娥「少し風向きが変わってきています。ここは皆さんに対して、全てを打ち明けてしまうべきでしょう」
ルーミア「――その方がいいの?」
青娥「ええ、間違いなく。ルーミアさんもチルノさんを殺害した犯人を特定したいのでしょう? それでしたら、隠していることを包み隠さず皆さんに話してしまうべきです。祭壇を作った理由が、チルノさんを騙して凶器を奪うためだったことも含めて」
06
ナズーリン「チルノを騙して、凶器を?」
早苗「チルノさんとルーミアさんって、仲が良さそうでしたよね。違ったんすか?」
ルーミア「それはそうだけど……」
青娥「どうですか? ここにいる皆さんは頭の良い人達です。彼女達なら必ず――」
ルーミア「いや、やっぱり駄目だって! この中にチルノちゃんを殺した犯人がいるんでしょ!?」
青娥「それはそうですが、ここにいるのは今回の事件の真相解明を望む人がほとんどです。DAY04からDAY07の中で、貴方が起こした行動を理由も踏まえて――」
マミゾウ「青娥。待たんかい」
青娥「はい?」
マミゾウ「ルーミアに入れ知恵したのは、お主じゃな?」
青娥「ふふふ。どうしてそう思うのでしょうか」
マミゾウ「とぼけるでない。それじゃ話が先に進まんじゃろう。まずは『縛られていたから会場の様子を知らなかった』とかいう、くだらん証言。あれを撤回して貰おう」
青娥「あら? 私は能力を使えないように完全に拘束されていましたし、医務室に移された後も自由に動けませんでしたよ?」
青娥「さあ、それはどうでしょうねえ」
ルーミア「えー!? 私、青娥に沢山情報を渡してあげてたのになんで!? ――あ」
青娥「あらら。バレてしまいましたわね」
マミゾウ「かっかっか。ルーミア、ワンナウトじゃな。だが少し話しやすくなったのではないか?」
青娥「ルーミアさん、怒らないでくださいよぅ。私はただ、貴方とお話する時間が楽しかったんです。ごめんなさい」
ルーミア「……まあ、それならいいけど。たくさん相談にも乗って貰ってたし」
レミリア「ん? ああ。咲夜と二人の時に話し合ったけど、その線で運営を追及するのは無駄よ。そのカードには運営に対する拘束力が一切無いから」
妹紅「拘束力が無い? でも現にこうして、このカードには7つのルールが書かれているぞ?」
咲夜「権限の7番を見て頂けますか。そこには『ゲームのルールには従わなければいけない』と書かれています。つまり、運営は現在判明している15個のルールに従って行動しなければならないだけであって、そのカードに従って行動する必要はないのです」
妹紅「む……。そうだったのか」
霊夢「まあ、干渉について言えば、私も個人的に紫を何度も呼び出して、ビデオカメラについて相談してるのよね。バッテリーの交換までやって貰ったし。〈17人目〉を経由する、という体裁でだけど」
ナズーリン「そのカードはあくまで運営の能力の説明のためにある、ということか。運営はプレイヤーに対して平等でないといけないからな」
ルーミア「……私はある人物をDAY06のうちに殺そうとしてたんだ」
早苗「!」
マミゾウ「……ほう?」
こいし「誰かな? わたし? それとも青娥?」
さとり「〈17人目〉――ですね?」
こいし「あの狐のお姉さん? 彼女って普通に運営っぽいけど、そうじゃないの?」
ルーミア「はぁ!? こいしや青娥は居なかったかも知れないけど、みんなで出した結論なんだよ!? 今更そんなこと言われても困るよ!」
こいし「ご、ごめん……」
てゐ「いや、確かにそこに着地したけどさぁ」
ルーミア「ただ、今の私が誰かを殺そうとしても、避けて通れない問題が一つあったんだ」
てゐ「問題?」
青娥「はい。ルーミアさんは皆さんも知っての通り、極上の凶器を持ってなかったのです」
ルーミア「うん。まずは凶器を手に入れる必要があった。だからそのことについて、青娥に思い切って相談したんだ」
マミゾウ「青娥。ルーミアは最初の事件を起こしたばかりじゃぞ? それをわかっていて拐かすなぞ――」
ルーミア「違う。青娥は全然悪くない! 軽く痛めつけた後なのに、それでも青娥は相談に応じてくれたんだよ!?」
ナズーリン(……『軽く』?)
早苗(『軽く』ってなんでしたっけ)
ルーミア「私は青娥に、安全に凶器を取得する方法について教えて貰ったんだ」
青娥「付け加えるのなら、穏便に、です。何故穏便に事を進めたかったかと言うと――ルーミアさんが凶器の有無と種類を確実に把握している人物、それがチルノさんだけだったからです」
早苗「それってつまり私達が皆さんの凶器を回収して、例のボーナスルールが配信されてから再取得していたってことですよね。う~ん、ああ見えて抜け目ないっすねえ」
レミリア「チルノも貴方と同じように、虎視眈々とゲームでの勝利を狙っていたの? 貴方や青娥ほどには攻撃的なプレイヤーに見えなかったのだけど」
咲夜「そのことについてですが、よろしいですか。文さんが殺される前、戯れに早苗が皆さんに聞いていましたよね? 殺意を持っている人は手を挙げてください、と」
てゐ「そんなこともあったね。あんたんところのご主人様もチルノと一緒になって手を挙げて――って、あれ? チルノも手を挙げていた?」
咲夜「そうです。チルノさんはゲーム初日、何らかの理由からゲームに積極的に参加するつもりがあったのです」
ナズーリン「ゲームに勝利して何か手に入れたいものでもあったのだろうか?」
ルーミア「多分特に欲しい物なんてなかったと思う。DAY02の追加ルール解禁ってお昼の12時だったでしょ? チルノちゃんが手を挙げていたことは当然覚えていたから、私がルールブックの追加ルールに気付いた時、チルノちゃんにもそのことを教えてさ。私達はDAY02の12:30くらいに凶器を取りにDDSルームに行ったの」
早苗「へえ。ずいぶん早く気付いたんすねえ」
ルーミア「でもいざDDSルームの目の前に行ったらさ、チルノちゃんはなかなか部屋を利用しようとしなかったんだ。その頃には誰かを殺そうとする気持ちは失せてたんだと思う。そもそも青娥が配っていた凶器のリストを、チルノちゃんは午後になっても持ってなかったし」
青娥「そうですね。その日たまたまチルノさんと会った時、凶器のリストについて直接聞いてみたら、『私はリストなんていらない』とはっきりおっしゃっていました」
ルーミア「それでも私は食い下がって、チルノちゃんにこう言ったの。『すぐに壊れちゃう〈氷細工〉だけじゃなくて、護身用にしても何か武器を持っておいたほうがいい』って。それから私は〈暗視ゴーグル〉と〈ナイフ〉を取得して、チルノちゃんも一つだけ極上の凶器を取得した」
こいし「へーえ。何の武器?」
ルーミア「――〈水晶玉〉だよ」
さとり「極上の凶器No.14、〈葉隠流水晶〉ですね」
こいし「そうだったんだ。でも他にも強い武器っていっぱいあるよね。もしかしてDDSルームについた時、凶器が残り少なかったのかな?」
ルーミア「そんなことないと思うよ? 私がDDSルームに着いた時には確か、残りの凶器の数は11個だったかな」
レミリア「まず、私達が所有していた〈トラバサミ〉は保管されていなかった。これは間違いないわ」
こいし「それなら、私が〈香水〉と〈消臭剤〉を取得したのが一番最初だね」
マミゾウ「こいしが一番最初に二つの凶器を取得し、その次がわしが取得した二つの凶器――〈マスターキー〉と〈金塗りの模擬刀〉じゃな」
早苗「こいしさん。確認したいのですが、貴方がDDSルームに着いた時、端末は直っていましたか?」
こいし「うん。新品のピッカピカだった!」
魔理沙「紫。お前は『運営の裁量次第で、端末はいつ直すかわからない』みたいなことを言ってたが、実際の所はさっさと端末を交換してたわけだ」
紫「だって、ボーナスルールを追加するなら、端末を復活させることもセットで行わないと意味がないじゃない?」
魔理沙「――お前、私達の行動に合わせて、DAY02の方針を変えるつもりだったな? 私達が団結すれば延々と修理を先延ばしするつもりだっただろうし、私達がすぐにバラバラになって解散したから、さっさと端末を直したわけだ。全く、いやらしいことをしやがるぜ」
紫「ふふ。でも、破壊したのは〈17人目〉よ? 貴方達と同じプレイヤーのね」
青娥「ルーミアさん。先をどうぞ」
ルーミア「う、うん。私が凶器を選んだ理由は、〈暗視ゴーグル〉は能力と噛み合うから当然だとして――音が出る武器ってあんまり使いたくなかったんだよね。〈無味無臭の毒薬〉を使うことも考えたけど、やっぱり自分の手で直接始末出来る武器のほうが安心感があったし。幻想郷で『狩り』をする時には『調理器具』や『解体道具』なんかは用意することがあるけど、武器そのものは持ち歩かないんだけどね」
早苗「ルーミアさんって普段『何』を狩ってるんだろ……」
ルーミア「あ、チルノちゃんは一番相手を傷つける危険性が低い凶器を、嫌々一つだけ選んだ、って感じだったよ。でも〈水晶玉〉の見た目自体は、綺麗だから気に入ってたみたいだけどね」
早苗「ということは一回目の学級裁判の時にチルノさんは――」
ルーミア「そうだよ。私の凶器のこと、ずっと黙っていてくれてたんだ」
マミゾウ「人数もほとんど減っていない、あの緊迫した議論の中でか? なんとも剛毅なことじゃ……」
青娥「――それについては私が説明しますわ」
青娥「突然ですが皆さん、頭の良い人を騙す方法ってご存知ですか? 例えば博麗神社でも守矢神社でもいいんですが、そこで『毎日念じ続ければ空を飛べるようになる御札』を売ろうとしたとしましょう。祈祷すら済ませてない、妖怪に対して何の効力もない御札です」
霊夢「何よその悪どい商売」
早苗「……」
魔理沙「早苗、そんなのこっそり売り始めたら、流石の私でも神奈子達にチクるぜ?」
早苗「や、やりませんよそんなこと! 私は霊夢さんみたいにお金にがめつくありませんから!」
霊夢「早苗。幻想郷に戻ったら覚えておきなさいよ」
青娥「ふふ。みんなで戻れると良いですわね。――例えばそんな御札があったとして、これを一般の人に売ろうとする場合、まず幻想郷で空を飛べる人物のリストを見せます。もちろん御札の力で実際に飛べるようになった人達ではありませんよ? 『みんなこの御札を持っています。これを買えば貴方も空を飛べるようになりますよ』とアピールして騙すのがオーソドックスなやり方でしょうね」
レミリア「そんなのに引っかかる人間がいるのかしら……」
青娥「そうですね。賢い人なら引っかかりませんよね。だから頭の良い人に対しては、少しやり方を変えます。結論を示さずに、情報だけを与えるんです。神社で授与している物品のリストと、ここ数年の購入者の傾向のみを示します。もちろん嘘の情報が混じった資料です。資料だけを与えることで、『御札を買った人間はみんな空を飛べる。もしかしてこの御札を大切に持っていれば、いつか空を飛べるようになるのでは』と、自ら推測させるんです。自ら頭を捻って出した結論ならば、それを自分で疑うことは難しいんですよ」
ナズーリン「ほう?」
青娥「だから聡明なチルノさんには――自ら結論に至って貰おうと考えたんですよ。私がルーミアさんに示した奪取方法は――『自分が誰かに命を狙われている』とチルノさんに相談することでした。ルーミアさんが私に対して行った尋問を鑑みれば、他プレイヤーから危険人物だと見做されていて、その結果生命の危機に晒されているという主張もおかしくありませんよね?」
レミリア「あの時、その場にいたみんなドン引きだったからねえ……」
ルーミア「え、そうだったんだ……ごめん」
レミリア「い、いや、そうでもないかも? なんというか、その――」
ルーミア「え? うん。そうだよね。あー、良かった!」
てゐ「あのさ、レミリア。そろそろ自分の失態を、部下にフォローさせるのやめない?」
レミリア「な、何よ! わかったわよ。今度は私が料理を作るから!」
咲夜「え? もう厨房に入らないで欲しいんですが……」
レミリア「私へのフォローはないの!?」
マミゾウ「青娥。先程ルーミアの口から、〈水晶玉〉と〈氷細工〉の話が出たな。能力のほうにはデメリットがある話が。それについてはどう考える?」
青娥「話が早くて助かりますわ。そうです。チルノさんは自分を守るために必要な凶器を、いつだって無から作り出せるんですよ――氷の凶器を。対してルーミアさんは違う。緊急の対策として闇を作り出せても、自分自身でさえ〈暗視ゴーグル〉無しでは闇の中を自由に動き回れない。最初の事件の時にマミゾウさんがそうしたように、壁伝いにその場から逃げることは出来ますが。ですが――チルノさんが四六時中ルーミアさんの隣にいるわけにもいきません。ルーミアさん自身の護身のためには、必ず何らかの凶器が必要なんです」
ナズーリン「その凶器というのは、〈暗視ゴーグル〉の単独使用も含めての話だな? 武器はなくとも、〈暗闇〉と〈暗視ゴーグル〉さえあれば、大抵の殺人者の襲撃は回避出来るだろう。〈暗闇〉はエリア全体が対象だから、襲撃された段階で他のプレイヤーがルーミアの捜索を始めるだろうからな」
マミゾウ「言われてみれば、『逃げ』にもだいぶ活用出来る能力じゃのう……」
ルーミア「――私は青娥にアドバイスされた通りに、チルノちゃんにその話をしたんだ。ところが、だよ? チルノちゃんは、『それならずっと一緒にいて、あたいがルーミアちゃんを守ってあげる。一緒の部屋で寝てあげる』って言ったんだ。しかも本気で。私があんなことをした直後なのに、守ってくれようとしたんだ」
魔理沙「チルノ……」
ルーミア「正直傍迷惑だったよ。そもそも私は自由に動き回りたいのに。だから私は思い切ってやり方を変えようと思った。だけどそのやり方って、少し技術的な問題があったから、手先が器用そうな青娥に改めて方法を聞いたんだ」
ナズーリン「なるほど。それが仏壇に対して独自の飾り付けを施した祭壇だったのか」
青娥「はい。ルーミアさんがチルノさんから〈水晶玉〉を手に入れるために考えた方法はそういうものでした。正直私も訊いた時に最初びっくりしたんですが……」
てゐ「まあ、ルーミア一人で設計したにしては、本当によく出来た祭壇だったものねえ。『そもそもどこで仏壇の作り方なんて覚えたの?』って感じだった。外界ならともかく、幻想郷ではまだそこまで仏教は浸透していないはずなのに」
ナズーリン「う……耳が痛い話だ」
早苗「あの――それって別に祭壇じゃなくても良かったと思うんですが?」
青娥「あ、あの。飽くまでも『仏壇』として制作をお手伝いしたのですからね? 素敵な作品が出来上がったと思いますが」
ルーミア「祭壇が倉庫に運ばれるとチルノちゃんは私がそうしたように飾り付けを始めた。私が図鑑をチルノちゃんに見せたのも、その時だよ」
咲夜「図鑑? では、チルノさんの部屋にあったあの本――龍の彫像について書かれた美術図鑑は、ルーミアさんが図書室から持っていった物なんですね? 美術室に偽物の犯行予告をしたのもルーミアさんだという話ですが、その一連の行動は『盗まれた本は何なのか』を特定されないために行ったことなのでしょうか? 塗料に塗れた本がまとめて処分されれば、その中に本来あったはずの美術図鑑がなかったとしても気付かれないと考えたのですね」
さとり「メッセージが上書きされた書物は一切処分していませんよ。背表紙が多少汚れたとはいえ、貴重な本ばかりですからね。蔵書の目録だってあるのですから、一つ一つ確認することだって出来ます」
ルーミア「……う。目論見が外れちゃったわけだ。その後の事を話すと、凶器が無事手に入って八雲藍を殺害出来たら、美術図鑑はこっそり処分するつもりだったんだ。図鑑さえなければ私がチルノちゃんに依頼したって証拠も消せると思って」
霊夢「まとめると――貴方は青娥と相談して、チルノから凶器を手に入れる方法を考えた。DAY05の夜のうちに祭壇を作り終えた貴方は、図書室にメッセージを残してから、美術図鑑を盗んだ。祭壇はその後倉庫に移され、チルノは出来上がった祭壇を見て、自分も同じように飾り付けをしたいと考えるようになった。作業に没頭するチルノに対して貴方は『こんな物を〈氷細工〉で作ってはどうだろう』と提案した。チルノは氷で龍を具現化し、細部を図鑑の完成品に合わせて削り始めた。全く、面白いことを考えるわね」
青娥「本当に面白い発想ですよねえ。チルノさんやルーミアさんのように、言い方は悪いですが『野良の妖怪や妖精』にとって仏壇というのは、ちょっとおもしろい形をしたオブジェに過ぎないのですね」
ナズーリン「罰当たりと言えば罰当たりだが――魂入れを終えた御本尊も無いのなら、そこまで責められるべき行いではないのかも知れないが……」
妹紅「私がチルノに直接聞いた話とも一致してるな」
てゐ「うん、矛盾はないね」
妹紅「だけど、ちょっと待ってくれ。ルーミアが図鑑をチルノに見せたとして、それでどうやって〈水晶玉〉が手に入るんだ?」
青娥「……はい?」
てゐ「いや、流石にわかるっしょ!?」
妹紅「え? いや、すまん。龍の彫刻と何か関係があるのか?」
ルーミア「……あの図鑑、よく見た? あの彫刻の龍ってさ、なんか丸っこい物を持ってたよね? その丸い物がある部分に、チルノちゃんが〈水晶玉〉を使ってくれると思ったんだ」
ナズーリン「『龍玉』――仏教では『如意宝珠』と呼ばれている物だな。元々はインドの蛇神信仰による伝説が古代中国に伝わり、蛇神が龍のことだと翻訳されると、龍が持つ宝玉であると解釈された」
ルーミア「だけど、何度様子を見に行っても、チルノちゃんは龍の手の部分に〈水晶玉〉をはめる気配がなかったんだ。もちろん私から『そこに〈水晶玉〉をはめるとどうかな?』なんて催促するわけにもいかなかったけどね」
妹紅「そうだな。私が見に行った時も、龍玉の部分は、体全体と同じように氷で出来ていた。でもその時それが〈水晶玉〉だったら流石に私でもチルノに注意すると思う」
早苗「――それから、何があったんすか?」
ルーミア「ええと、その後は――」
ルーミア「……うん」
妹紅「そうだったのか。ルーミア、その時間に何があったんだ?」
ルーミア「 23:30くらいにチルノちゃんの様子を見に行ったらさ、無くなってたんだ。龍の氷像」
早苗「え? 無くなってたんすか!?」
ルーミア「そう。跡形もなく。他の飾り付けはそのままだったよ。氷や水の跡も無かった」
てゐ「ん? 倉庫の中にも、その周辺にも氷像を移動した形跡が無かったってこと? つまり、室内で氷像を壊した後で、ビニール袋にでも入れてトラッシュルームに捨てに行ったってこと? 室内で無理やり焼却処分しようとすれば火災報知器が鳴っちゃうだろうし」
レミリア「まあ、何らかの方法で処分したのでしょうね。床に叩きつけられたと思わしき氷像は、目視でわかるくらい形が保たれていたけど」
咲夜「それは――妙ですね」
青娥「――気が付きましたか? 捜査時間中もその話が出ましたが、チルノさんの遺体の近くにはまだ形を残した氷像が残っていました。いくら能力で具現化した氷像とはいえ、23:30より前から常温の場所で保管されていたのなら、まずあの形を保てません。それに氷像をトラッシュルームまで運ぶ際には、どうしても床に水跡を残すことになります。しかしナズーリンさんの〈ダウジング〉にも引っかからず、目で見えるような跡は倉庫からトラッシュルームへの道筋には一切残っていませんでした」
ルーミア「私が見た時も、そういうのはなかったと思うけどなあ。氷像から落ちた水滴や小さな氷の欠片は乾いちゃったんじゃないの?」
早苗「どういうことなんすかね?」
ルーミア「続けるよ? 私は氷像がチルノちゃんに隠されたことにはすぐに気が付いた。これじゃまずいと思って、倉庫を少し探してから慌てて廊下に出ようとしたんだ」
こいし「慌てて? なんでー?」
ルーミア「チルノちゃんに凶器だけじゃなくて、〈暗視ゴーグル〉まで隠されると思って」
マミゾウ「……てゐが先程言っていたな。〈幸運〉や〈奇跡〉がなくとも、DDSルームのチャレンジ自体は可能じゃ。つまり――」
ルーミア「うん。私はDDSルームで三回目の賭けに挑戦するつもりだった」
マミゾウ「そこまでの覚悟で――八雲藍を仕留めようとしていたのか」
早苗「三回目!? 3/6の確率で弾が飛び出してくるんですよ!?」
ルーミア「だって――それで文と勇儀が救えるならいいじゃん」
霊夢「……そういうことだったのね」
てゐ「――ルーミア」
ルーミア「何?」
てゐ「そこまでして武器が欲しいんだったら、今度は私に相談して。ロシアンルーレットなんかで死んじゃ駄目」
ルーミア「――え?」
てゐ「本当はあんたに誰かを殺して欲しくないけど、『みんなを救うため』に動いているルーミアが、あんな機械に頭をぶち抜かれて死ぬくらいなら、〈幸運〉を貸してあげるから。ここにいる他の奴らになんて、貸さないけど」
ルーミア「てゐ……」
マミゾウ「おい。待たんかい。てゐとルーミアの気持ちはわかる。だが、その交渉については異議を唱えたい」
てゐ「は? 別に勝手じゃん。私の能力をどう使おうが」
てゐ「えー、あんたって本当に検索結果を全部共有してるのー? 毎日三回まで〈ダウジング〉を使えるはずなのに、それにしては私達と共有している情報が少ない気がするんだけどなー?」
ナズーリン「ぐっ……」
ルーミア「……チルノちゃんが扉を開けて中に入ってきた」
魔理沙「!」
早苗「――チルノさん、私達が思うよりもずっと賢い妖精さんですからね。〈水晶玉〉についての目論見も全部お見通しだったわけっすね」
ルーミア「万が一〈水晶玉〉が手に入らなくても、磨かれた氷像の一欠片でも見つかれば殺人は決行するつもりだったけどね。氷像の背中には尖った部分がたくさんあったでしょ? それさえあれば、八雲藍の寝首をかくことも出来ると思った。私は、武器さえあれば殆どのプレイヤーを仕留められる自信があるし」
レミリア「ごめん。もう突っ込ませて貰うわよ。八雲藍が運営だったら、私達プレイヤーと違って、能力の制限を一切されてないのよ? 仮に〈17人目〉だとしても、霊夢のように能力が不明。そんな相手に向かっていったら簡単に返り討ちにあうし、下手したら殺されていたわよ?」
ルーミア「え? だからなに? どんな能力を持っていたとしてもしくじらなければいい話だし、レミリアの言う通り運営で私が返り討ちにあっても、〈17人目〉が八雲藍じゃないことさえ判ればそれでいいじゃん。みんなの前で殺害予告を出す貴方よりはよっぽど納得しやすい理屈だと思うんだけど?」
レミリア「……私が悪かったわよ。それで? チルノと対峙した貴方は、彼女に対してどう反論したの?」
ルーミア「反論なんてしなかったよ。『つべこべ言わないで、凶器の場所を教えて』って言い放った」
ナズーリン「ほう……」
妹紅「私の知らない所で――そんなことがあったのか?」
ルーミア「当然断られたけどね。その後は――言い争いになった」
レミリア「言い争い?」
ルーミア「チルノちゃんに『無理だよ。ルーミアちゃんに〈水晶玉〉を渡したら、絶対に藍を殺しにいくつもりでしょ?』って言われたから、『だったらチルノちゃんが八雲藍を殺しにいけばいい』って返したんだ。そしたら『確証もないのに殺しに行くのは絶対におかしい!』って強い口調で言われたから、私も『だったらチルノちゃんは今日まで何をしてたの! 少なくとも私はゲームを終わらせるために動いていた!』って言い返しちゃった。その後もしばらく応酬が続いてさ」
青娥「……」
ルーミア「――私さ、うっかり口に出しちゃったんだよね。『妹紅のことだって死なない体だから物珍しがっているだけで、そこまで大切なやつだと思っていないんでしょ!』って。そしたらチルノちゃんに、『青娥みたいなやつに騙されてるルーミアちゃんが言うな! 文と勇儀を殺したのは青娥だ!』って言われて。なんだかそれが、すっごく頭にきて、『私がやってることが理解できないなら、お前はやっぱり駄目なやつだ!』……とか……そう言ったら……『一度誰かを殺そうとしたお前に説得力なんてない!』……って……言われて…………んぐ、ひっぐ……そして、わだじが……『お前はやっぱり馬鹿な妖精だ! そうやって独り占めしている氷に刺されて死ね!』……って……いっだら……『お前だって駄目な人喰い妖怪だ! 二度と妹紅とあたいに近づくな!』……って……ひっぐ、うぐ、うわあああああああああああああん!」
咲夜「――ルーミアさん!?」
ルーミア「わたし……チルノちゃんを殺したりなんかしてないもん……チルノちゃん、なんで殺されちゃったの……ひっぐ…えっぐ……うえぇ…」
青娥「ちゃんとわかっています。ルーミアさん。チルノさんを殺したのは決して貴方ではありません」
早苗「チルノさんとルーミアさんが最後に交わした言葉が――口論、だったんですね」
青娥「皆さん、あまり心配しないでください。一度私の目の前でたくさん泣いてますので。少し悲しみがぶり返してしまったみたいですね」
青娥「はい。DAY06の23時頃からずっとルーミアさんと会話をしていたと話しましたが、あれはルーミアさんを庇うための嘘です。ごめんなさい。実際には23:45頃に突然ルーミアさんが訪ねてきて、祭壇に関する一連の出来事について涙ながらに打ち明けてくれたので、私は聞き役に徹していました。日が変わる時にはお別れしましたが。霊夢さん、すみません。私とルーミアさんは議論台を少し離れますね」
青娥「さ、ルーミアさん。いっぱいお話して疲れたことでしょう。少し向こうの傍聴席で一緒に休みましょう」
ルーミア「……うん」
紫「飲み物でも用意する?」
青娥「ええ。出来れば二つお願いします」
咲夜「ルーミアさんの貴重な話は確かに頂けました。しかし、このままでは――」
早苗「どう考えても証言が足りないっすねえ。証拠品の中には今の話に全然出てきていない物もありますし」
こいし「うん。ぜーんぜんわかんない」
マミゾウ「一応訊いておくか。こいしは誰かがチルノを殺した瞬間を目撃しておるか?」
こいし「え? トラッシュルームとは全然違う所にいたから見てないよ? 今回の事件だって、みんなが捜査を開始してから後ろをついて回ってただけだし」
ナズーリン「まあ、他の証言が欲しい所だが、無い物ねだりも出来ないだろう。一度この状態から推理を始めるしかないのでは?」
てゐ「……ううん。もう十分だよ」
ナズーリン「何?」
てゐ「犯人の目星は、大体ついてる」
ナズーリン「なんだって!?」
魔理沙「誰だ!?」
てゐ「この中に一人、DAY06の行動にむちゃくちゃ怪しい所があるのに、一度も槍玉に上がってない奴がいるじゃん」
霊夢「……」
レミリア「……そうね。確かに一人いるわね」
てゐ「そうだよね。妹紅」
※二章考察(中編)に続く